第20話【見回り】
「よし! 取り敢えず被害がどのくらいなのか見回りにでも俺らで行かねぇか?」
「それもいいかもね、今村の人たちは沈黙ムードだし、誰かが今からでも動いた方がよさそうだね。」
そして、メアリが提案に乗るようにどこから先に被害を確認しに行くか提案を出す。
「じゃあまず、一番被害が酷かった所から調べに行かない? 私はその方がいいと思うんだけど。」
メアリの意見ももっともだな。
もしかしたらスポナーから湧き出てた魔物がまだうろついてるかもしれないし………
それにどんな雑魚でも、広場の方に一匹でも来たら一瞬にしてパニックを引き起こす人が出るかもしれないからな。
「ほーん。メアリちゃんにしてはまともな意見じゃん。」
「ちょっとシグ。それはどういう意味?」
「さぁな~」
シグがメアリの事を茶化して居るのを見ると、なんだか少しは前向きな感じになれそうだ。
「さてっ、そろそろ行動に移そうか、メアリ、シグ。」
「はいよ。」
「分かったわ、ベイリス。」
シグの親父さんに頼んで
そしてシグは松明に火の魔法を使って火を付け始める。
そんな様子をメアリは何処か羨ましそうに見ているような気が……
「何と無く私もシグみたいな火の魔法を使えるようになりたいわ……」
「唐突だねメアリ、何かあったの?」
「ただね、こういう感じの時に火の揺らぎを見ていたら何か落ち着く気がしたの……」
確かに暖かな感じの火の揺らぎって、砂時計の落ちる砂を見つめている感じで僕も結構好きだったりするな。
「水と雷の適性があるのにか? 二つも魔法の適性がある人なんて滅多に居ないんだぞ。」
シグが半分呆れ顔でそう言う。
そう言えばあまり聞かないな。
……身近にいる人の中で二つの属性の魔法を使えるのってメアリ以外に知り合いに誰かいたっけ?
…………。思い当たる人物がロクス兄さん位しか居ない……
ロクス兄さんは風と回復魔法だったけど、回復魔法って特殊だからどうなんだろ……?
そう考えるとメアリってロクス兄さんほどじゃないけど、結構レアなタイプなんじゃないか?
そんな事を考えていると、突然テラバヤシがとんでも無い発言をした。
『ベイリス。今思ったんだが雷と水を組み合わせれば火の魔法だって起こせるかもしれないぞ。』
(それ本当か!?)
確か今宮廷魔法士を務めている人も三つの属性の魔法適正だった筈……
もし火までメアリが使えたらこの国で一番凄い魔法士と技術、経験、魔力差を抜けば同レベルになるのかも知れない。
『ああ、洞窟でやった爆発を応用すれば出来る筈だ。』
もしテラバヤシの言う通りメアリが火の魔法まで使えるようになったら……
面白い事になるかもしれないな。
取り敢えず歩いて居るとスポナーが現れた草原まで付いていた。
「メアリ、さっき火の魔法を使えるようになりたいって言ってたよね?」
「うん。言ったけど?」
「もしかしたらメアリも火の魔法を使えるようになるかもしれないよ。」
「えっ!? 本当!?」
かなりメアリの目が輝いている……
「いやいやベイリス、流石にそれは無いだろー」
「分かんないよ、シグ、もしかしたら似たような物がメアリは使えるかも。」
テラバヤシの考えた方法は………
まず洞窟でやったのと同じように水の魔法を雷の魔法で電気分解し、水素と酸素を発生させる。
十分発生させたら雷の魔法を強めて火花を雷で発生させそれらに引火させる。
すると水と水の電気分解を止めない限り燃え続ける寸法らしい。
……純粋な火の魔法ではないけど疑似的に火の魔法を使えるかもしれない。
メアリにこの理論を伝える。
「う~ん……口では簡単に言ってるけど、ソレって結構難しそうだわ……」
「まぁ、丁度ここさっきの魔物の襲撃の所為で燃える物が無いんだし試にやってみてよ」
「……分かったわ……」
メアリは目を瞑って両手を重ね、手のひらを外向けて自分の前に出し、集中し始めた。
松明の光だけで薄暗いけど、目を凝らせば魔力の流れでどういう感じになっているのか僕は確認できる。
水色の水の魔法を使うときの流れと、黄色い雷の魔法を使う時の流れがメアリの背後から手元に掛けて現れてきた。
水の魔法を先に使い、そこに直接雷の魔法を乗せる。
……すると乗せた瞬間二つの流れが揺らぎ始めているように見える。
ギリギリ火花を出すところまで持っていけてる様だけど、引火する前に電気分解が止まってしまっていて中々成功していない。
「うっ、コレ中々安定させるのが難しいわね……」
『ふむ。安定させるのが難しいのか、それなら……ベイリス、こういう感じの説明をしてみてくれ……』
テラバヤシがメアリに伝えて欲しい事を僕に説明し始める。
何でそんな面倒臭い事をせずに「テラバヤシが替わって直接伝えればいいじゃないか」と、思う人がいるかもしれない。
だけどテラバヤシの事がバレた方がよっぽど面倒な事にもなると思い、今は隠しておくことにしている。
シグもメアリも勘が鋭いときがあるしボロが出そうだからな。
ポケットからハンカチを取り出して捩じる。
「メアリ、魔法を使うとき流れをこんな感じに
「………? 分かったわ、やってみる。」
再びメアリが集中し始める。
また二つの流れが見えて来た。
メアリが水の流れにお互いを捩じる様にして雷の流れを加えていく。
「アレっ? さっきよりも安定感が全然違うわ。これならいけそうよ!」
そしてメアリは一気に雷を強めて引火させる。
するとかなり長い火柱のような魔法が発生した。
「ま……マジかよ……」
シグはかなり驚いている。
メアリは火の魔法のような物が使えてかなり嬉しそうだ。
「わぁっ! 見て見てベイリス! シグ! 火の魔法が使えたわぁ―――………」
とメアリが言った瞬間に火が弱くなって消え、メアリが「クラッ……」とよろける。
すかさず横に居た僕が地面に倒れこむ前に支える事が出来た。
「大丈夫? メアリ。」
「ご、ごめんベイリス。興奮してて魔力の残り気にしてなかったわ……思ってたよりもコレ魔力使うのね……馴れれば制御出来そう……」
「と、言うことは単純に魔力切れなのね。さっき師匠に
魔力を回復させる
「メアリ、今の火力は中級魔法士の俺でも出せないぞ……」
シグはやっぱり、かなり驚いているみたいだ。
まぁ、疑似的な火の魔法とは言えど、幼馴染がほぼ三つの属性が使える宮廷魔法士レベルになったらかなり驚くよな……
それに水の中級魔法と雷の中級魔法を合わせると火の上級魔法ほどの火力が出せるのは新しい発見だな。
メアリが魔癒薬を飲み終わり、復活すると誰かがこっちに走って来る。
さっきのメアリの火柱を見た人がいたのみたいだ……
「――――!! そこに居るのはあんちゃん達がねぇか! 今の火は一体何が起きたのか分かったりするか!」
近くに来る人は顔を認識する前に、声と言葉使いで一瞬にして誰なのか分かった。
「エドラさん!! まさかレイドに参加してたんですか!?」
「おうよ、それがどうかしたか?」
「い、いえ、さっき死に掛けていたのにもうこんなに元気になってるって……」
『普通は最低でも一週間は安静にしてないとダメな筈なんだぞ……魔法、恐るべし……』
テラバヤシもびっくりしているみたいだ。
「そんな事よりもさっきのはまさか火の魔法か? 上級魔法級だったぞ。」
「あっ……それはわた―――」
メアリが「私がやった」と言おうとした瞬間シグが割って入る。
「今の俺の魔法、そんなに上級魔法級行ってましたか? いやー、地道に鍛錬していると自分でも気づけないもんなんですね~」
「え? 何言ってんのシグ。今のは私が―――モガッ!」
一瞬にしてシグの考えを僕は読み取り、メアリの口を塞いでからシグに合わせる。
「ほんっと、シグ、何時の間にあんな魔法打てるようになったんだ?」
「今、この草原燃えるモンが無いから思いっきりやってみたら思ってたよりも威力が出て自分でもびっくりしちゃったぜ。」
「………そうなのか。確かにあんちゃんは火の魔法を使っていたな……」
エドラさんは少し違和感を感じているようにそう言う。
「さっきのスポナーに思いっきり打ってたらヨカッタナ―――はははは……」
「ま、今は燃えるモンがねぇけど、下手すれば魔物を引き寄せちまうかもしてねぇから、あんちゃん達も程々にな。」
そう言うとエドラさんは広場の方にゆっくりと歩きだした。
何とかシグのトークスキルによって誤魔化す事が出来たようだな……
「ちょっとシグ、ベイリス、今のどういう事?」
「メアリ。ばーか。あの人は一応一回マルチ討伐で一緒に戦ったから俺達の使う魔法を知っているだろ?」
「だから何よ?」
「シグの言う通り、もしあの時メアリがやったって言ってたら確実に大騒ぎされるルートだよ……」
「と言うことはだな。下手すりゃ―――……ん?」
何か言おうとした瞬間シグが、メアリの後ろに現れたあるモノに気づいたようだ。
勿論僕も異変に気付く。
「ちょっと二人とも? どうかしたの?」
「メアリ……後ろを振り返らずに広場の方に逃げた方が良さそうだぞ……」
「僕も同感だ……」
「私の後ろに何か―――」
メアリが後ろに振り向いてしまう。
メアリの後ろ方に居るモノ……二十メートル程先に、満月の青白い月明かりで「ユラァ……」と照らし出されている不気味な真っ黒な人の形をしたヤツ。
間違い無さそうだアレは洞窟に居た人型の魔物だ……!!
「なっ……なんでアイツがここに居るの……!?」
メアリはアレを見てしまったようだ……
奴がまた洞窟の時みたいに右手をユラァと上げる。
すると今度はメアリの真後ろへ力の流れが出来ている……!?
そして一瞬にしてメアリの後ろにスポナーが発生した。
「キャッ! キャァァァァァ!!!」
が、今度は魔物が湧くのではなくメアリがスポナーに吸い込まれているっ!?
反射的にメアリの腕を両手でしっかりと掴み僕の方へ引き寄せる。
だが吸い込まれる力の方が圧倒的に強すぎる!!
僕まで引き寄せられ、シグが僕の腕の肩のあたりをなんとか掴むが、それでもまだまだスポナーの引き寄せる力が強すぎる!!
「――――――!!!! あんちゃん達ィィィィ!!!」
後ろの方でメアリの悲鳴を聞いて、大急ぎでこっちに向かって来てくれているエドラさんの声が聞こえるが……
間に合わず、とうとう僕達は完全にスポナーの中に飲み込まれてしまった………
―――――――――後書き――――――――
迷走し始めました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます