最後の変身

 体育館を飛び出した秀幸は校庭を走る。ひたすら目的地を目指して、彼を待つ者達の場所を目指して力の限り走っていく。


 秀幸の行く手を阻む者が目の前に突然現れる。


「と、父さん!どうしてここに!?」目の前に立っているのは秀幸の父親であった。彼は子を心配して激怒する父親の顔になっている。秀幸は父がここまで怒りを露わにしている所を見たことがなかった。彼は子煩悩であまり叱ったりしない父親であった。


「この非常時にお前は一体何をやっているんだ。体育館で大人しくするように言われているんじゃないのか?」父は低い声で諭す。いつもの陽気な父と違う雰囲気で秀幸は少し後ろにたじろいだ。


「父さん、俺には、俺には守らないといけない物があるんだ!」秀幸が父にこんな強い口調で話すのは初めての事かもしれない。父も息子のこの反応に少し驚いた様子であった。


「それは、お前にしか出来ない事なのか?お前がやらないといけない事なのか?」父の口調は相変わらず低いものであった。その瞳は秀幸の目を強く見つめている。まるで自分の覚悟を試されているようだと秀幸は感じた。


「父さん!俺の事を信じてくれよ!俺にしか出来ない事があるんだ!そして俺にしか守れないものがあるんだ!」秀幸は強い口調で言い放った。それは心からの叫びの声であった。父はその言葉を聞いて、自分の息子が大人に成長したのだと少し嬉しくなった。


「解った。お前の守りたい物は俺が守ってやる!だから、お前は母さんや友達を守るんだ」父は上着の内ポケットに手を差し込んだ。その顔は何かを決意したような表情が見えた。「お前は私の知らない間に、優しく強い男に成長したようだな。そのやさしさを失わないでくれ。弱いものをいたわり、互いに助け合い、誰とでも友だちになろうとする気持ちを失わないでくれ。その気持ちが何百回裏切られようと」父は秀幸の頭を優しく撫でた。


「何を訳解らない事を言っているんだよ!どうして父さんが……、普通のサラリーマンの父さんに一体何が出来るんだよ!」罵声を浴びせるように噛みついた。



「私には出来る。出来るんだよ」先ほど内ポケットに差し込んだ手を出した。手には何かが握られている。


「父さん……?」秀幸の頭の中が混乱する。


「私はお前達を守ってやることができる!それは私がミラクルワンだからだ!!!」父はそう告げると黄色いメガネを自分の目に当てた。


 その途端、父の体は大きく膨らみ巨人の姿に変身した。


「まさか……、父さんがミラクルワンだなんて……」秀幸は地に両ひざをついて呆然と巨人の姿をみつめた。

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