エール

 宇宙人アブールの女王アブーが宣告した日がやって来た。この日は、尼崎市の南側、国道2号線を挟んだエリアの会社は一斉に休業となった。そして南側の居住する人々も指定された国道2号線より北側に避難している。もちろん小学校、中学校、高校などの教育機関も昼を前に休校している。2号線の北側にある秀幸達の学校も今回は授業を午前中で切り上げて、最寄りの学校の体育館に避難している。今回の襲来においては、学校に生徒だけではなく近隣の住人達も非難していた。さすがに人々でひしめき合って身動きが取りにくい状態である。


「大丈夫なのかな?」小さい男の子供が不安そうに震えている。


「大丈夫よ。きっとミラクルワンが、みんなの事を守ってくれるわ」母親らしき女性が子供の手を握っている。男の子の片手にはミラクルワンのビニール人形が握られている。


「そうだね!僕のミラクルワンが怪獣を退治してくれるよね」男の子は瞳を凛々りんりんと輝かせていた。



 ドカーン!!


 怪獣の攻撃が始まったようで建物が破壊される音が響き渡る。


「俺、行かなくちゃ!」秀幸が立ち上がる。嵐山達がその姿を見て歓声を上げる。


「おい!お前達一体何しているんだ!」教師が体育館を出ていこうとする秀幸の行動をはばむ。「お前また勝手な行動をして、その行動がみんなに迷惑をかけているとは思わないのか」激しい口調で教師は怒りを露わにする。それは、本当に生徒に身を案じた心からの声であろう。


「俺、行かないといけないんです!」その制止を退けて秀幸は出ていこうとする。

 彼には絶対に行かねばならない場所があるのだ。そして彼の到着を心から待つ者たちがいる事を彼はそれを自覚している。


「豪!俺達にまかせろ!」嵐山と数人の男子が教師を羽交い締めにする。秀幸はその行動を見て驚く。なぜ嵐山達が自分の行動を後押ししてくれるのか不思議であった。


「お前達!なにを……!?」教師は目を白黒させる。まさか他の生徒達に邪魔をされるとは思っていなかったのであろう。彼の背後はがら空きであった。


「皆……」秀幸は薄っすらと涙目になり力いっぱいガッツポーズを見せた。彼は勢いよく体育館を飛だした。


「豪!頼んだぞ!!」嵐山が大きな声でエールを送った。


「豪!!」


「豪!!豪!!豪!!」秀幸の事を称賛するかのように豪コールが体育館の中を響き渡った。


「な、なんなんだ!お前らは!?あほなのか!!!」羽交い絞めにされながら教師は絶叫を上げた。

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