第63話


 「で、デスナイトをお作りになった方です!」


 「・・・・・ああ、あの妙に硬いだけの人形か。それならそうと、最初からそう言え」


 「はっ!、申し訳ございません!」


 「もうよい。下がれ」


 「はっ! 失礼いたします!」


 不死王と名付けられて喜んでいたのに、主人魔王はそのことをかけらも記憶しておらず、あげくに自分の作ったもののほうが認知度が高い。


 死んでも死にきれないとは、このことであろう。


 「これは由々しき事態ですぞ!」


 「そうだそうだ!」


 「兵の動員を急がせなければ」


 「いや、それよりも兵糧の準備を」


 「いやいや。城の防備を固めるほうが先決だ!」


 つまらなそうな魔王の前で、座っていた魔族が論争を繰り広げだした。魔王はといえば、あくびをかみ殺している。


 しばらくボンヤリと今夜の夜伽相手を誰にしようかと考えていると、無粋な声が聞こえてきた。


 「魔王様! いかがなさいましょう?」


 「んあ?・・・・・・・・すまん。もう一度言ってくれ」


 見た目も放っている威圧感もケタ違いなのに、魔王の表情には緊張のかけらもなかった。


 「ですから! 勇者を迎え撃つか、籠城するか。ご決断を!」


 「「「ご決断を!」」」


 (うるさいな、こいつら。消しちまうかな)


 まるで目の前にたかってくるハエのように部下を見下ろした魔王は、しぶしぶ指示を出した。


 「籠城覚悟で、こちらから仕掛けろ」


 「「「「「了解いたしました!」」」」


 (今ので通じるなら、俺の指示なんざいらないだろ)


 魔王にとって、天使たちなどどうでもよかった。大体、来るたびに影武者を立てて、適当に殺させ、自分を悠々自適に魔王城で暮らす。100年ほど経つと、力をつけた魔族が魔王城に乗り込んできて、魔王を見つけ、人間を殲滅するために担ぎ上げる。


 何度も何度も繰り返している負のスパイラルだった。当初は人間を殺すのも楽しかったが、だんだん飛び散る血も、はみ出す内臓も、耳をつんざく悲鳴もいい加減あきてきていた。


 「では、我々吸血鬼族はこの森で待機をして・・・・・」


 「いやいや。我々獣人族こそ森には慣れておりまする。、それにですな・・・・」


 「それもそうですが、兵糧を・・・・・」


 「それはわが一族が・・・・・」


 (そんな対策をしても、お前らごときじゃ止められないというのに。ご苦労なことだな)


 荘厳な雰囲気とは、裏腹に、ブラック企業の平社員のような目つきでどんよりとしている魔王は、気だるげにため息を吐いた。


 「・・・・・・はあ、」


 ※次回更新 6月28日 日曜日 0:00

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