第31話


 「そちらの都合で呼び出しておいて、その言い草はないでしょう?」


 「おい、レイ」


 礼二はヘレナの言葉を無視して、ヘルマン王を見返した。


 「・・・いい度胸だな。この王国内で私がその気になれば、人ひとり屠るのになんの障害もないぞ?」


 「あんたがたは知らないでしょうけど、私がいた世界では命のやり取りなんて、非日常なんですよ。そんな環境下で生まれ育った人間を戦わせるのは無理がありますよ」


 「君もそうだと?」


 「そうですね。俺は少しばかりこの手のことになれてますけど、理由もなく戦いたくはないですね」


 「魔王を倒せば、なんでも願いをかなえてやると言ってもか?」


 「基本的に自分の願いは自分の力でかなえますよ」


 礼二はカップを持ち上げ、口に運ぶ。隣ではメッシーナとヘレナが心配そうな顔で眺めている。


 「なら、なんで君はメッシーナの護衛を引き受けた?」


 「最初はただ衣食住の確保のためでしたね」


 「今は違うと?」


 「ええ、今は違います」


 ヘルマン王はあきらめたかのように首を振りながら、言った。


 「腹の探り合いはやめよう。どうしたら君は協力してくれるんだね?」


 「私はメッシーナの護衛ですから。彼女がいいと言えば行きますし、ダメだと言ったら行きません。自分で決めろというのなら自分で決めます」


 「ほう」


 ヘルマン王は意外そうにメッシーナに視線を送った。その先ではメッシーナがなんとも微妙な顔をしていた。


 「・・・・なるほど。では、メッシーナ。お前はどうしたいんじゃ?」


 少し雰囲気が柔らかくなったヘルマン王がメッシーナに尋ねた。


 「わ、私は・・」


 メッシーナは礼二に顔を向ける。礼二もメッシーナに顔を向け、目を合わせる。

 

 「私は行ってほしくないです。けれど、魔王によって国民が犠牲になるのを看過するわけにはいきません」


 「それで?」


 「レイ。自分で決めて。私には決められない」


 そういうなり、メッシーナは部屋から出ていった。その後を無言でヘレナが追う。


 「やれやれ、あの子にもようやく春がきたか」


 「・・・・・・」


 「さて、どうする? 自分で決めろと言っておったぞ?」


 「行きますよ。魔王攻略に」


 礼二はあっさりと答えた。ヘルマン王は礼二を見開いた目で見つめた。


 「お主、最初からそのつもりだったな」


 「はい。魔王を放っておけばこっちに害を及ぼすかもしれませんし。だから、行きます」


 「ふう、よろしく頼む。それにしてもメッシーナをいじめすぎではないか?」


 「僕はメッシーナ以上に人を好きになったことがありませんから。彼女にとって一番を選びたかったんです」


 「言いおるわい、若造が」


 そういったヘルマン王の顔は父親そのものであった。


 ※次回更新 5月2日 6:00


 ※休校期間が延びたので、5月中も毎日更新していきます!(^^)!。これからもよろしくお願いいたします。

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