第30話 外付け魔力タンク
メイの魔力補給問題。彼女の才能を伸ばすために、もっとも障害となるのがこの問題だった。
メイは鍛治、そして土属性の錬成魔法に関しては天才級の才能を秘めている。ただ、その才能を伸ばすための修行に必要不可欠な魔力量がそこまで多くないのだ。
魔力が少なければ、すぐにバテてしまって碌に修行時間を確保することができない。できるだけ早くメイの技術力と現代知識でウハウハチート生活を送りたい俺としては、彼女の足りない魔力をなんとか補う方法を探るのは喫緊の課題だった。
「うーん、順当かつ安パイなのはマナポーションだよなぁ」
魔力回復薬、あるいはマナポーションと呼ばれる薬品は、異世界ファンタジーに定番の魔力を回復する冒険者に必須の回復アイテムだ。
ただ、あまり多用すると効果が薄くなるし、何より健康によろしくないというのが欠点だ。他にも一般人なら資金が嵩むといったデメリットもあるにはあるが、資金がほぼ無尽蔵の俺に取ってはそれは問題とはならない。ただ、やはりメイの健康が気がかりだ。
マナポーションは、言ってみればエナジードリンクのようなものだ。薬品で肉体を無理やり魔力回復に適した状態に持っていき、早期の魔力回復を促す。それが魔力回復薬の基本理念である。
マナポーションにも二種類あって、一般に売られているマナポーションのほとんどがそのパターンだった。
もう一つ、魔力を水に溶かして魔力自体を身体に取り込むという薬もあるにはあるのだが、そちらはほとんど売っていない。何故ならたいへん危険だからだ。魔力は劇薬みたいなものだ。過ぎた魔力を身体に取り込んでしまえば、身体に馴染む前に魔力中毒症状を引き起こす。俺がメイに魔力を譲渡する際、波長を合わせたのにはそういう理由があったのだ。
「悩ましい……」
「どうしたんでありますか?」
工房を建設し終えてホクホク顔のメイが無邪気に訊ねてくる。いいよなぁ、子供は。難しいこと考えなくていいんだからさ。まあ俺も今は子供なんだけどさ……。
「いや、メイの魔力がな、こうやって魔法を使うにはイマイチ足りないでしょう。それをどうやって解決するかなやんでんだよな」
「ま力をふやすのにはじかんがかかりますからね〜」
まるで他人事みたいに言うメイ。俺はお前(と俺)のために考えているんだぞっ!
「は〜魔力充填用のコンセントでもありゃ話は別なんだろうけど……。……あ? コンセント?」
何か閃いた気がする。
「メイ自身に魔力が足りないなら、さっきの俺みたいに補ってやれる存在がいればいい……。それは別に人間である必要はないよな……? ……これはもしかして、外付けバッテリー的なのが作れれば解決するんじゃないか?」
現代知識に感謝すべきだな。日本に生きていなかったら、この発想は出てこなかっただろう。
外付け魔力バッテリー。これで行こう。
「メイ、ちょっと街に出掛けよう」
「お出かけでありますか!?」
「買い物を少しね。いいことを思いついたんだ」
「いぇー!」
俺はメイを連れて街へと赴く。公共地区、高級住宅街を超えて、市場通りをも通り過ぎる。
「メイ、商業地区ってどっちだっけ」
今から行こうとしているのは、魔道具や錬金術の素材、工業製品などが売っている商業地区だ。市場通りは食品と手工業製品の販売が主な地区なので、日用雑貨や家具、家電(この世界だと家魔?)を買うには商業地区に行く必要がある。メイの実家は鍛治工房であって武器屋ではないので、品卸し先の商店を知っているのではないかと踏んだのだ。
「それならあっちであります!」
メイは中央広場の方へと歩いていく。なるほど、中央広場は文字通り街の中心部にあるからな。中央広場に出れば基本的に街のどこへでも行けるという算段だろう。
「うーん、たしかあっちです」
中央広場に着いた俺達は、些か不安なメイの言葉とともに南側へと歩いて行く。確かに大通りが通っていて活気も一番あるようなので、こっちのような気はする。
「あ」
中央広場から各方面に伸びる道の始まりには、ちゃんと矢印型の看板と通りの名前、方角、そしてこの先の地区の名前が書かれていた。
『アーノルド通り』『商業地区、こちら』
どうやらこっちで間違いないようだ。
✳︎
「ついたであります」
「おお」
数十分ほど歩いて、俺達は商業地区へとやってきた。服屋や陶器売り、雑貨屋、魔道具店などが所狭しと軒を連ねている。武器屋もちらほらあるようだ。
「さてと、魔石を売っている店に行こう。錬金術の素材を売ってる店でいいのかな?」
「たぶんそうですね」
俺達は素材屋を探して歩いていく。
「『マーレ服飾店』、『スタンリー魔道具店』、『アルス錬金工房』……。ん? 錬金工房がこんなとこにあるんだ。工業地区じゃないのになぁ」
「れん金じゅつはオーダーメイドの依らいもおおいでありますからね」
「へぇ……なるほどね〜」
そんなことを話しながら歩いていくと、ようやくそれらしい店を見つけた。
「『素材屋ブラック』。ここだな」
鉄や木などの素材の絵が描かれている看板を通り過ぎて、木の扉を開ける。カランカラン、と音を立てて扉が開いた。
「いらっしゃい」
中には40代くらいのおじさんがいて、店の奥に座っていた。
「なんだ、お前達二人だけか」
「うん。そうだよ」
「金はあるのか? ここにあるのはまあまあ高いぞ」
「大丈夫だよ」
「そうか。ならゆっくりしていけ」
まあ子供が二人だけなら普通、不安に思うだろうしな。早く大人になりたいものだ。
「おっちゃん、魔石ない?」
「魔石? 魔石なら右の棚だぞ」
「ありがと」
右の……おっちゃんから見て左の棚を見ると、サイズごとに分かれて魔石が籠に入れられていた。
「おお、いいね。どれどれ……?」
「きれいでありますなー」
まずは最低ランクの魔石から見ていく。一つ1500エルくらいだ。まあゴブリンの魔石の買取額が1000エルくらいだから妥当な価格だろう。
俺は集中して、魔石の中にある魔力量を調べてみる。
「……メイの4分の1くらいか」
まあまあ容量はあるようだ。ただ、日用品の魔道具を起動させるには十分だろうが、メイの魔力を補うには少々足りないだろうな。
次に隣のワンランク上のものを見てみる。こっちはDランクの魔物の魔石が多いようだ。魔力量はメイの2分の1くらいで、値段は4000エル。このあたりからやや高くなってくる。
その隣にはCランクの魔物のものと思しき魔石が並んでいた。これより高いランクのものは置いていないみたいだ。
「高ランクの魔石は店の奥にある。盗まれると嫌だからな」
「なるほど」
魔石は小さいからな。目を盗んで盗む奴もいるんだろう。
「Cランクの魔石は……。おっ、これはいいな」
今度はメイ一人分くらいの魔力量はありそうだった。値段は一つ1万エル。やや高いが、妥当なラインだ。比較的この店は良心的な価格でやっているようだ。
「おっちゃん、このCランクの魔石を20個ほどちょうだい」
「おいおい、随分と高くつくぞ。大丈夫なのか?」
「現金一括払いで」
「……ボウズ、やるじゃねえか。毎度あり!」
おっちゃんがCランクの魔石を20個見繕って箱に入れてくれる。
「あー、魔力タンクの外側のケース作らないとな」
中身の魔石だけ買っても、剥き出しでは悲しいだろう。
「あ、これいいな。メイ、これ何かわかる?」
「アルミニウムだとおもいますが」
「嬢ちゃん、やるな。その通りだ」
アルミなら軽いし持ち運びにも向いているだろうから、これにしようかな。
「おっちゃん、アルミも2キロほどちょうだいな」
「おう、沢山買ってくれたからな。そっちはサービスしてやる。また来てくれよ」
「気前がいいね〜!」
こうして俺達はメイ20人分の魔力を秘めた魔石と、バッテリーの外箱になるアルミニウムを手に入れた。帰ったら魔力バッテリー作り、早速開始だ。
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