第8話 巫女服と狐神
「お婆ちゃん、これ何が入っているの?」
先程お婆ちゃんと一緒に運んだ、風呂敷で包まれた荷物。
羅刹化を解いた状態で、持ち上げようとしたらビクともしなかった。
お婆ちゃんアマゾネス説が私の中でぐんぐん大きくなってるよ。
「あぁ、お稲荷さんの材料だよ。
森の中に狐神様を祀っている小さな神社があってね、あたしゃあ、その神社の巫女の家系なんだよ。
跡を継いでくれる人はいないし、あたしももう年老いた。だから最後に狐神様の好きなお稲荷さんを作ろうかと思ってねぇ」
「私も手伝うよ!」
「あんた料理できるのかい?
見たところまだそこまでの水準に来てないみたいだが」
そうだ、私まだ普通の料理できないんだった。
「や、焼くのなら!」
「お稲荷さん作るのに焼く過程があると思うかい」
「うぬん」
しょんもりする私の頭をお婆ちゃんが優しく撫でてくれた。皺だらけの温かい手。とても安心する。
「ふふふ。その気持ちだけで十分だよ。
そうだ。お稲荷さんが出来たらそれを神社まで持って行ってくれるかい?」
「うん!任せて!」
料理を手伝えない代わりに調理具を洗ったりして、お婆ちゃんの負担を少しでも軽くする。
「よし、出来た。
あんたのおかげでいつもより早くできたよ」
「えへへ。どういたしまして」
「それじゃあ、これ宜しくね」
渡された風呂敷は、スキルを使わなくても持ち運べられる重さだった。
「それと、はい。
神社は巫女の家系以外見つけられないようになっている。でも、この巫女服を着ればあんたでも行けるはずさ」
お婆ちゃんに巫女服一式渡される。足袋の他に千早もある。
ー巫女服を手に入れたー
「わかった」
「最後に、これはあんたの分のお稲荷さん。
その巫女服は返さなくていいからね。
またいつでも遊びにおいで」
ーお婆ちゃんの稲荷寿司を手に入れたー
「ありがとう。
また来るよ。腰お大事にね」
ぎゅ、と抱きついて、お婆ちゃんの家を後にする。
さあ、はじめてのおつかいだ!
流石に人目がつくところで巫女服になるのは抵抗があったので、街を出て、森に入る直前に服を変える。
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名前 ソラ
種族 鬼っ娘
Lv 8
HP 550/550
MP 400/500
攻撃 0
防御 0
速さ 0
知力 0
運 20
スキル【羅刹化 lv2 5min】【雷魔法 lv1】【打撃 lv3】【料理 lv1】
AP 35
SP 0
装備:巫女服
アクセサリー:身代わりの指輪
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『巫女服:普通の巫女服。補正なし。千早や足袋とセットで使用する。』
一瞬で服が変わるのすごく便利だな。普段も使えたらとても楽なのに。
そんなことを思いながら、森の中に入ると、目の前に赤い火の玉が現れた。慌てて木の棒を構えるが、火の玉は私の目の前でふよふよと浮いているだけだった。
武器を仕舞えば、ついてこい、とでも言うように私の目線の高さで進む。
木の根に足をとられながらも火の玉を追うと、少し開けた場所で火の玉が消えた。
「ここ?」
少し寂れた赤い鳥居を潜り、チョロチョロと流れる手水舎の水で手を清め、本殿に入る。
お婆ちゃんのお稲荷さんを備えて手を合わせる。
拝むこと数十秒、後からガタン、という音がしたので目を開けて振り返る。
「階段……?」
お賽銭箱が横にずれ、地下へと繋がる階段が現れた。
階段をのぞき込むけれど、暗くて先が見えない。
暗闇に足が竦むけれど、せっかくのゲームだ、普段できないことにも積極的に挑戦していきたい。
私は無意識のうちにカイから貰った指輪を握りしめていた。
恐る恐る、足を踏み入れた瞬間、両側の壁に火の玉がズラリと現れ、辺りを照らしてくれた。
「ありがとう」
階段を降りて、薄暗い道を進む。
遠くに明るい光が見えた。
私はその光目指して走り出す。
「うわぁ!」
青々とした生い茂る木に囲まれるようにして、立派な舞殿がそこにあった。
光を反射してキラキラと光る葉があまりにも綺麗で暫し見惚れる。
ゆっくりと辺りを見渡しながら舞殿に近づくと、中央にはそこそこ大きな箱が2つ置いてあった。
蓋を開ければ、左側の箱には扇が、右側の箱には薙刀が入っていた。
「綺麗」
深碧色の下地に、若草色の模様が、生命力溢れるこの場所を閉じ込めたようで、思わず感嘆の声が漏れる。
「貰っちゃっていいんだよね?」
扇をアイテムボックスに仕舞った後、隣の薙刀を持ち上げようとしたが、全く動かなかった。
「もぅ!お婆ちゃんの時からこの世界、重い物多すぎてしょ!!
GM《ゲームマスター》はマッチョ大国でも作る気かしら!
【羅刹化】!!」
半ばやけくそになってスキルを使い、薙刀を持ち上げる。
長い柄の部分には蔦のような植物が彫られており、刀身には九尾の狐が雲の上を駆ける様子が描かれている。
これはもしかしてレアな武器なのかも!
ほくほく、と薙刀もアイテムボックスに仕舞う。箱はキラキラのエフェクトと共に消えていった。
「お婆ちゃんには感謝だね!」
さあ、帰ろう。とは思ったものの、貰うだけ貰ってはい、さよなら。は何となく申し訳なかった。
「……舞おうかな」
小さい頃、近所の神社で祭りがあるたびに、カイと共に舞わさせられた。幸い、身体がその感覚をまだ覚えているし扇もある。
巫女服まで着ているのだから、これは舞えと言われている気がする。
扇を取り出して中央に立つ。
音楽はないけれど、くるりくるり、と舞い始める。
アイテムを下さった神様に感謝を込めて、そして、何よりも神様に楽しんでもらえるように。
ーそなたの舞、見事であったー
舞を終えて扇を閉じると、どこからともなく声が響いた。
驚いてキョロキョロと見渡すけれど、誰もいない。
ー楽しませてもらった礼に、我が加護を与えようー
「わ、何!?」
身体を包む光のあまりの眩しさに目を瞑る。
光が収まったようなので目を開けると、巫女服が変化していた。
袖口には赤い紐の袖飾りがつき、肩から肘の部分があいて、上腕が見えている。
随分と可愛らしくなったものだ。
ウィンドウを開いて装備を確認する。
『狐神の
『狐神の
『狐神の千早:狐神の加護を受けた千早。知力+(Lv×10)。白衣、緋袴、
足袋と併用してのみ効力を発揮する。ユニーク装備』
『狐神の足袋:狐神の加護を受けた足袋。速さ+(Lv×10)。白衣、緋袴、
足袋と併用してのみ効力を発揮する。ユニーク装備』
うわ、もうこの巫女服脱げないわ。
最強すぎるよ。
ーよく似合っておるぞ。ふむ、そんなに見目麗しいと男共が放っておかないだろうな。護衛に我が眷属を授けようー
状況が、理解できないままポンポン話が進んでいく。
そして、私の目の前に現れたのは、ちょこん、と座った
チベットスナギツネでした。
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