第40話 回復魔法の修行


2020/5/8 第35話〜38話を大幅加筆、改稿しました。こちらを読む前にそちらから読んでいただけると幸いです。

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「いい? 回復魔法はいかに素早く的確に処置を施すかが命なのよ。のんびりしていたら治る前に死んじゃったりするんだからね」

「う、うん」


 俺は今、裏庭の訓練場で母ちゃんに魔法の指導を受けていた。普段は優しくてどこか天然気味なところのある母ちゃんだが、伊達に「新緑の聖女」と呼ばれていた訳ではない。魔法の指導になると意外とスパルタになるのだ。

 とは言っても、いきなり性格が変わって鬼教官になったりする訳ではない。普段ののほほんとした性格のまま、かなり難易度の高いことを普通に要求してくるだけである。褒めたり励ましたりしつつ、的確なアドバイスを過度な期待とともにくれるので、指導される側としても上達自体は早かったりする。その分こちらの精神が削られていくのだが、まあそれは魔法が上達することに比べれば些細な問題だ。


「でもハル君なら心配ないわ! だってまだ6歳なのにこんなに魔法が得意なんだもの」


 それは俺に固有技能【継続は力なり】があるからだ。天才でも何でもない俺が、何の理由もなくそこまで強くなれたりする筈がない。実際、俺は特に呑み込みが早い訳ではない。上達速度自体はその辺の人間と何ら変わることはないのだ。俺がここまで実力を伸ばすことができたのは、ひとえに優れた師匠とチート級の固有技能、そして類まれな俺の精神力によるストイックなまでの修行の積み重ねがあるからだった。


「無属性回復魔法は回復魔法の中でも一番ポピュラーな魔法だから、頑張って今日中にマスターしちゃいましょう! 大丈夫、ハル君なら余裕よ!」


 母の期待が重い。


「流石に一日じゃ厳しいんじゃないかな……」

「無属性回復魔法はDランクからA+まで存在しているわ。お母さんが使えるのはAランクまでね。生命魔法ならA+まで使えるんだけど」


 母ちゃんは俺の話など聞いちゃいなかった。というか俺への信頼が強すぎて、習得できない可能性など微塵も考えていないのだろう。


「まずはDランクから?」

「いえ、いきなりBからいきましょう」

「うおーっほい、マジか」


 いきなり2ランク飛ばしか。少々ハイスピード過ぎやしないかね。


「DランクとCランクの回復魔法はBランク以上の下位互換でしかないの。だったら最初からBランクに取り組んだ方が効率がいいのよね~。変な癖も付かないし」

「なるほどね」


 とは言ってもDランクはともかく、Cランクは決して低いランクじゃないんだけどな……。少なくともCランクの魔法が使えれば、冒険者や兵士としては一生食うに困らない筈だ。精鋭と名高い皇国軍の正規兵士でさえ、Dランクの戦闘力があれば入隊試験の合格は確約されていると言うのだから。


「さて、じゃあ早速修行に入りましょう! まずは基本中の基本、Bランクの『治癒促進』からね。これは患部に魔力を多く集めることで人体の持つ自然治癒力を促進し————」





 そんなこんなで半日が経過し、気が付けばいつの間にか日が暮れていた。


「つ、疲れた……」


 回復魔法の修行の繰り返しで体力は回復している筈なのに、何故かそこはかとない疲労感を感じるのは気のせいだろうか?


「回復魔法は体力と傷は回復させてくれるけど、魔力と気力は回復してくれないから~」


 言われてみれば然もありなん、だ。もし回復魔法で体力に加えて魔力や気力も回復するのだとしたら、回復役がパーティに一人いるだけで魔法使いは魔法を無限に撃ち放題だし、回復役も自分に回復魔法をかければ無限に回復し放題だ。そんな無敵なパーティがあってたまるか、という話である。もしそんなことが可能なら今頃とっくに世界は統一されているだろうし、人類の悲願である永久機関が完成するわけだ。まあその機関とやらは生身の人間なわけだけど。


「一応、生命魔法の中には魔力や気力を回復させてくれる魔法もない訳じゃないのよ。その代わり体力とか生命力を持っていかれるけどね」

「そんなうまい話は無いってことだ」


 何かを取れば何かを失う。そうやってうまくバランスが取れているんだろうな。


「それにしてもよく頑張ったわね~! 今日一日でほとんどマスターしちゃうだなんて。やっぱりハル君は自慢の息子だわ~っ」

「流石にちょっともう限界だけどね……」


 母の期待を裏切らないよう、必死になって朝から日が暮れるまでぶっ続けで修行に励んだおかげで、俺は『治癒促進』をはじめとして、『診断』、『殺菌』、『縫合』、『浄化』などの様々な無属性回復魔法を覚えることに成功していた。俺の2万8654もある規格外に多い魔力も、丸一日魔法を使っていたから流石に底を付きそうになっている。


「しかし本当に丸一日魔法を使っても平気とはな……。我が息子ながら末恐ろしいな」


 仕事を終えて様子を見に来たオヤジがそう言ってくる。


「いや、全然平気じゃないからね……。気を抜いたらすぐ寝そう」


 何故だかは知らないが、魔力が少なくなると疲労が溜まる。魔力がゼロになると気絶してしまうので、おそらく身体を守るための防衛反応なのだろうと世間では言われている。


「こうして普通に話ができている時点で充分規格外だ。これは、俺が抜かれる日も近いかもな」


 多分、今の俺がオヤジの7倍近い全魔力を込めて最大威力の衝撃波を放てば、オヤジを気絶させることくらいはできるだろう。ただ、それをやると俺も魔力残量0で気絶するし、あまりスマートな勝ち方でもないのでやらないだけだ。そもそもそんな隙の大きい攻撃をオヤジが食らうとも思えない。逃げに徹すれば負けはしないのだろうが、結局、今の俺ではオヤジに勝つことは難しい。


「さて、帰るか。そろそろ夕食だ」

「今日は何かしらね~」

「腹減った……」


 魔力は体内で圧縮・循環させて魔力回路を広げることで増えていくが、今日みたいに大量の魔力を使うことでも増やすことができる。要するに魔力回路を大量の魔力が流れて、回路が広がれば手段は問わないのだ。これだけ魔力を使ったから、またそこそこ魔力量が増えているだろう。

 魔力が増えたらまた明日からも修行だ。『盗聴』に『望遠視』にと、覚えるべき魔法はまだいくつもある。既存の魔法の改良や、【衝撃】の応用も考えたい。街の安全のために何ができるかを考えながら、俺は両親と一緒に屋敷に戻るのだった。





















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