第30話


 「は? お前は誰だ?」


 礼二は目の前で満足そうに微笑んでいる老人をいぶかしげににらんだ。


 「わしか? そうだな、なんといったものか。・・・メッシーナとヘレナはわしのことを知っておるよ」


 「そうかい」


 礼二は毒爪を出して、容赦なく老人の腕に刺した。


 「がっ!」


 (筋弛緩剤。実験台になってくれてありがとよ)


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 「はい? このじいさんが国王?」


 「・・・ええ。まぎれもなく私の父親、ヘルマン・ド・グロッグよ」


 「やっちった~。でも、いきなり俺に襲い掛かってきたぞ」


 「父上は昔自分で前線を駆けずり回っていたから、強そうな人には自分でかかってちゃうのよ」


 (・・・変わってるなあ)


 「レイ、話すのもいいが起こして差し上げろ。事情が聞けん」


 ヘレナが老人、ヘルス王をソファに寝かせながらそういった。


 「あと1時間もすれば目を覚ますよ。それにしても、なんでこんな人がここに来たんだ?」


 「さあ?」


 (このじいさんは動きやすい服装だったし、剣も持ってた。戦闘目的だったはずだ。・・・何を考えている?)


 1時間後、礼二たちが見守る中、ヘルマン王は目を覚ました。


 「すまなかったな。急に襲い掛かって」


 「いえ、こちらこそとんだご無礼を」


 「よいよい」


 ヘレナと礼二はヘルマン王の対面に座り、頭を下げていた。後ろではメッシーナが紅茶を入れている。


 「ほんとにいいのよ、レイ。父上が一方的に襲ったんだもの」

 

 「手厳しいのう、メッシーナ。少しは老体をいたわってほしいものじゃ」


 メッシーナは紅茶を4人分、トレーで運んできてレイの隣に座った。


 「それで、なんの用なの?」


 「ああ、そこの坊やに用事があってな」


 「私、ですか?」


 「おお、そうじゃ。レイジ・シンジョウ。お主に戻ってきてほしいのだ」


 ヘルマン王の纏う空気が一変した。それは、文字通り王者の空気であった。


 「っ!」


 「・・・理由を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 隣でメッシーナが息を呑んだのがわかる。


 「最近の天使たちについて、何か知っておるか?」


 「いえ。存じ上げておりませんが」


 「はっきり言って、弱い。スキルはあっても、一部をのぞいてその辺の平民と変わらん戦闘能力だ。その一部も我が国の騎士には及ばん」


 「・・・・続けていただけますか」


 「それで戦力増強のためにお主に帰ってきてほしいのだ。よいな」


 命令口調で言う王を礼二は真正面から見つめた。そして、言い放った。


 「俺はあんたの配下じゃない」


 ※次回更新 5月1日 0:00

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