第9話 初めての仲間
疲れたあなたに悟りと癒しをお届け
つぶらな瞳にあなたも釘付け
そんなキャッチフレーズを持ち合わせた動物、それがチベットスナギツネ。
そんな現実逃避的思考になりつつあった意識を慌てて戻し、改めて目の前のチベットスナギツネをまじまじと観察する。
残業の毎日で、心身ともに疲れきったサラリーマンのような、悟りの境地に至った顔。
テレビで見たチベットスナギツネとは色彩が少し違う。クリーム色の毛皮にはところどころ銀色が見えるし、すべてを諦めたような瞳はワインレッド。
「ええっと、神様?」
ーどうした。気に入らぬか?我が眷属の中でも顔立ちが整った者を送ったつもりだがー
顔立ちが整った者……きっと運営者さんは疲れていたに違いないね、うん。
じっと私を見上げるチベットスナギツネ君に近づき、目線を合わせる。
「こんにちは?」
返事はなかった代わりに、ファサ、と尻尾が揺れた。
「私の旅についてきてくれる?」
ファサ
これはOKって捉えていいのかな。
「神様、本当にこの子連れて行っても宜しいのですか?」
ー構わぬ。本人も了承しておるからな。名前をつけて可愛がってやってくれー
「……わかりました」
……名前ねぇ。
私には名前をつけるセンスが全くと言っていいほどない。
家で飼っている熱帯魚の名前はマグロ、サーモン、さしみ、天ぷら、すし丸。
しかも丸一日使って考えた結果。
わかったでしょう?私がどれだけ名前をつけるのが苦手か。
やっぱりここは無難な名前かな。
「……ポチは?痛っ!」
尻尾で思いっきり叩かれた!!
さっきまで全く動かなかったのに!!
「……じゃあ、タマ?痛い痛い!!ごめん!」
おかしいなあ?この巫女服防御力すごく高いはずなんだけど、とても痛い。
「チベスナ?」
バシンッ
「……スナギーは?」
バシンッバシンッ
「き、狐丸!痛いー!!!」
バシンッバシンッバシンッ
うぅぅ。候補を出す度にチベットスナギツネ君の私を見る目がどんどん冷たくなってくる。
それ以上冷めた目をしてあなたは何を目指しているのよ!!
「……ゴンちゃん。
もうこれ以上は私には無理です!!勘弁してください!!」
手をついて、床スレスレまで頭を下げる。
そう、日本の様式美 土 下 座 です。
ファサ、と柔らかいものが頬を撫でる。
顔をあげれば、チベットスナギツネ君が目の前にいて、尻尾を揺らしていた。
ー【テイム】を取得しましたー
脳内に音声が流れた。
これは、認めてもらえたのかな?
「私はソラ。
これからよろしくね、ゴンちゃん」
ゴンちゃんの前足を持って、握手する。
『あぁ。こちらこそ、主』
「喋ったっ!?」
聞こえてきたのは色気を孕んだ低い男の人の声。
ゴンちゃんの声カッコ良すぎて私びっくりだよ!
ー無事仲良くなれたようだな。我はいつでもそなたを歓迎する。また遊びに来い。
ソラのこと頼んだぞ、ゴンー
『お任せ下さい。
行こう、主』
「う、うん。
色々ありがとうございました!
また遊びに来ますね!」
ーあぁー
深く一礼して、てってこ歩くゴンちゃんを追いかけた。
ーお前は我に尽くしてくれた。そろそろ自分の幸せを見つけるのもいいんじゃないか、ゴンー
そんな神様の呟きが私の耳に届くことは無かった。
神社を出て、ゴンちゃんと共に森の中を歩く。
『主はこれからどうするつもりだ?』
「とりあえず貰った武器と、新しいスキルの確認はしたいかな」
『そうか。
では近くの洞穴に行くとしよう』
ゴンちゃんの案内でゴツゴツした岩肌をくり抜いて作られたような洞穴に着いた。
『……忘れ物をした。取ってきても良いか?』
「もちろん。行ってらっしゃい!」
『すぐ戻る』
軽やかに崖を降りていったゴンちゃん。足場が悪くてもあんなに早く走れるなんて凄いや。
私は丁度いい大きさの石に腰掛けて、ステータスを確認する。
「ステータスオープン」
ーーーーーーーーーーーーーーー
名前 ソラ
種族 鬼っ娘
Lv 8
HP 800/800
MP 454/500
攻撃 0
防御 0(+80)
速さ 0(+80)
知力 0(+80)
運 20
スキル【羅刹化 lv2 5min】【雷魔法 lv3】【打撃 lv3】【料理 lv1】【テイムlv1】【ヒール(小)※】
AP 35
SP 0
装備:狐神の加護を受けた巫女服一式
アクセサリー:身代わりの指輪
ーーーーーーーーーーーーーーー
【テイム:魔物などを仲間にした際に取得できるパッシブスキル。Lvが上がる事に、仲魔を対象としたスキルを自動取得。仲魔のステータスを自由に閲覧可能。】
【ヒール(小)※:テイムスキル。仲魔を小回復させる。】
あははは。とりあえず、巫女服がチートすぎるね。
もうこれ以外いらない気がするよ。
さてと、次は武器だ。
アイテムボックス中の扇と薙刀をタップし、詳細を確認する。
『若葉の息吹:攻撃力の高いユニーク武器。この武器を媒介に魔法を放つことで威力増大。とりわけ、星魔法との相性が良い』
扇の方だね。スキルを一通り確認したけど、星魔法なんて見かけていないな。レベルが上がったら取れるようになるのかもしれない。
『九尾の空中散歩:攻撃力の高いユニーク武器。この武器を媒介に魔法を放つことで威力増大。雷、火との相性◎。ちょー重い』
最後とても適当.......
説明作った人寝不足だったんだろうな。お疲れ様です。
薙刀は【羅刹化】と一緒じゃないと使えないや。重すぎるからね。
そうなると、早くレベル上げてMP増やさなきゃ。せっかく雷魔法と相性がいいんだし。
それと、そろそろ【料理】のレベルもあげたい。
よし、ゴンちゃんが帰ってきたら、レベル上げしよう。
鼻歌を歌いながら待っていると、心做しか疲れた顔をしたゴンちゃんが帰ってきた。
『すまない、待たせた』
「大丈夫だよ。ゴンちゃん疲れているみたいだけどどうかしたの?」
『.......狐神様に怒られたんだ。主を1人にするなと』
しゅーん、と耳を垂らしたゴンちゃんの頭を優しく撫でると、尻尾が左右に揺れた。
「私は大丈夫。だけど、もしもの時は助けてね。頼りにしてるよ」
『もちろんだ。だが、何故か今、本来の力が発揮できない。人型にもなれないしな』
ゴンちゃん人型になれるの!?
チベットスナギツネの獣人なんて、仏道修行してそうなイメージしか湧いてこないんだけど。
「もしかしたら、私の仲魔になったせいかも。ステータス見ていい?」
『あぁ』
ーーーーーーーーーーーーーーー
名前 ゴン
種族 白狐
Lv 1
HP 500/500
MP 500/500
攻撃 54
防御 32
速さ 48
知力 40
運 5
スキル【狐火】【紅牙】
AP 0
ーーーーーーーーーーーーーーー
【狐火:狐族が扱う火の玉。】
【紅牙:炎に包まれた牙で相手に噛み付く。】
Lv1でこれって.......
深くは考えないでおこう。
「ゴンちゃん、武器とか持ってたりする?」
『持ってはいるが、人型でないと使えない』
「そっか。じゃあ、早く人型になれるようにレベル上げないとね」
『そうだな。
主、これを受け取ってくれないか』
渡されたのは、先端に小さな鈴が2つついた紅い結紐だった。チリンチリン、と鳴る鈴の音が耳に心地良い。
「もしかしてこれを取りに帰ってたの?」
『あぁ。この結紐は魔力を増幅してくれるから、つけておいた方がいい』
「ありがとう!」
MP増大アクセサリーゲット!!
髪を括ろうとしたけれど、括れるほど長くなかったので、右側の髪を紐と一緒に編み込み、サイドに垂らす。
丁度耳たぶの下あたりに鈴がある。
「どう、似合うかな?」
『そうだな。よく、似合ってる』
「えへへへ。ありがとう」
お礼に、ギューッとゴンちゃんを抱きしめる。
もふもふしたかっただけだろ、というクレームは受け付けませーん。
ゴンちゃん思ったより毛が柔らかい。
「よし、行こうか!」
『どこに?』
「一回町に戻るの。【料理】スキル上げたいから、道具買わないと。帰るまでに魔物を見つけたら積極的に倒していこう」
『そうか。
ところで、下ろしてくれないか?
これじゃあ主を守りづらい』
「えー、このままで!」
現在、ゴンちゃんは私に抱えてられているのだが、脇に手を通して抱えるという持ち方のせいで、足と尻尾が歩く度にプラーンプラーンと揺れている。
それが何とも可愛くて、持ち方を変えずにそのまま歩く。
最初は文句言っていたゴンちゃんも諦めたのか、遠くを見ていた。
『……楽しいか?』
「うん、とっても!!」
ニッコリ笑って答えれば、そうか、と淡白な答えだけ帰ってきた。
新しい仲間が加わって、私の旅は少し賑やかになった。
『白狐の御守り:白狐の加護がついた結紐。MPを(Lv×100)に増大させる。ユニーク装備』
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