第45話


 「くっそ!!」


 勇者こと、天使の筆頭である才記は自室で、テーブルを殴っていた。その音に、メイドが肩を震わせた。


 「なんで、俺があんなにバカにされなきゃいけんだ! 俺は勇者だぞ。魔王を倒せるのは、俺しかいないのに」


 今度は、テーブルの足を蹴りながら、ブツブツとつぶやいている。


 「こうなったら、なにがなんでも強くなって、魔王を殺す。そんで、その後にじっくりあいつをいたぶってやる・・・・・」


 「まあまあ。そんなにイラだたなくてもいいんじゃない?」


 ベットの上で、優雅に足を組んでいる小栗美空がそう言った。風呂上りなのだろう、バスローブの一枚しか着ていない。


 「だけど、美空」


 「大丈夫だよ。才記君は勇者なんだから、あんな奴よりずっと強いよ」


 「美空・・・・・・」


 才記は、美空に抱き着いて顔をうずめた。美空は彼の背中をなでながら、耳元でささやいた。


 「大丈夫大丈夫。魔王を倒して、もとの世界に帰してもらう前にサクっと殺せば、誰もわからないよ。それまでの辛抱だよ」


 「うん・・・・・」


 美空はさらっと残酷なことを言っているが、才記の意識は、彼女の体に向かっていた。現に今も、唇が首元に当てられてる。


 「あ・・・・・・」


 「いいだろ?」


 「うん、きて・・・・」


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 彼らの乱暴な行為の後、美空はふと目を覚ました。隣に目を向けると、端正な顔が静かに寝息を立てていた。


 (ホント、顔だけはいいよね、こいつ)


 美空は、ベットから抜け出して、そばにあったバスローブを羽織った。


 (最初は、有能そうだったけど、期待外れだった部分のほうが多いなあ~。人選、失敗しっちゃったかも)


 豪華な椅子に腰かけ、ワインボトルを開けて、グラスにそそぐ。


 (眞城礼二・・・・・。彼が勇者だったらなあ。私も迷うことなかったんだけど)


 一気にグラスをあおり、血のようなワインをのどに流し込む。


 (近いうちに、堕としちゃおうかな~。才記には探りを入れてるって説明して、眞城には脅されてるっていえば、うまくいくんじゃないかな~)


 が、この計画には問題があった。そもそも礼二が彼女の誘いに乗るかどうか。色仕掛けも同情を誘うウソも、果たして意味があるかどうか。


 (前には警戒されてたからなあ。訓練中から少しずつ崩していこうかな)


 「んん・・・・、美空、どうした?」


 「起こしちゃったかな。ごめんね」


 美空は、うっすらと目を開けた才記にしなだれかかり、抱きしめた。さしずめ、獲物にかかる蛇のように。


 ※次回更新 5月15日 21:00

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