第46話


 次の日、礼二は訓練場での朝練に加わり、朝食を終えて、部屋で休んでいた。


 (騎士団の連中は皆、さっぱりしてていいな。なんの打算もなく話せる)


 部屋でストレッチをしながら、そんなことを考えていた。すると、部屋のドアが叩かれた。


 「誰ですか?」


 「小栗美空だけど、今いい?」


 (・・・・・またか)


 拳を引き絞りながら、ドアを挟んで会話を続ける。


 「何の用?」


 「えっと、才記君のことで相談があるんだけど、いいかな?」


 ドアを開ければ、おそらく小首をかしげて表情を作っているであろう彼女を想像し、若干うっとうしく思いながらも、答えた。


 「あいつがどうかしたのか?」


 「えっとね、私、彼に脅されてるの!」


 「・・・・は?」


 「だから脅されてるの。俺が勇者なんだから、従えって」


 「・・・・入っていいよ」


 礼二はドアを開け、彼女を中に入れた。彼女は瞳いっぱいに涙をためていた。


 「ありがとう・・・・・」


 「・・・・・まあ、座りなよ」


 部屋のソファをすすめて、自分も腰かけた。


 「で、脅されてるってどういうことなんだ?」


 「えっと、俺が勇者だから従えって言われて、無理やりされて、逆らうと、そのことばらすって、言われて・・・・・」


 美空はわざとつっかえつっかえ、どもりながら話した。


 「そっか。それで、なんでそのことを俺に?」


 (才記がそんなことしてたのか・・・・・)


 礼二が自分の言っていることを信じていると悟ったのか、美空はさらに畳みかけた。


 「みんな勇者様って、彼を祭り上げてるから誰にも言えなくて。それで、唯一彼を倒した礼二君ならって・・・・。迷惑、だった?」


 「いいや、大丈夫だよ」


 さらっと名前呼びをしていたことも、彼女の策略のうちなのだろう。その手のことに疎い礼二には気づきようもないが。


 「なるほどね。それでさ、小栗さんは俺に何をしてもらいたいの?」


 (来た!)


 内心ほくそ笑みながら、美空は話を続けた。


 「彼も魔王のことで頭がいっぱいだと思うの。それに、魔王を倒すまでは関係を混乱させたくないし。だから、魔王を倒し終わったら才記君と話しをするから、同席してもらえないかな」


 「それぐらいならかまわないけど、今なにかしなくていいの?」


 「うん・・・・・。ちょっと大変だけど、私が我慢すればいいだけだから」


 「・・・・そっか」


 「うん。・・ごめんね、時間取らせっちゃって。話聞いてくれてありがとう」


 美空は礼二に手を振りながら、部屋から出た。部屋を出て、ドアを閉めると、満面の笑みをうかべる。


 (ふふふ、まず掴みはオッケー。あとは、彼がどう動くかだなあ~~。期待してるよ、礼二君)


 ※次回更新 5月16日 21:00

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