第64話


 「・・・・・・・・」


 ミリナに連れられた天使たちは、魔王城付近の森に足を踏み入れていた。魔王領は基本未開拓の土地で構成されているので、あまり代わり映えのしない風景ばかりが続いている。


 ガアッ!


 短い咆哮とともに、二本足で獣が飛び掛かっていった。天使たちは怯えながらも、手をかざして詠唱を始めるが、とうてい間に合うものではない。


 爪を振り上げたその獣は、飛び散るであろう血しぶきを想像して頬をゆがめた。その数秒後、予想通りに飛び散る血が視界いっぱいに広がる。


 「あ、れ・・・・・?」


 「ったく、なんで攻撃じゃなくて防御みたいなことしなくちゃいけないんだ」


 いつの間にか、目の前に立っている天使が大鎌を担ぎながらぼやいている。その後ろには、先刻切り裂いたはずの天使がへたり込んでいた。


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 礼二は、血に濡れた鎌を担ぎなおし、を眺めていた。


 (今度は、獣人間か。厄介だな・・・・・)


 純粋な身体能力で天使たちよりもはるか上を行くであろう、彼らをスキル頼みの天使が倒せる確率は相当低い。


 (そもそも、攻撃のタイミングが違いすぎるしな・・・・)


 さらに、周りの木々が獣人たちの動きに合わせてザワザワと音を立てる。どこに、何匹ほどいるのかさえ、つかめない。


 「対処法はあるがな・・・・・」


 「れ、レイさん・・・・・・」


 ミリナが遠慮がちに助けを請うような視線を送ってくる。が、礼二はそんな彼らには目もくれない。


 「お前らは自分たちの防御にだけ気を使っていたらいい。それすらできないような奴にはかまってられない」


 わざと突き放すように言った礼二は、足元に転がっていた獣人の頭に足を置いた。


 その瞬間、周りを駆け巡る獣人たちの殺気が強くなる。


 (短絡的な奴らで助かったよ)


 足に力を入れ、わざと頭蓋骨を砕いてしまわないように、グリグリと地面にめり込ませる。


 周りの殺気がさらに強くなる。


 「・・・・・・・きっさまあああああああああ!」


 突如、女らしき声が森に響き渡り、礼二に白い影が飛び掛かってきた。


 (女のほうが感情的だという説は、人外にも適応しているんだな)


 緊張感のないことを考えながら、礼二は大鎌を握り締める。


 「死ねええええええ!」


 大きく開けられた口と、鋭そうな牙をにらむように見た礼二は素早く数歩下がり、ギリギリ大鎌が届く間合いに達した瞬間、無造作に斬撃を放った。


 感情的になっている奴は、大体相手の視線と武器に目がいってしまい、他の動きに気づきにくい。例えば、かすかな間合いのひらきとかに。


 空を切った牙は、口内で火花を散らし、滑り込むように決まった斬撃は胴体を真っ二つに裂いていた。


 ※次回更新 7月1日 水曜日 0:00

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