第7話 親切な人とお婆ちゃん
今日は少し早起きして、課題を早めに終わらせた。
これも全てAWOを楽しむため。
空調を整えてベッドに横になる。
いざ、ログイン!
目を開ければ女神が大きな水瓶を持った噴水の前に立っていた。
良かった。昨日カフェでログアウトしちゃったから、そこから始まったらお店の人に申し訳ないな、と思ってたんだ。
そうそう、昨日気づいたらスキルを取得していたんだよね。
レイちゃんに聞いたところ、パッシブスキルというのは、ある条件を満たすことで自然と身につけることの出来るスキルらしくて、その数は底知れず。
パッシブスキル攻略ギルドなんてものもあるんだって。すごいよねえ。
例のベンチに座って、アイテムボックスから取り出した唐揚げを食べながら、今日の予定を立てる。
昨日レイちゃんにこれでもか、と言うほど食料もらったんだよ。曰く、食料がなかったらご飯食べることを忘れて、気づいたら動けなくなってそうだから、とのこと。
ありがとう、ママ!って突っ込んだら手刀が頭に落ちてきました。すぐ謝りましたよ、ええ。
それにスタミナ切れで2人に迷惑かけたのは事実なので、ありがたく頂戴しておいた。
唐揚げを食べ終わると容器と爪楊枝はキラキラのエフェクトとなって消えた。
すごく、エコだね。
さあ、冒険を始めよう、と立ち上がると、視界の端にうずくまっているお婆ちゃんを見つけた。慌ててそっちに向かう。
「大丈夫ですか!?」
「うっ……
貴方は異国の冒険者様かい?」
ゲームのプレーヤーはこの世界では異国の冒険者という設定だ。
「はい、そうです。
人を呼んできましょうか?」
「いや、大丈夫さ。持病の腰痛でねぇ。
薬草があれば少しは痛みが和らぐのだけれど」
「でしたら、私がとってきます!」
「本当かい?
草原を抜けた先の森にしか生えていない『ゴブリンの腰掛け』なんだけど、お願いできるかい?」
「了解です!
急いで取ってきますね!
【羅刹化】」
少しでも早い方が良い、と【羅刹化】を使って走る。
門が見えてきた辺りで私は重大なことに気づいた。
「あっ!私『ゴブリンの腰掛け』どんなのかわからない!」
しまった!
【鑑定】まだ取ってない……
リアルorzポーズの私。
「あの、大丈夫ッスか?」
自分に嫌気がさしていると、上から声がした。顔を上げると燃えるような赤髪の青年がいた。年は私と同じぐらいか、それより上くらい。
「スタミナ切れっスか?
俺今食料持ってるんで分けましょうか?」
「あ、違うんです!!
『ゴブリンの腰掛け』を取りに行きたいのに、私まだ【鑑定】取ってなくて……
早くしないとお婆ちゃんが……」
「ああ!薬婆のクエストッスね!
俺今『ゴブリンの腰掛け』持ってるんであげますよ!」
「いやいや、申し訳ないですよ!
お婆ちゃんには謝って、私秘伝のマッサージで手を打ってもらいますので!」
「ぶっふ!
マッサージって!!
あんた面白いっスねー!
じゃあ、何かとトレードしましょう。なんでもいいんで」
「それなら……」
「じゃあ、仮フレ申請しましたんで承認してくださーい」
「仮フレ?」
「その場だけのトレードとかで使うフレンド交換っス。
ログアウトしたら勝手に解除される仕組みなんで便利ッスよ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「いえいえ。
困った時はお互い様っス!」
大型犬を思わせるような、人懐っこい笑みにつられて私も笑ってしまう。
『ゴブリンの腰掛け』が届いたのを確認して、『虹色の角』を贈る。一つだけレイちゃんに売らずに残しておいたのだ。まさかこんなところで役に立つとは。
「ちょっ!
なんで超レアドロップアイテム贈ってんの!」
「え?でも私今これ以外持ってなくて……」
「はああああ。
それなら、割に合わないから薬婆クエストの必要アイテム一式贈るっス。
俺だから良かったものの、ほいほい出すものじゃないんスからね、これ。
騙されても知らないっスよ」
頭を抱える彼になんだか申し訳なくなってくる。
「うっ。それ幼馴染にも言われました」
「あんた見てたら皆そう言うっスよ。
はい、贈ったよ。
それじゃあ、気をつけるんッスよ!」
「色々ありがとうございました!」
ヒラヒラと手を振る彼の背中に一礼して、急いでお婆ちゃんの元に戻る。
「【羅刹化解除】
お婆ちゃん!取ってきたよ!」
ー残り時間2分の状態で解除しますー
「ありがとうねぇ。
おやまあ、『角ウサギの腰掛け』と『ワームの腰掛け』まで持ってきてくれたのかい」
あのウサギ腰あるのかな、って思ったのは私だけ?
というか、モンスターどれだけ腰掛けたいのよ。
「途中親切な人が教えてくれたの」
「そうかい、そうかい。
これは、お礼だよ」
ー薬婆のクエストclearー
報酬:HPポーション(中)、MPポーション(中)
「ありがとう、お婆ちゃん。
良かったら、お家まで送るよ」
お婆ちゃんの隣には大きな荷物が置いてある。
腰が痛いのに荷物を運ぶのは辛いはず。
「いいよいいよ。
あたしゃあ重いからねぇ。申し訳ないよ」
「私こう見えて力持ちだよ!
お婆ちゃんの1人や2人余裕余裕!」
えへん、と胸を張ってお婆ちゃんに笑いかける。
そこ、胸なんかない、とか言った奴、【サンダーボール】でアフロにするよ。
「そこまで言うなら……
でも本当に重いよ。」
「平気平気!」
と、思っていた時期が私にもありました。
いや、お婆ちゃんの重いは伊達じゃなかった。体重を少しかけられただけで潰れてしまったよ。
「ほら、言っただろう」
うっ。お婆ちゃんには申し訳ないことをしてしまった。
「お婆ちゃんのお家どこら辺?」
「あそこに神殿が見えるだろう?その近くさ」
結構距離あるなあ。
「どれぐらいかかる?」
「そうさねぇ、歩いて10分ぐらいかねぇ。
道が複雑でなければもう少し早くつくと思うんだけど」
そうだ!
「お婆ちゃん、私にもう一回だけチャンスをちょうだい!」
「え?
もう一回しても変わらないと思うけどねぇ」
「次こそ大丈夫!
【羅刹化】」
「えええっ!?」
私はひょいっとお婆ちゃんを横抱きにした。レイちゃんを持ち上げられたからもしかしてと思ったけど。
全く重みを感じない。
「時間が無いから、サクサク行くよ。
しっかり捕まっていてね」
グッと足に力を込め近くの建物の屋根に飛び乗る。
「道が複雑ならまっすぐ行けばいいよね!」
幸い、この町の建物の屋根は平たいものが多い。
ー残り時間0秒になりました。羅刹化解除ー
「ま、間に合った」
あの後全力で屋根の上をダッシュしたおかげで、残り時間が切れる前に家にたどり着いた。
「まさか本当に運べるなんてねえ。
あんたのその華奢な身体のどこにそんな力があるんだか」
「えへへへ」
「お礼にお茶ぐらい淹れようかね」
「お婆ちゃん腰は?」
「あんたに驚いていたら、気づいたら痛みが取れてたよ。狭い家だけどゆっくりしていきな」
「ありがとう!」
それからしばしの間私はお婆ちゃんとのお茶を楽しんだ。
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