第15話 海の街アークフォール

午前中に用事を済ませ、今日も今日とてAWOの世界にログインする。

ゴンちゃんが現れるのを待って、新しい町探検に出発。


「いらっしゃいっ!!

活きがいいの揃ってるよ!!」


「今朝とれたての魚だよー!!」


『始まりの町』とはまた違った賑やかな声が飛び交っている。

屋台から香る食べ物の匂い、光を反射してキラキラ光る魚の鱗、そして日焼けしたおじちゃんの輝く白い歯。

現代ではなかなか見られない光景に心が踊る。

ゴンちゃんは棚に並べられた魚の目が気持ち悪い、と私の腕の中で顔を伏せている。


「そこの巫女のお嬢ちゃん!

どうだいっ、とれたての蛸で作ったたこ焼きだよ!!

1口食べれば頬が落ちるほどの絶品さ!

お嬢ちゃんの可愛さに免じて安くしとくよ!」


お茶目に片目を瞑って見せたおじさんは、ツルツルの頭に捻ったタオルを巻いた、いかにも屋台の男って感じの人だった。

ソースの匂いが食欲をそそる。


「美味しそうですね!

それじゃあ、2つ貰おうかな」


「まいど!

ついでのおまけだ。持ってけドロボー!」


たこ焼きと一緒にイカ焼きまで貰った。

お礼を言って料理はアイテムボックスへ。

熱々がいつでも食べられるって素敵だよね。


「すみません、海ってどうやって行ったら良いんですか?」


「この道をまっすぐ行って、T字路を右に曲がったとこだ。

ここんとこ人が多い。お嬢ちゃん小さいから、踏まれないようにな!」


「小さいは余計ですよ!」


「がははははははっ!」


豪快に笑うおじさんに手を振って、屋台が並ぶ道を歩く。

言われた角を右に曲がれば、雪景色と見間違うほど真っ白な砂浜と空が溶けたような色の海がどこまでも広がっていた。

砂浜は冒険者で賑わっており、中には水着を着て泳いでいる人なんかもいる。

壮大な眺めに思わず足を止めて見入る。



『これが海.......

綺麗なものだな』


ゴンちゃんも顔を上げて海を眺めている。

私は小さく頷いた。

砂浜の上に降ろしてあげると、ゴンちゃんは足が砂に捕らわれる感触に顔を顰めていた。

服を初期のものに着替え、海の方へ歩く。

汚れないとわかっていても、巫女服で砂の上は歩きたくない。

澄んだ水は海底を映し、カニの親子がえっちらおっちら移動しているのが見えた。

そっと手を浸せば、水の冷たさが手にしみる。


『む。しょっぱいぞ、この水』


「そりゃあ海水だからね。飲んじゃダメだよ」


ゴンちゃんと並んで浅瀬を歩く。冷たい水が砂の熱で火照った足に心地いい。

周りを見ると釣りをしている冒険者が多く見られる。

私も釣りしたいな。

【料理】スキルをあげるのに釣った魚を使いたい。でもどうやって始めたらいいんだろう。釣竿を買えばいいのかな?


誰かに聞こうと辺りを見渡せば、並んで釣りをしている赤髪と青髪の女性がいたので、そっちに向かう。

さすがに男の人に声をかける勇気はありませぬ。閉鎖的な女子校だから、家族や怜ちゃんぐらいしか男の人と接する機会ないんだよね。


「こんにちは。質問いいですか?」


赤髪を高い位置でポニーテールにした女性に声をかける。耳が尖ってるのと褐色の肌をしているところを見るとダークエルフかな。


「ひゃーっ!

天使があたしの目の前に!!

これ夢じゃない!?

ねぇ、夢じゃない!?」


「ふぎゅむっ!?」


え?え?

なんで私女の人に抱きしめられてるの!?

知り合い…ではないと思うんだけど。

それより前が見えないのですが!

私の視界を覆うのは立派に育った褐色のメロン。

べ、別に羨ましくなんかないよ!ほんとだよ!

私のはまだ発育途中なだけだから!


「馬鹿か、お前は。

その上半身にぶら下がった脂肪の塊でその子を圧死させる気か」


「痛い、痛いよ、アオイちゃん!

自分が絶壁だからって僻まないで…いいいいたいっ!!!ごめんなさい!ごめんなさい!!耳を引っ張らないで!!」


ぷはっ。もう少しで窒息死するところだった。


「あ、ありがとうございます」


「いや。こちらこそうちの変態が迷惑をかけた」


助けてくれたのは青髪をショートカットにした和風美人さんだった。紺色のローブを纏った姿はとても凛々しく、思わずキュン、と胸が高なるほど。

そして、耳をおさえて涙目になっている女性は、つり目ガチの美人さんで、胸元が大きく空いたTシャツと短パンというラフな格好をしていた。Tシャツの裾を括っているため、顕になった腹筋には縦に線が入っている。

エルフはお淑やかな服を着ているイメージがあるけれど、これはこれでとてもこの女性に似合っている。

スタイル抜群…羨ましいな。



「それで、聞きたいことって?

私たちが知っている範囲で良ければ教えるが」


「ありがとうございます。

釣りをするための道具を売っている場所を知りたくて」


「天使ちゃんは釣り初めてだよね?

なら、ここの砂浜をもう少し行った先に船着場があるから、そこにいるNPCに話しかけて、船に乗せてもらうんだよ。

そしたら【釣り】スキルと一緒に釣竿も貰えるよ!」


赤髪の女性が笑顔で教えてくれた。


「ご親切にありがとうございます!

私、ソラって言います。

最近始めました」


「アオイ。第1陣から」


「あたしはキスミーだよん!

質問のお礼はちゅーでいいよ!」


さあさあ、Kiss Me♡と私に頬を向けるキスミーさん。

状況が把握出来ずに少し困惑していると、下から視線を感じた。足元に目を向けると、ゴンちゃんがキスミーさんを凝視していた。

やっぱりゴンちゃんも男の子だからキスミーさんみたいな女性に憧れるのかな?

ゴンちゃんを抱き上げ、キスミーさんに近づける。鼻先が彼女の頬に触れるほどまでの距離になった時、ゴンちゃんが前足を伸ばしてその頬を遠ざけた。


「アイタタタっ!

首、首が変な方向に!!」


『……主は私のことが嫌いなのか?』


「??現実でも一緒にいてほしいぐらいには好きだよ?」


質問の意図が分からず首を傾げると、ゴンちゃんがキスミーさんの頬を踏み台に私の方に飛んできた。慌ててその身体を抱きとめる。


大丈夫かな、キスミーさんの首.......

ゴキッって音したけど。


「うぅぅぅ。

マジで首取れるかと思った.......

天使ちゃんからのほっぺにチューも貰えなかったし.......」


「ざまぁ」


「アオイちゃんひどい!」


2人はリアル世界でも仲良いんだろうな。大海と怜ちゃんもよく同じようなやりとりをしてる。


「それじゃあ、船着場に行ってみますね。

お邪魔しました」


「あ、待って!

せめて最後にお別れのハグを!」


「わわっ!!」


「ヒギョォエエ!!」


2人に頭を下げて、方向転換した瞬間、後から肩を掴まれたことでバランスを崩し後に倒れそうになる。

キスミーさんの胸がぽよん、とクッションになって倒れることは無かったけれど、私の角が彼女の肩に刺さってしまった。

キスミーさんが肩をおさえて蹲る。

角の殺傷力高っ.......



「ご、ごめんなさい!!」


「今のはこの変態が悪い。

こいつが復活する前に早く行け。

後々面倒なことになるぞ。

それじゃあ、また縁があったらな」


『行くぞ、主。

確かにこの赤髪の女は面倒くさい』


「待ってよ、ゴンちゃん!

色々ありがとうございました!

では、また!」


軽く手を挙げたアオイさんに手を振って、たったか歩くゴンちゃんを走って追いかける。

キスミーさん、美人なのに残念な人だったなあ。





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