女王アブー

ある昼下がりの午後、それは突然宣告された。


「私はアブールの女王アブー。地球人よ、降伏しなさい。私達は地球人の死を望んではいません。アブールの傘下に入るのです。7日後の正午、兵庫県の尼崎市の国道2号線より下のエリアに怪獣を投下します。一匹ではありません。ミラクルワンの短いスタミナでは怪獣達を倒すことは不可能でしょう。」みずからをアブーと名乗った女は、淡々とした口調で語った。


 宇宙人アブールの女王というアブーが初めて姿を表した。


 顔や姿が解からないようにイスラム女性のように白いヒジャーブのような布が掛けられているが、意外にもその姿は地球人と良く似ているようである。その出で立ち、振る舞いから気品と美しさを感じさせる。

 ちなみにイスラムの女性が肌や髪を隠すのはそれが「美しいもの」だからで、その美しい部分は「大切な人だけに見せる」ということだそうだ。


 彼女のその姿は空中に写し出された立体映像のようであった。どうやら、全世界への見せしめに尼崎の南側を滅茶苦茶にする計画のようだ。

 なぜ、いつも尼崎市という場所をターゲットに選ぶのかは誰にも理解できないそうだ。

 科学者や地理学者達は、尼崎市という場所に何か宇宙人達が欲しがる鉱物や資源が埋蔵されているのかと調査をした時期もあったそうだが、それらしきものが発見されたという話は聞かない。


 ちなみに、尼崎市という場所は兵庫県に位置するはずなのに、電話番号は大阪の局番である「06」。車のプレートナンバーは人気のある「神戸」ナンバーと、中々のしたたかさを兼ね備えた町である。イソップ寓話の「卑怯ひきょうなコウモリ」を連想させづにはおれない。


「畜生!好き勝手な事を言いやがって!!」秀幸は自分の拳を手のひらに打ち付けた。

 生まれた時から尼崎市に暮らす、秀幸達にとってはそれでも唯一無二の町なのである。


「あんな事を言っているけど、きっとミラクルワンが助けてくれるさ!そうだろ?なっ豪!」嵐山は秀幸に確認でもするように聞いた。


「そうだな!きっとミラクルワンが……」秀幸はポツリとつぶやいた。

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