第44話


 「おい、」


 礼二が振り向くと、才記とその取り巻きがこちらをにらみつけていた。


 「なに?」


 「調子に乗るなよ、弱者のくせに。魔王を倒すのはこの俺だ。お前じゃない」


 「そうか」


 礼二は心底、興味がないように言った。あまりにも淡泊なので、逆に才記はとまどっているようだ。


 「そ、そうかって・・・・。と、とにかくあまりでしゃばるなよ」


 「なあ、お前」


 礼二は首だけを傾けて、嘲笑するかのようにほほ笑んだ。


 「それで、挑発してるつもりか?」


 「っ、だ、だったらなんだというんだ!」


 「1つ、いいことを教えてやろう」


 才記の目を覗き込むように近づき、生ごみでも見るかのような顔でつぶやいた。


 「俺はに興味なんかない。魔王を倒すとか言ってたが、本当にそれができたら認めてやるよ」


 それだけ言って、礼二は背を向けた。後ろでは、殺意を隠そうともしない彼らがにらんでいるのが伝わってくる。


 (これでムキになって、訓練をしてくれるだろ。ミリナが最初にかけた魔法も効果があるだろうしな)


 嬉しそうに笑いながら、礼二は訓練に戻っていった。


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 「はあ」


 訓練後、礼二は部屋で転がっていた。ボーっときらびやかな天井を見つめている。


 「・・・・やっぱり人に嫌われるのって、つらいな」


 頭の中には、才記たちの憎しみの視線が焼き付いている。魔王討伐のためとはいえ、やはり心にくるものがある。


 逆に挑発し返した時は気持ちよかったが、その後には二日酔いのような不快感が頭の中で立ち込める。

 

 「酒飲んだことないけど」


 (せめてメイドだけでもいなくて、助かった・・・・)


 部屋には礼二一人だ。メイドは、担当を外れてもらった。正直、これからもあれを相手する余裕はない。


 「くっそ・・・・・」


 不快感が涙腺を伝って、外に出ようとしてる。修行不足を嫌でも認識させられる、不快な時間だ。


 手で顔を覆い、声を抑える。

 

 「・・・・嫌いではないがな」


 これはいわゆる、最後の防衛線だ。武闘家として生きるか、それとも人間を駒としてしか見ていない、冷酷者として人を利用し続けるか。


 「だからと言って、人を利用していることが許されるわけじゃない。けど、それでも、この時間がある限り、俺は武闘家でいられる」


 礼二はベットから起き上がり、すっかり暗くなった外をながめた。


 「俺は、自分の惚れた女を守る。そのためなら俺はなんでも犠牲にする」


 俺は俺の守りたいものを守る。


 ※次回更新 5月14日 21:00

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