第46話 激闘
――ジャリッ
護衛の一人が後退った音が合図になり、俺達は弾かれたように飛び出す。
ガキィンッ! と甲高い音が鳴り、俺の魔力刀を纏わせたナイフとフェリックスのバスタードソードが激しく斬り結ぶ。
「お前、ガキのくせになかなかやるな! 本当にガキか?」
「結構本気だったんだけどなッ……!」
鍔迫り合いの状態から、足元に衝撃波を放つことで一旦離れて間合いを取る。
「こんだけ強いヤツと当たるのは久々だなァ。おい、エセ商人。こいつ斬っていいか?」
「誰がエセ商人ですか。彼は殺してはいけませんよ。貴重な収入源なんですから」
「ああァ!? こんなに楽しい死合なのに我慢できっかよ! 死ねェ!」
「これだから冒険者崩れのバトルジャンキーは……」
「俺を差し置いて何の話をしてるんだ?」
無視されているようで少しムカついたので、エセ商人とフェリックスに数発ずつ衝撃弾を放つ。
「ッぶねぇ! ははっ、なんだそれ。見たことねェ技だ」
「ッ……!」
しかしフェリックスには当然のように防がれてしまう。こいつ、俺の衝撃弾を初見で見切って斬り捨てやがった。ご丁寧にエセ商人に向けて放った分もだ。
「初見で防ぐのかよ……」
伊達にA+ランクではないようだ。魔力自体はそこまで多く感じないが、剣技がずば抜けている。剣技だけならうちのオヤジよりも強いかもしれない。
「俺の二つ名は『風斬り』だぜ。風すら斬るから風斬りってんだ。覚えとけよ。まあもうすぐ死ぬんだけどな」
「なら俺も名乗っておくよ。俺にはまだ二つ名は無いけど、いずれ『北将』を継ぐ者だ」
「次期『北将』か。相手には不足ねえな。ちと若過ぎるのが惜しいとこか」
「……何を喋ってばかりいるんだッ。早く倒せ! この際手足の1、2本は気にしない!」
「本性が出たぞ、エセ商人」
先ほどの衝撃弾が地味に怖かったのだろう。エセ商人は慇懃無礼な口調すら忘れて口汚くフェリックスに命令する。
まあ実際、フェリックスが斬り捨てなければエセ商人はあれでお陀仏だった訳だからな。必死にもなるか。
「雇い主がご立腹なんでな。お遊びはこれまでだ。……次は本気でいくぜ」
「俺も出し惜しみはしないさ」
俺の十八番は何と言っても【衝撃】だ。北将武神流も修行はしているが、まだ俺の練度ではここぞという時の決め手に欠ける。ならば俺の出せる手は、膨大な魔力量に物を言わせた【衝撃】の飽和攻撃しかない。フェリックスの捌き切れる限界を超えて、強引に火力で押し切る。
「死ねガキ!」
「
フェリックスが恐るべき加速力で距離を詰めてくる。大振りな構えのようでいて、まるで隙の無い攻撃だ。体勢を崩せそうにない。このまま受けるのは危険だ。ならば。
「『衝撃連弾』ッ!」
俺は突き出した両手から機関砲もかくや、というほどの怒濤の『衝撃弾』を連発する。
――ズドドドドドドドッッ
「生温いぜェ! オラオラオラオラァ!」
エセ商人に攻撃を放っている余裕は無いので、全てのリソースをフェリックスに割いて、全力攻撃する。一発一発が35ミリ機関砲くらいの威力を秘めている『衝撃弾』だが、数十発という数を撃ち込んでもフェリックスはびくともしない。
「ッ、らァッ!」
使っているバスタードソードも相当な業物なのか、これだけの衝撃を受けても少しも刃こぼれしないようだ。
……拙いな。武器を破壊すれば或いは、とも思ったが、この調子では武器の限界が来る前に俺が斬られてしまう。
「だんだんッ、慣れてッ、きたぜ!」
もはや放水銃のように弾幕を張るが、フェリックスはその全てを斬り捨てて一歩ずつこちらに近付いてくる。
……仕方がない。あれを使うか。もう少し温存しておきたかったが……、これを続けてもいずれ負けは確実だしな。背に腹は代えられまい。
このままでは分が悪いと悟った俺は、『衝撃連弾』の分のリソースを少し足元に割いて、フェリックスと俺との間の距離をある程度犠牲にしつつ、最近開発したばかりの新しい技を発動した。
「(……『地雷原』!)」
「ぐあッ!?」
『地雷原』。足元から放った衝撃波を、地中を伝播させて遠くで炸裂させる技だ。直接敵に衝撃を与える技ではないからあまり威力は出せないが、体勢を崩すには持ってこいの技だ。
「『炸裂衝撃弾』!」
続いてまた新しく開発した、敵に命中する直前に炸裂して、物理的に斬り捨てることを不可能にする『炸裂衝撃弾』をお見舞いする。この技は普通の衝撃弾が直撃した時と比べて威力は若干落ちるが、その代わりダメージを確実に与えることが可能だ。
「ッがああッ!!」
どうやらこれはダメージが通ったらしい。流石にいくら「風斬り」のフェリックスと言えど、文字通り爆風を斬ることは難しかったようだ。さっきの「風すら斬る」発言は誇張だったようだな。
しかし、それでも奴は倒れなかった。身体のあちこちから血を流しつつ、狂ったような笑みを浮かべて立ち上がる。
……なんてタフさだよ、まったく。
フェリックスはゆっくりと立ち上がると、そのまま低姿勢を保ちながら地面を這うようにしてこちらへ駆け出した。
「っ、速い!」
意識の隙を突く攻撃だ。迎撃が追いつかない。抜かった!
「死ねェエエエエ!!」
さっきからフェリックスが「死ね」しか言っていない。流石に語彙が少ないと思う。
「こちとらまだ6歳なんだよ。死ねるかってんだ!」
そのまま近接戦になだれ込むが、奴の得物は両手で振り回す長いバスタードソードだ。対して俺の得物は魔力刀を纏わせた小さなナイフと、距離に制限の無い【衝撃】。奴の間合いの更に内側に潜り込めば、勝てない戦いではない!
「――『
全身の神経に魔力を流して反射神経を上げ、相手の反応速度を上回るスピードで舞い踊る嵐のように連続して攻撃をお見舞いする『嵐舞』。続いて、『嵐舞』で体勢の崩れたフェリックスに『
「……ッなめんなァァァアアア!」
「ぐわっっ!」
だがそれを食らっても尚、フェリックスは武器を手放さなかった。ありえない体勢から無理やりに剣を薙ぎ払うように振るってくる。
辛うじて『バリア』を払っていなしたが、数十メートル以上吹き飛ばされてしまう。
夜の街の上空を吹っ飛ばされている間に俺は体勢を整え、衝撃波を数度放ちつつ軟着陸するが……、これは随分と遠くに飛ばされてしまったな。
子供とはいえ、20キロ近くはある物体を何十メートルも吹き飛ばす斬撃とは空恐ろしい。これが『バリア』を介せず直撃していたら確実に俺は胴体の上と下で真っ二つにされていたことだろう。
「……流石は武神流か。やりにきィな!」
飛ばされた俺を追いかけてやって来たフェリックスが獰猛な笑みを浮かべながらそう言うが、しかし所詮は「やりにくい」どまりだ。奴の方が上手であることに違いはない。
「……A+ランクか。思ったよりキツイな」
まったくの互角か、あるいは奴の方が上か。今のところ俺の方がうまく立ち回れてはいるが、それも膨大な魔力でゴリ押ししているに過ぎない。
おそらく、素の実力はほとんど変わらないのだろう。むしろ、近〜遠距離の攻撃手段を持ったオールラウンダーの俺の方が、近距離専門のフェリックスに比べてやや有利とさえ言える。
ただ、現に奴には勝てていない。やはり俺には圧倒的に実戦経験が足りない。
「殺すには惜しい才能だなァ。だがそんな若い才能の芽を摘み取る瞬間が一番気持ちいいんだ」
「……バトルジャンキーめ」
罵ってはみるが、なかなか奴を沈黙させる手が思い浮かばない。まだ魔力残量に余裕はあるが、それもいつまで保つかはわからない。
……命を賭けた戦いがこれほどプレッシャーになるとはな。
齢6にして戦場の緊迫感を実感してしまうことになるとは、次期「北将」も楽ではないな、と内心で呟く俺だった。
……さて、どうやってこの状況を打開しようか。
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