第28話 ランタン遺跡、後日譚
「何? ランタン遺跡が?」
「うん、ハイトブルクのギルマスには話を通しておいたから、あとは父さんが正式に手続きしてくれれば終わるよ」
帰ってからオヤジにランタン遺跡の件を話すと、オヤジはかなり驚いた様子だった。
「いつか大きなことをしでかすとは思ってたが……予想以上に早かったな」
「なんだかまるで悪いことみたいに言うね」
「まあ、悪くはない上に、むしろ領主としては大歓迎なんだが……。この調子で色々やらかしてくれると仕事が増える一方だと思ってな」
「まあその辺は部下の文官にでも押し付けちゃえばいいんじゃない? 給料良いんでしょ」
「まあ我が領の文官の俸給は皇都や宮廷並みに高いから、それでも構わないんだろうが……。人間、働き過ぎると身体を壊すんだぞ」
「人が足りないならもっと採用すればいいのに」
「簡単に言ってくれるな……」
雑談を踏まえつつ、重要な話はしっかりと伝えた。これでランタン遺跡に関しては心配ないだろう。オヤジも
まあ当たり前と言えば当たり前だ。優秀でなければ北将なんぞやっていられないだろうしな。
そんなこんなでランタン遺跡、埋蔵資源騒ぎは収束することになった。
✳︎
「これがハル君の取り分になるわ。あと荷車ね。森の前に置いたあったのを職員が持って帰ったの」
数日後、ギルドを訪れた俺を待ち受けていたのは、目を疑う量の金属塊の山と、愛すべき俺の荷車だった。
「こんなんよく持って帰ってきたね……」
「重労働だったらしいわ……。ギルド職員総出でも到底追いつかないくらいだって。ハイトブルクの兵士と冒険者がたくさん加わってなんとか運んだらしいわ」
「そこまでくると盗まれないように管理する方が大変そうだ」
「そこは信頼の置ける人間を集めた上で、ちゃんと数えてから運搬したらしいから問題なかったそうよ」
「それは有能」
日本の経営者達にも見習ってもらいたいものだ。
「でもこんなに大量の金属なんて、持って帰れないよ」
「一応、ギルドの方で荷馬車を手配してあるから、それで領主様の館まで届けさせてもらうわ。警備も万全だから安心して」
「あっ、そこは自分で運ばなくてもいいのね。助かった〜」
「あと、これは仕方のないことだから受け入れて欲しいんだけど、遺跡から館に持っていくまでの運搬にかかった費用はインゴットの山から天引きさせてもらったわ。事後承諾でごめんなさいね」
「あー、まあそれは仕方ないよ。現金で払える訳でもないし」
むしろ有り余るインゴットの山からほんの少しだけ出すだけで運んでくれたのだから、ありがたいくらいだ。
「それと、今回の依頼達成を以ってハル君はDランクに昇格したわ。おめでとう。過去最速クラスよ」
「えっ、もう? Dランクの依頼は一回しかやってないけど」
いくら大きな功績だとは言え、依頼自体はDランクに違いないと思うのだが。
「ギルマスの意向よ。ハル君みたいな優秀な人材を低ランクで遊ばせておくのは勿体ないんですって」
「あー、なるほど……」
あのギルドマスターなら言いそうだ。
「それに、見つかったのはあのインゴットだけじゃなかったのよ」
「ええ?」
まだ何かあったと言うのだろうか。
「あの遺跡、まだ鉱脈が生きてるみたいで、坑道の奥から膨大な量のミスリル資源が発見されたの」
「へぇ……、それは驚いた」
「ランタン遺跡は領主のファーレンハイト家が正式に所有することになったから、これからは辺境伯領が潤うことになるわね」
「ゴールドラッシュならぬミスリルラッシュだ」
これがきっかけで経済発展したら面白いな。俺が歴史的好景気の火付け役になるわけだ。
「あーあ、私の給料も上がらないかしら」
受付嬢ことサリーさん(この前、名前を教えてもらった)がチラリと俺を流し目で見ながらそう呟く。
「ギルド職員の給料システムってどうなってんの?」
「所属する課によっても違うけど、受付嬢の場合はどれだけ優秀な冒険者を担当できるか、かしら? 担当してる冒険者がギルドに貢献すればするほど受付嬢の評価も上がっていくスタイルね」
サリーさんが俺を流し目で見ていた理由がわかった。
「なるほどねぇ……。それじゃ、早速依頼でも受けてこようかな」
「ええ、頑張って」
いい笑顔になったサリーさんと別れて、俺はそのまま依頼ボードに向かうことにした。さて、今日は何の依頼を受けようかな。どうやら俺は期待の新人らしいしな。
✳︎
次の日。大量の貴金属インゴットを手に入れた俺は、久々にメイの家に出向いていた。
こうして鍛冶屋町までの道を歩いていると、数日来なかっただけなのに随分と久々に感じるな。相変わらず道行く人々は多いし市場通りは活気に満ちているが、前回には無かった商品や食品が並んでいたりして、この世界の経済も絶えず回っていることを強く実感させられる。
「おっちゃん、串焼き四つちょうだい」
「おっ、坊ちゃん太っ腹だね。ちょっとサービスしてやろう」
ここを通る度に串焼きを買っている屋台のおっちゃんに話しかけて、いつもより多めのお金を払う。おっちゃんはちょっとだけ大きめの串焼きを選んで渡してくれる。
「ありがとう。いつもご馳走さん」
「毎度あり!」
もう一生働かないでも豪遊して暮らせるだけの資産を偶然の巡り合わせで手に入れてしまった俺にしてみれば、串焼きを何本買ったところで財布に響くことはない。この通りの露天商の商品全てを買い占めたところで支出の割合は微々たるものだろう。
流石にそんなことをしたら困る人が出るだろうから実際にやりはしないが、今後買い物で値段を気にする必要がなくなるというのは非常に大きなメリットだ。
ブラックカードを持っている人の気持ちってこんな感じなんだろうなぁ、と思いながら串焼きを頬張って活気ある道を歩いていく。
数分歩いている内に、もう随分と馴染み深い鍛冶屋町へと辿り着く。鍛冶屋町をそのまま進んで、何ブロック目かに現れた比較的大きめの工房。それがメイの実家、アーレンダール工房だ。
「メイー、いるかー?」
表通りからメイのあるであろう二階に向かって呼び掛ける。一瞬の
「いま行くであります!」
毎度恒例の「ドタタタタッ」という階段を駆け下りる音を響かせて、玄関から飛び出してくるメイ。
「おひさしぶりでありますぅぅ!」
「ぐえっ」
そんなに離れてはいないと思うのだが、やはり数日はメイにとっては非常に長かったらしい。飛び出してきたメイに思いっきり突進されてしまった。
「メイ、はいこれお土産」
取り敢えずこのままでは苦しいので、メイを引き剥がして両手に串焼き肉を握らせる。串焼きには勝てないのか、俺に抱きついていたメイはあっさりと離れてお肉をもぐもぐし出した。
「実はこの数日で大量に金属を手に入れたんだ」
「ほお、ひんほくえあいあふか」
「食べ終わってから話してね」
俺はお行儀の悪いメイに注意を促して、そのまま続ける。
「金属って言ってもただの金属じゃないんだ。知ってるかな? ミスリルとオリハルコンだよ」
「みふいう! おいはうほん!」
「わかった。俺もしばらく黙ろう」
言っても聞かないので、俺もメイが食べ終わるまで大人しく黙ることにした。
「もぐもぐ……ごちそうさまでした!」
「はいどうも。んで、ミスリルとオリハルコンって知ってる?」
あの反応からして、おそらく知ってるだろうとは思うのだが。
「もちろんであります! ミスリルはかじ師にとってはとても大切なきんぞくなのです。オリハルコンも伝せつのきんぞくとしてドワーフたちのあいだではゆうめいなんでありますよ!」
「へえ。有名なのは人族の間だけじゃなかったんだな」
「で、メイには早速うちに来て欲しいんだ。前に話した秘密基地の工房を作っちゃおう」
「行きます!」
「よっしゃ」
俺はメイを連れて家へと戻る。その間、俺は毎度のごとくメイに手を繋がれたまま、にぎにぎされ続けていた。道行く人々が微笑ましいものを見る顔で見てきたのは、精神年齢が成人の俺にはなかなかに恥ずかしかったとだけ言っておこう。
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