第57話


 部屋でくつろいぎながら、魔王戦のイメージトレーニングをしていると、ドアがノックされた。ため息交じりに開けると、そこには案の定美空が立っていた。


 「なに?」


 「昼間話した件なんだけど」


 「・・・・・まあ、入りなよ」


 しぶしぶ中に入れ、椅子をすすめ、礼二はベットに腰かけた。すると、美空も隣に座ってきた。


 「・・・・・・・」


 「それで、提案ってのはね。私とバディ組んでほしいの」


 「バディって?」


 「戦うときのペアみたいなもの。ほら、誰が誰を支援するとか、そういうのを決めてるの」


 (几帳面だなあ・・・・・・・好きに戦えばいいじゃないか)


 個人の能力しか考えていない礼二は、めんどくさそうな顔でうなずいた。


 「それで、才記くんと組んでたんだけど、彼来れなくなっちゃったでしょ。だから、組んでくれないかなって」


 「俺の前に立たないという約束ができるんなら、いいよ」


 (鎌にもあんまり慣れてないし。うっかり斬っちまうと後が怖い)


 「うん。それでいいよ。よろしくね」


 「ああ、よろしく」


 これで話も終わりだろうと思っていたが、ふいに美空が礼二の肩に頭をのせてきた。体をビクッと震わせた礼二が、反射的に殴りそうになる腕を抑え、やんわりと距離を取った。


 「・・・・・・私ね、怖いの」


 上目遣いで見つめてくる美空から顔をそらした礼二は、小さく口を開いた。


 「もう寝るから」


 「・・・・・・話、聞いてくれないの?」


 「俺はただでさえ他の奴らによく思われてない。だから、もう帰ってくれないか?」


 「でもさ、っ!」


 それでも居座り続けようとする美空に向けられた礼二の視線は、敵意丸出しであった。その冷たく、荒々しい視線は目から入って美空の脳内を掻きまわし、心臓を貫いた。息が詰まり、思わず体を九の字に曲げる。


 今まで獣相手にしか戦ってこなかった美空が初めて体験する、憎しみの炎がまったくない、殺気の刃であった。


 「く、か、はっ!」


 苦しそうにせき込む美空を一瞥して、礼二は冷たい声で言った。


 「話は終わりだ。悪いけど、お前の愚痴を聞いてられるほど余裕はない」


 礼二が目をそらしたことで重圧から解き放たれ、美空は息を荒くした。が、うつむいた視界に映る礼二に恐怖を覚え、逃げるように部屋を後にした。


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 (素人相手に殺気まで使ってしまった・・・・・・焦ってるのか、俺は)


 美空が去った後、ベットに転がって天井を見つめながら礼二はボーっとそんなことを考えていた。


 そんな思考の中でも、魔王戦でのイメージトレーニングは怠らない。


 ※次回更新 6月7日 日曜日 21;00

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