第25話


 パチン


 礼二の耳にその音がかすかに届いた。


 (シッ、)

 

 体のわきに下げた左手の人差し指をまっすぐに伸ばし、毒爪を飛ばした。


 「すみません、待ち人が来たもので」


 「あら、残念」


 礼二は速足で、メッシーナのもとに向かう。アレン卿はしっかり直立不動になっていた。


 「平気? メッシーナ」


 「え、うん。彼、どうしたの?」

  

 礼二はすばやく手を振り、毒爪を回収しながら答えた。


 「う~ん、気絶しているようなものだよ。それよりここを離れよう」


 「そ、そうね。そうしましょう」


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 2人はどうにかして会場から出ることに成功した。出席者に挨拶は済ませたし、パーティーに興味のない客なら、もう帰っていてもおかしくない時間だ。


 「ふう、ここまでくれば大丈夫だろう」


 「ええ、そうね」


 「それにしても、何をされたんだ?」


 「・・・アルカードと結婚しろって。洗脳されかけた」


 「え⁉、だ、大丈夫なのか?」


 「うん。今度はこっちから質問、何をしたの?」


 2人は歩きながら、小声で話す。


 「あ~、毒針みたいなのを飛ばして、眠らせたんだよ。俺は外のベランダにいたんだけど、そこからギリギリ飛ばせる隙間があったからさ」


 「いつのまにそんなの見つけたの?」


 「会場に入ったときかな。何かしら起こると思ってたから」


 「なるほどね。・・ありがと、助けてくれて」


 メッシーナは礼二の前に立ち、上目遣いでそういった。目がうれしそうに輝いている。

  

 「いや、護衛だし、な」


 「ふふふ。それでも、だよ? ・・・・ところで、なんでいい匂いさせてるのかなあ~?」


 目から輝きが消えて、メッシーナの声が低くなった


 (目が笑ってない、笑ってないよ。・・怖いって・・・)


 「え、えっとアルカードの姉妹に外でからまれちゃって、少し話したからそのせい、かな?」


 「それでも香水の匂いがつくほど、近くにいたってことでしょ?」


 「いや、彼女らの香水がきつかっただけだよ。やましいことは何もしてません」


 「ふ~ん。まあ、そういうことにしておいてあげる」

 

 メッシーナは表情と声をもとに戻して、そういった。


 「ま、待て! 待ってくれ!」


 ふと後ろを振り返ると、息を切らしながら叫んでいるアルカードの姿があった。


 (いつのまに来てたんだ?)


 「メッシーナ、殿下、ハアハア。ぼ、ぼひゅとの結婚を、」


 「ごめんなさい、それは無理」


 「へ?」


 「私には好きな殿方がいるもの」


 「え? で、でも、叔父上がまかせておけって・・」


 「私はあなたのことを異性として見てないわ」


 「え、ええ⁉ じゃ、じゃあ、その好きな殿方って、」


 「えっと、ここにいるレイよ!」


 そういってメッシーナは礼二の腕に抱き着いた。


 ※次回更新 4月26日 0:00

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