第21話【なりすまし】

 真っ暗な世界………何処か精神界に似ているような気もする。

 後ろには僕達の吸い込まれたところだけ、月明かりが入ってきている穴のようになっている。

 その穴からは松明を持って走って来てくれているエドラさんが見える。

 けれど、どの穴も段々と小さくなって行ってしまい、完全に消えてしまう。


「メアリ!! シグ!! 絶対に離すなよ!!」

「ああ! 分かってる!!」

「分かってるわ!!」


 シグがメアリと僕の腕をしっかりと掴む。


 その瞬間、強い風のような物が僕達に向かって数分間吹き始めた。


「グッ……ベイリス! これじゃあ離れちまうのも時間の問題だ!」

「ベイリス!! 私……そろそろ限界かも……」

「何とか耐えてくれ! メアリ! シグ!」


 グワングワンと風のような物の流れに揉まれ、初めは何とか耐えられていたが、ついには手が離れてしまい、シグもメアリも少しずつ遠ざかって行ってしまう……


「クソッ……!! くっそォォォ!!! シグぅぅぅ!! メアリぃぃぃい!!」


 そしてその瞬間一瞬にして周りの真っ黒な景色が荒れ果てた荒野に変わる。

 空はオレンジの様な、血の赤色の様な色だ。

 ………が、また一瞬にして真っ黒な世界に変わり、今度は暗い森の中の景色に変わった。


「ぐぇっ………」

『…………っ! おいベイリス! 大丈夫か!?』


 どうやらうつ伏せの状態で落ち、地面に着いた瞬間、どうやら僕は気を失ってしまったようだ。


……………………………………………………

……………………………………………………

 


 気が付くと僕は周り一面真っ白な世界を歩いていた。


 精神界ともスポナーとも違う感じだ。

 清潔感はあるんだが……

 なんかこんなに真っ白だと落ち着かないな……


 何もすることが無く真っ白な空間を何と無く歩き始める。

 少し歩くと、本棚やらテーブルやら様々な家具がふわふわと浮いて居る不思議な場所を見つけた。

 家具を横切って進んでみると、中央都市に居る紳士的な男性を思わせるようなの顔立ちの男性が玉座のような物に座りながら頬杖を突いている。


 う~ん、この人何処かで……

 何でか分からないけど、一瞬旅人的な格好をした、顔が思い出せない誰かを連想して様な……

 あ、僕の事に気づいた。


 ふと何をしているのか気になり聞いてみる。


「あの……貴方はここで何をしていらっしゃるんですか?」


 話しかけると柔らかな笑みを浮かべて僕の質問に答えてくれる。


『……世界を見ているのだよ……』

「……………?」

『君の世界にまで歪の影響が出てしまっているのは本当に申し訳ない……』

「………??」


 歪の影響? なんだろう、ソレは?

 そう思った瞬間あるモノが浮かび不意に言葉に出てしまう。


「もしかして、歪って、スポナー……?」


 何で歪イコールスポナーとなったのかは自分でも分からない。

 ただ自然と頭に浮かんで来た。


『あぁ、君の世界ではそう呼ばれていたね……それによって一瞬、君は別の異世界に飛ばされてしまったんだ……。』


 別の異世界? なんだソレ?

 もしかしてあの荒れ果てた荒野がそうなのか?


 そう頭で整頓していると男が続きを話し始める


『が、なんとか元の世界に君を戻すことが出来た……。だが、恐らく次は無いかもしれない、だから気を付けて欲しい。これは何度か君に告げて

いる神託と受け取って………』


 ………また自然と分かってしまう……

 偶に突如自分の頭の中に浮かんでくるあの不思議な感じ……あれが神託だ。

 そしてあの黒い魔物は”闇人”………


『ベイリス君、君にはこれを―――』


 男が手を僕の方に差し出すと、何処かで見た六色に輝く光の水晶玉が僕の方に飛んできて、一瞬何かの形になったように見えた……

 そして僕の胸元に……僕の体に溶け込んでいった。


「い、今のは一体……?」

『きっと、君には必要だろう……。そろそろ君を体に戻さないと行けなさそうだ、健闘を祈る。』


 そう男が言うと僕の後ろに金色の門が現れる。

 僕は自然と門に向かって進んでしまう……

 だがこれだけは聞いておきたくなった。


「あっ、貴方の名前は……?」


 すると彼は玉座から立ってその質問に対して答えてくれる。


「私の名はカオス……空間の神、ありとあらゆる異世界の創生神の補佐をしている。ベイリス殿、君に神の加護を与える………」


 それを聞き終り、門の中を進み、眩い光に包まれる。


……………………………………………………


 ベイリスが出ていくとカオスは玉座に座り一息つく。


「………。ふぅ……人間の前で威厳のある感じを出すのって疲れるなぁ~~……ま、前よりかは大分マシだったと思うけど。」


 ………と、そう呟き、カオスはまた歪が発生しずらいように、複数の異世界の空間の調節をしながら見守り始めた。


……………………………………………………

……………………………………………………


 ここは何処だ? ……分からない。

 シグ、メアリは何処だ……?


 周りを見渡すが真っ黒な世界、目の前には凄い警戒した様子でこちらを睨んでいるメアリの映っている窓のような物……


『んっ………此処は―――精神界か?』


 どうして精神界に?

 そんな事を考えてると声が聞こえる。


「ふぅ………やっと起きたかベイリス。丁度良い早く変わって説明を俺の代わりにして上げてくれ。」


 どうやらテラバヤシが、今は何故か体の主導権を握って外に出ているようだ。

 外に出ている方が気絶すると強制的に主導権が中に居る方に変わるみたい………


『え? うん。分かった”替わって”』


 そう言い終えた後あることに気づく。


 あ゛。そう言えばメアリが窓に映ってたって事はアレは外に出ている方が見ている景色だから―――

 あっ……察し。


 そして一瞬にして景色が変わる。


……………………………………………………


「…………。えーっと……メアリ?」


 テラバヤシと替わるとやっぱり目の前に居たメアリは警戒を少しだけ解いていっている。

 何か嫌な予感しかしない……


「本当にベイリスなの……?」



********************


 落ちるようにして窓に映る景色が変わる。

 ここは森か? さっきの一瞬映った不思議な色の空の荒れ地は何だったんだ?


 そんな事を考えていると、窓に映る景色がどうやら前から落ちて行っているように見える。


「ぐぇっ………」

『…………っ! おいベイリス! 大丈夫か!』


 うつ伏せの状態で地面に着いたように見えた。


「ベイリス!! どうしたん―――アレ?」


 窓に触れて”替われ”とも言って無いのに、体の主導権が俺に替わった?

 一体どう言う事だ?


 取り敢えず俺は起き上ってその場に胡坐あぐらをかいてに座り、目を深く瞑って精神界に戻る。


 中に入ると一点の闇の中に誰かが転がっている。

 考えなくても一瞬で誰なのか分かった。


『おいベイリス…………!! ………寝てる、だと? いや、気絶したのか。』


 どうやら気絶すると、精神界にいる方に強制的に主導権が移るようだ。

 打ち所が悪かったみたいだな……

 ……しょうがない、ベイリスが起きてくれるまで体は俺が動かしておくしかないみたいだな……


 そして精神界から出ていく。


 幸いにもあまり強い衝撃では無かったのか、緊張性気胸は起こしていないようだ。

 しかし、ベイリスはシグ君達みたいな魔法を使えないんだな……

 ああ言うのに少し憧れてしまった自分が何か、恥ずかしい……

 だが身体強化魔法と言うのは使えるみたいだな……試に見よう見まねでやってみるか。


 ベイリスがやっていたように何かの流れを身に纏うような感じのイメージでやってみる……


「あ。成功したみたいだ、何か体が一気に軽くなったな。」


 何か凄いな……今なら空も飛べそうだ……

 今軽く跳躍しただけでも二メートルは飛んだぞ……!?

 …………この世界には俺の居た世界は無かった力の概念があるらしいから、医学でも……科学でも俺一人では解明できそうにないな……

 兎に角誰か探そ―――


 その瞬間、身体強化の所為なのか、かなり遠くの方で黄色と青色何かが見える。

 恐らくこれががベイリスが力の流れと言っていた物だろう。

 雷と水か……とすると一人心当たりがある。


「確かメアリ……と言ったか? 多分あの子……だろう。」


 力の流れが見えた方に木々の枝々を飛び移る様にして進んでいく。

 何でそんな事をしたかって?

 下はなんか凸凹していてこんなスピードで走ったら直ぐに転んでしまうのが目に見えているからだ。

 しかも何故かこちらの方が進むのが途轍もなく早い。


 ………勿論決して、某九本の尻尾を持つオレンジ色の巨大な狐を体内に飼って居る、某忍者みたいに何と無くやってみたかったとかじゃないぞ。

 ただこの身体強化を使ったらどんな事までできるのかの医学で証明できないようなことに、少しだけ探究心が働いて意外と楽しくなっちゃっただけだ……!


 もし元の世界の知り合いにバレたら何と無く恥ずかしい気もするが…………どうせ居ないと分かってるんだしいいか!


「…………なんか体が十八歳だから精神年齢も若返ってしまっているよな感じが……自粛しよう……」


 後からこの時のことを振り返ったんだが、この時の俺は疲れで変なテンションになっていたみたいだ……


 そうして進んでいるうちに火のついた棒が見える所まで近づいていく。

 接触する前に、ギリギリで枝の上に立つように泊まり、ある事を思い出す。


 あ、しまった。そう言えばこの子、凄く勘が鋭かったの忘れてたな……

 ベイリスが起きるまで接触するのは止めといた方が賢明か――――


 そう思った瞬間、俺の足元の枝に雷のような物が当たり、足場の木が「ミシッ……」と言う音を立てる。

 思わず、ほぼ反射的に俺は隣の木の太い枝に飛び移る、映った瞬間さっきまで乗っていた枝が折れて地面に落ちる。


「そこに居るのは誰!! 私が三秒数える内に出てこないと今度は頭に当てるわよ!!」


 ちょっ……!!


「さーん! にー! い――――」


 いきなり脅迫!?

 あんなの頭に当てられた不味いぞ!


 下手すれば今にも打って来そうって感じの雰囲気だ………


 あー……もうしょうがない!

 一か八かだ! ベイリスの振りをするしかない……!


「ちょっ!! 待って待て俺だ! ベイリスだ!!」

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