第68話


 「おい、どういうことなんだ?」


 「どうもこうも、本人が後方にいるって言ってるんだからいいんだろ」


 (聞こえてるぞ~~)


 文字通り、行軍の一番後ろで、礼二は大鎌を担ぎながら歩いていた。その様子を、心配そうにミリナが見ている。


 「おい、皆!」


 先頭を歩いていた天使が、大声で行軍を止めた。


 「どうした?」


 「なにか見つけたの?」


 「俺の探知魔法に引っかかった。たぶんエルフだと思う」


 「OK。皆、戦闘準備だ!」


 (それなりに連携は取れてるんだな・・・・・)


 団体で戦ったことがない礼二は、その様子を興味深そうに眺めている。ミリナの視線に気づいていながらも、手を出す気は毛頭なかった。


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 「向こうが、おとりに引っかかったようです!」


 「よし、各員散開! 念話による連絡を取り続け、同じタイミングで仕掛ける!」


 「「「「「はっ!」」」」」


 ダークエルフの中でも、精鋭と呼ばれ、部族の存続を背負っている彼らの表情は、決して軽いものではなかった。


 エルフはパワーはなくとも、瞬発力とスピードに自信がある。


 (正面からやり合えば負けるが、暗殺なら俺らのほうが上だ!)


 木の葉一枚揺らすことなく、彼らはゆっくりと天使たちとの距離を詰めている。


 (あと500m)


 (・・・・あと300m)


 ダークエルフたちの手が、真っ青な刃のナイフを握り締めた。

 

 (あと100m)


 口元の布に、じっとりと汗がにじむ。


 (あと20m)


 -------------------------


 「皆、気を引き締めよう!」

 

 天使たちが、緊張しながら茂みに目をこらしている。


 (いや、引き締めるも何もすぐそばにいるじゃないか)


 その後ろで、礼二は大鎌の柄に手をかけていた。確証があるわけではないが、殺気だけが肌を刺すように伝わってくる。


 「上だ!」


 ようやくダークエルフの存在に気付いた先頭の男が、上を見上げながら叫んだ。


 ザザザッ!


 かすかな音と共に、ダークエルフたちが降りてくる。今までの敵とは違い、無言で刃を構えていた。


 「スキル-灰燼に帰せ、不死鳥!」


 「スキル-氷結の吐息」


 「スキル-石化!」


 ナイフしか持っていないエルフたちに、天使は容赦なくスキルを使う。どう考えてもオーバーキルなのにもかかわらず。


 「み、皆さん、もう少し後のことも考えて・・・・」


 「うるさい!、邪魔だ!」


 ミリナの忠告も、ダークエルフを、生物を殺しているという快感の前では、なんの意味もなかった。


 (・・・・・・・・まずったな)


 ※次回更新 7月26日 日曜日 0:00

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