第19話【アセス草原】


 治療場の扉を開け、外に出る。


「「「……………!!」」」


 そして外で待っていた全員がエドラさんの意識が戻った事を認識するとかなり驚いていた。

 外に出るとエドラさんの二人の仲間が駆け寄る。


「エドラ!! もう大丈夫なのか!?」

「あ、あぁ良く分からんが大丈夫みたいだ。あんちゃん達にも少し心配を掛けちまったみてぇだな。」


 僕達の方を見て、少し申し訳なさそうにそう言う。


 近くで待機していたこの治療院の回復術士達もかなり驚いているな。


「ロクス回復術士!! 一体中でどのような処置を取られたのですか!!」

「目を覚ます可能性がかなり低い者を二度も完全に回復させるなんて流石です!!」


 うわぁ、前に出たロクス兄さん一瞬にして取り囲まれたよ。

 一瞬で道が塞がっちゃったな……

 ん? 二度も? ……あっ、一度目は僕か。

 それにしても面倒事が起きそうな予感が……


 そう思った瞬間、見事ロクス兄さんの爆弾発言が投下される。


「僕は殆ど何もしていません。実は重要な処置は殆どベイリス君が―――――」


 その言葉を聞いた回復術士達の視線が一気に僕の方に向く。

 不味った。

 今、前の一本道は塞がってて、此処には逃げ場が無い……

 

 回復術士達が僕に質問攻めを決め込んでくるのか……と覚悟を決めた時。

 突然、中央広場の非常サイレンがけたたましく鳴り響いてくる。

 そしてサイレンの後、耳を疑う物が聞こえて来た。


《緊急レイド発生 緊急レイド発生 スポナー発生の予兆がアセス草原で観測されました。スポナーがアセス草原に発生する模様です。ギルド登録済みの冒険者の方は、直ちにアセス草原へ向かってください。繰り返します。緊急レイド発―――》


 まさか!? アセス草原にスポナーが発生するだって………!?


「シグ! メアリ! アセス草原って!!」

「ああ、間違いない。」

「私たちの村が危険よ!!」


 そんな……一体今この国……いや、この世界では何が起こっているんだ……!!


「皆さん!! 緊急レイドは非常時の為、我々回復術士も現場に向かわなくてはなりません!! 直ぐに準備を!」


 ロクス兄さんが、その場に居たこの治療院の回復術士全員に指示を出す。


「メアリ! シグ! 僕達も向かうぞ!!」

「緊急の快速飛行が出来る飛竜船が出ているはずだ、村には丁度男手も戻って来て居る俺らも急いだ方がいい……!」


 直ぐにでも駆け出そうとした瞬間、僕はロクス兄さんに呼び掛けられる。


「ベイリス君!! これを君に!!」


 かなり切羽詰った状況で渡ロクス兄さんに何かを渡される。


「これって異空間収納魔法付きの魔道具の腕輪!?」

「きっと役に立つはずだ! 持って行ってくれ!」

「ありがとう、ロクス兄さん!」


 腕輪を右腕に着け、持っていたリュックを収納する。

 そしてすぐに、外にあったギルドの送迎馬車に乗り込み、飛竜船乗り場に向かう。

 乗り場に着く前に馬車の中にあったシグとメアリの荷物も収納し、快速の飛竜船に乗り込む。


「………」

「………………」

「……………」


 通常より少し揺れる快速の飛竜船で、不安に煽られながら村の乗り場まで着くのを待つ。

 こんな時に移動は只待つことしか出来ない……

 なんとも、歯痒はがゆいいモノなのだろう……


 何時もは飛竜の体力を極端に消費してしまう為滅多に行われない快速飛行……

 お陰で、いつもは二~三時間掛かるのに五分で着くと言う極端な竜の力をこの日初めて目の当たりにした。

 扉が開き、僕たちは一目散に走り始める。

 幸いにもそれが近くの草原のスポナーからはさっきの人型のような黒い魔物ではなく見慣れた、大量繁殖タイプが湧き出ている。

 じゃあさっき僕たちが遭遇したものは一体……? と思ったが、そんな事を考えるのは後だ。 


 もう既に何匹も村の中に入り込んでしまっていて、村の男たちがなんとか交戦をしている。

 まだ何とかあまり被害が出ていないようだ。


 過剰とも言える程の人員が来たようだな……と一瞬思ってしまったが、初めは草原に五~六個ほどのスポナーしかなかったがスポナーの量が一気に増えるにつれて湧き出てくる魔物の数も増えて行った。


 クソッ! 空を飛べる魔物まで出現してきている……

 被害が遠くの方まで出てきそうだ……

 早くスポナーを潰し始めないと!!


 スポナーには耐久値があるらしく、剣や魔法で攻撃し続ければ閉じる事が出来るらしい。

 実際たった今数人がスポナーに魔法を一斉に放って幾つか閉じたのが見えた。


 僕達もやるしかない……!!


 異空間から剣を取出し、身体強化を使いながら一番近くにあったスポナーを切ってみる。

 すると僕が切ったスポナーは「バシュッ……」と言う音を立てて閉じ消滅した。


「ベイリス! 今のどうやったんだ!?」


 シグは何回も切りながら火の魔法をっているが、まだ閉じれていないみたいだ。


「良く分からない!」


 シグの攻撃していたスポナーも切ってみるが結果は同じ。一瞬にして閉じた。


『ベイリス、良く分からんがお前はこのスポナーを一瞬で閉じることが出来るみたいだぞ。』


 もしそうだとしたら、僕が一番遣らなくてはならない事は只一つだ。


 次々に走り抜けながらスポナーを切って行く。

 シグとメアリも洞窟でやった爆発技を活用して次々にスポナーを潰していく。


 勿論スポナーから湧き出てくるのは決して雑魚ばかりと言うわけではない。

 辺りが血生臭い。


 よく周りを見渡してみると回復術師団が到着している。


 あ、他の回復術師団は町の方に守られながら進んで行ってるのに一人だけ動きが違うぞ……しかも見覚えが……あれ、ロクス兄さんだな。

 ロクス兄さんだけ回復術士なのに風の魔法が使えるから、地味に魔物を倒しながら怪我人に素早く回復魔法を掛けて、もし自分が怪我を負っても一瞬で―――

 うん。ロクス兄さんかなり暴れてるな……

 あの戦い方は常人には絶対できないもん。

 

『これはまるでレイドと言う名目の戦争の様だな……そしてあの人は戦鬼だな……』


 何とかスポナーは全て消滅させとじる事は出来そうだが、湧き出て来た魔物の数が尋常じゃない。

 草原側の家は何件か火の手が上がったりしていて、とんでもない被害が出ている。


 不味いな……いくら何でもギリギリの状態だ……!!


……………………………………………………


 大人数のレイド参加者と湧き出て来た魔物の長時間に及ぶ戦いの末、何とか被害を食い止めることが出来た………

 もう辺りは真っ暗になり、被害が少ない所との境目の村の広場に人々が集まり始める。

 中央都市との距離、回復術師団のかなり早い到着、複数のスポナーを素早く閉じれた事が幸いしてかなのだろうか……

 初めてスポナーが現れたディペア地方の被害とは雲泥の差だ。

 回復魔法で直ぐに完治出来る様な軽傷の怪我人は居れど死人は出ていない。


『ディペア地方での死人は殆どその土地に住む人……だったか?』

(あぁ……飛竜船の快速飛行の可能距離から遠く離れすぎていて、レイド参加者の到着がかなり遅れ、現場に着いた頃には村の人々は殆ど………)

『…………』


 広場は複数の松明で照らされているが、人々の表情は何処かやっぱり暗い。


 緊急レイドで招集された冒険者の人達も当分この村を離れられないらしい。

 そんな中、トレビジスさんが貯蔵していた食料を無償で配給したり、シグの親父さんと協力して炊き出しを行っていた。

 そしてロクス兄さん達回復術士も怪我人を広場に集め、治療している。


「まさかこんなに早く、しかもこんな形で戻って来る事になるなんてな……」


 不意にシグがそう呟いた。


「本当だね……もっと違う形がよかった。」

「復興が大変になりそうだ。また当分村での生活になりそうだな。」

「そうだね……」


 まさか自分の村の近くにスポナーが現れるなんて誰も予想していなかっただろう……


「…………そう言えばベイリス、メアリは何処だ?」

「あ、ああ。メアリなら炊き出しの食べ物貰いに行ってる。」

「……おいおい。呑気なヤツだな……」


 若干ため息交じりでシグがそう言う。


「ちょっとシグ、聞こえてるわよ。誰が呑気だって?」

「うをっ! いきなり後ろに現れるなよ!!」


 メアリが炊き出しの食料三人前をお盆で運んで来て、丁度着いた所だったらしい。


「ほら、ベイリスとシグの分も貰ってきたから暖かいうちに食べちゃいましょ。」

「……まぁ、腹が減っては戦に勝てずだね。」

「………? ベイリス、なんだソレ?」


『ベイリス、その言葉……多分だが幾つか俺の記憶と混ざってるところ記憶があるみたいだぞ……』

(そうなのか?)


 まぁ、特に支障はないだろ。


 取り敢えずシグがめっちゃ知りたそうにしているな。


「えーっと、簡単に説明するとお腹が減っていたら何も出来なくなるって言う感じかな?」

「…………。なるほど、確かに腹が減っては戦に勝てず……だな。」


 僕とシグはメアリから炊き出しの食料を受け取る。


「こんなに恐ろしい事があったのに何で何時かは必ず空腹になっちまうんだろうなぁ」

「哲学的だね、シグ。確かに人は下手すれば飢えで死んでしまうからね……」

「フフッ……そう言えば先月、ベイリスは死にそうな位飢えてる人に食事を奢ってやってたな。それも腹が減っては戦が出来ずって奴なのか?」

「…………ん? そんな事あったっけ?」


 身に覚えがないんだけどな……


「おいおい、『いやーちょっとそこでお金の無い極度の飢餓状態の人見つけたから思わず、ね。』って自分で言ってたじゃねぇか、確か俺らと同

い年くらいの年齢の旅人っぽい人だったかな。」

「えーっと……全く覚えがないんだけど……」

「まさかもう忘れたのか? アレはそうだなー確か夜に店の手伝いをしていて、六色の不思議な光を見た日だったっけなぁ。」


 六色の光? 確かルダウおばさんもそんな話をしてた気が……

 う~ん……その光の事をルダウおばさんに聞いた前日は……エイテ親父の所に行って、師匠の所に行ってシグに注文を頼んでから――………。



 ……なんでだろう? その後が全く思い出せない。



 思い出せるのは次の日の朝、何故か居間でテーブルに突っ伏してる感じで寝落ちして居た位だ……

 ……ん? まてよ。テラバヤシが僕の中に現れたのも丁度その日からじゃなかったっけ?



 その時、僕の記憶に何か………違和感のような物を覚えた。


 六色の光……テラバヤシの出現……覚えてない記憶……繋がりが無いように見えるが、何かで繋がっている気がした。


――――――――――――――――――――


 次回の更新日は5/20(水)の予定です

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