第16話


 それから3人は紅茶を飲みながら、楽しくお互いの世界について話した。といっても主に礼二が話していたが。


 メッシーナはどちらかというと、石油や電気などに興味を示し、ヘレナは銃について詳しく聞きたいと言っていた。


 (でも、以前に転移者がいたんなら、銃くらいは伝わっているかと思ったが・・)


 しばらく話していると、日も暮れてきた。


 コンコン


 「湯殿の準備が整いました」


 前に会った執事の声が扉越しに聞こえてきた。


 「わかったわ。・・・さて3人のうち、誰から入る?」


 「・・・・・・」


 そう言うなり、2人は黙ってしまった。


 「どうしたの?」


 礼二が不思議に思って聞くと、2人は恥ずかしそうに目をそらした。


 「・・・・最初は湯殿が冷えていて、寒いんだ」


 言いづらそうにヘレナが答えた。


 (ああ、そういうことか)

 

 「あ~、俺、先に入っていい?」


 「え、いいの⁉ うん、どうぞどうぞ」


 2人は明らかに顔をほころばせた。


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 (・・・・確かに寒い)


 礼二が湯殿に来てみると、そこは確かに寒かった。


 「壁が熱を逃がしやすいのか。断熱材とかないもんなあ」


 礼二はさっそく、体を洗い始める。日本では、滝行の経験もある礼二にとって、これくらいの寒さは十分耐えられるものだった。


 「ふううう、」


 (約1か月ぶりの風呂だ~。身に染みる・・・)


 礼二は広い湯船で、両手両足をいっぱいに広げる。こっちに来てから、初めての風呂だ。


 「そういや、暖気って細工で操れないのかな」


 細工して、温めてやればあの2人も快適に過ごせるだろう。礼二は置いてあった桶を持ち出して、湯に浮かべる。


 (こんなかに貯める感じでやってみよう)


 「細工」


 すると、暖かい空気はが桶の中にたまっていく。


 「・・・できた。空気って細工できるんだな」


 しかし、空気はすぐに出て行ってしまった。

 

 「細工できても、その形を保つことはできないのかあ」


 礼二は風呂から上がると、桶で細工の実験を始めた。


 「空気が細工できるなら、真空も作れるだろう」


 礼二は手をくぼめて桶に押し付け、その間に空洞を作り出す。

 

 「うし、細工っと」


 少し隙間をあけた指から、空気が出ていく。大体空気が抜けきったところで隙間を埋めた。


 「ひとまず成功かな」


 (これで手の空間を押し出せば、大概のものは破壊できるし、手で人の口と鼻を押さえてしまえば、一瞬で眠らせられる)


 「現実じゃできなかったからな。スキルさまさまだよ」


 魔法が使えない礼二にとって、スキルを応用した技の開発は身を守ることと同義であった。

 

 ※次回更新 4月17日 0:00

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