第29話


 (どこのばかよ、それを流したの!)


 ミリナはヘルマン王の言葉に歯噛みをした。


 「王よ。恐れながら、彼はスキル的に魔王には勝てません」


 「だが、戦闘能力的には、今の天使たちより上なのではないのかね?」


 「彼らも成長しております」


 ミリナは自分が熱くなっているのを自覚していたが、止めることはできなかった。


 (言わせない。私の判断が間違っていたとは、絶対に!)


 「わしに水かけ論をするつもりは毛頭ない。その男についてはわしが判断する。お前はかかわるな」


 「・・承知しました」


 「もうよい。下がれ」


 「はい」


 --------------------------一週間後


 礼二たちはグロッグ王国に戻ってきていた。


 「はあ~、やっぱり自分の屋敷が一番ね。落ち着くわ」


 「そうですね」


 メッシーナとヘレナは昼食後の会話を楽しんでいた。のどかな日差しと鳥のさえずりが聞こえてくる、穏やかなひと時だ。


 「・・・・レイは?」


 「巡回に出ています」


 「そう」


 (だめね。いつでも彼のことが気になってしまう。こんな年上にはすぐにあきて、どこかに行ってしまうんじゃないかと、そう思ってしまう)


 「・・・さま? 姫様?」


 「え?、な、何かしら」


 「大丈夫ですか? 帰ってきてから考えこむことが多くなりましたが」


 「そ、そうかしら。私は大丈夫よ」


 「それならいいのですが、」


 その頃、礼二は屋敷の庭を巡回していた。庭には大中小のしげみがあるので、正直人が隠れやすくなっているのだ。


 (今度から、石でも投げて索敵しようかな・・・)


 礼二はふいに、その場で


 ヒュン!


 すると、頭上を鎌が通り過ぎていった。庭師が使うものだ。


 礼二は振り向きざまに、屋敷側に寄って構えた。


 「・・・・・」


 「ほう、よくかわしたな」


 そこには金髪の老人がいた。片手にみすぼらしい剣をたずさえている。まっすぐに伸びた背筋に、ゆるぎない立ち姿。


 (それなりに実戦を経験してきたやつだ。殺す気で行かないとな)


 (シッ!)


 礼二はステップを踏んで、飛び出した。前に構えていた左手を引き付けずに、顔面に向かって打拳する。スピード重視の牽制だ。


 老人はそれに合わせて剣で防御する。


 (いい速さだ。若いくせに容赦がないのう)


 しかし、老人の剣に衝撃が来ることはなかった。老人の視界が回転し、背中を強打した。それと同時に腕の関節が悲鳴をあげる。


 「折られたくなかったら、質問に答えろ」


 礼二は拳が当たる寸前で引き、剣を持つ老人の腕をとって投げ飛ばし、関節を決めたのだ。


 「・・・・見事」


 ※次回更新 4月30日 0:00

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