第17話【急性硬膜外血腫】

  そんな感じで休憩していると、唐突に何故かあるイメージが浮かんで来た。

 その感覚は注射針のイメージが浮かんできた時と同じ感じ……

 始めて胸腔穿刺をした日の朝みたいな最近良くある嫌な予感……


『ベイリス、今胸騒ぎのような物を感じなかったか?』

(テラバヤシも感じたの?)

『あぁ、ついでに変なイメージまでな。』


 感じ取ったイメージは何故かシグとメアリに教えて置かなければならない気がした。



『一応二人に教えといたほうが良さそうだぞ。』

(同感だ。)


 どうやらテラバヤシと僕は全く同じことを感じ取ったらしい。

 一体これは何なんだろう……

 始めは死に掛けたことが原因の何かかと思っていたんだが、テラバヤシの出現もあり、余計よく分からなくなって来たな。


「メアリ、シグ。伝えておきたい事があるんだ。」

「何かあったのか?」

「もしもの事があったらメアリは水の魔法を打ちながらそこに雷の魔法を打って、そしたらそこに向かってシグは火の魔法を打って。」


 これが突然僕の頭の中に浮かんできたイメージだ。

 正直、これがどうして突然浮かんで来たのかは分からない。


「急にどうしたの?」


 メアリが「キョトン」とした表情でそう聞いてくる。


「なんか最近僕の嫌な予感って結構当たる感じがして……まぁ、もしもの事があったらお願いね。」

「…………分かったわ。」

「あぁ、何か良く分からんが何かあったら試して見るからな。」


 メアリとシグは不思議そうにそう返事をする。


………そんな雑談をしてから数分後……


 外の光が降り注ぐその空間に突然「おい、あんちゃん達! 何か来るぞ! 構えろ!」と言うエドラさんの声が響き渡る。

  

 何とも言えないタイミングだ。

 どうやら僕の嫌な予感はやっぱり当たってしまったらしい。

 

 反射的に立って剣を構える。


「なっ、何だあれは…………!!」


 エドラさんが驚きの声を上げる。


「な、なぁベイリス………アレ、何だか分かるか? いや、何に見える?」

「…………。人型の魔物……に見えるね……」


 目の前にいるソレは真っ黒な何か……

 明らかに人でも無く普通の魔物ではない。

 こんな 魔物は今まで見た事がない………!!


「「不味くね?

  不味いな 」」


 シグと僕の声が重なった。


「あんちゃん達……ここは一旦撤退した方が良さそうだ……」


 エドラさんがそう告げてくる。


 人型の魔物は確かかなり強いと噂で聞いたことがある……

 とゆうかなんでそんな奴がこんな所にいるんだ!?

 ここは低級の魔物しか出ない低級ダンジョンじゃ無かったのか………!!


 奴はユラァと不気味な感じでジリジリとこちらに近づいて来ている……

 全員警戒しながら一定の間合いを保ち、奴に背を向けないようにしながら、少しずつ後ろに下がりつつ撤退する隙きを伺う。


 だが次の瞬間、人型の魔物の出現よりも驚くことが起こった。

 人型の魔物がこの場所の外の光が降り注いでいる中心で、右手をユラァと上げる。


 何か一瞬空間が歪むように見え、違和感を感じとり、目を凝らし、力の流れを確認する。

 すると、その魔物から僕達の後ろの方に今まで見たことの無い色の力の流れが出来ていた。

 思わず振り返ると後ろの方に謎の黒い球体が複数現れている。

 僕が後ろを振り返ると、エドラさんの仲間のうち一人が異変に気付いたようだ。


「エドラ! 後ろに何故かスポナーが現れてるぞ!」

「何だと!?」


 その瞬間、その場に戦慄が走る。

 こんな所にあるはずの無いモノが現れているんだし、誰でもその瞬間に異常事態と言う事が分かる筈だ。


  人型の魔物に対する警戒も増すが、やはりあれはスポナーだったのか……中から見た事も無い真っ黒な魔物が湧き始める。

 それらは形は違えど何処どことなく目の前にいる人型に似ている感じがした。


「まさか奴がやったってのか……!?」

「ダン! 直ぐに撤退す―――」


 出口の方に現れたスポナーから魔物が湧き始め、エドラさんが撤退の指示を出そうとした瞬間、奴の腕が剣のようになり、エドラさんを攻撃し始める。


「――クッ!! …………この野郎。ヤル気か?」


 そしてそのままエドラさんと奴は、誰かが間に入り込めないような戦闘に発展していってしまった。


「ど、どうなってんの!? ベイリス! シグ!」

「不味い事になったな、クソッ……俺らじゃとても入り込めなさそうだ……」


 助太刀したい気持ちもあるが……今、間に入ったら返ってが邪魔になって仕舞う。

 もどかしさを感じながら援護をする機会を伺うしかできない……


 エドラさんもそれなりに実力はある人らしい、だが若干押され気味に見える……

 奴の方が力が少し上の様だ。


 入り込む隙を窺っていると次の瞬間、エドラさんは何発か攻撃を剣で交わすが一撃受けてしまい額から血が噴き出る。


「グァッ………!!」


 その瞬間、魔物とエドラさんの距離が大きく開いた。


「メアリ! シグ! 今だ! さっき教えたヤツを!!!」

「「分かった!

  分かったわ!」」


 メアリとシグが瞬時に行動に移す。

 機会を伺っていたから二人の対応はかなり早かった。


 僕が教えた通りにメアリが水と雷の魔法を放っている所にシグが火の魔法を放つ。

 すると爆発が起こり、奴は直接爆発を浴びて吹き飛ぶ。

 そしてその瞬間になんとかエドラさんを救出する隙が出来、シグと助け出す事に成功した。


 爆発の種を明かすとこうなる。

 まずメアリの放った水の魔法にメアリが雷の魔法を放つことで水が電気分解され、水素と酸素が大量に発生する。

 そこにシグの火が引火すると酸素と水素の結合により激しい燃焼……爆発が起こった。


 のちにテラバヤシが『まさかこの世界にも似たような科学の法則があったんだな』と言っていたのは別のお話。


「う……あんちゃん達、すまない。」


 額の傷口から吹き出る血を片手で押さえながらエドラさんがそう言う。

 ……が、立ってるだけで精一杯見たいだ。

 傷もかなり深く、骨にまで達している……


 肩を貸しながら出口まで走っていると、さっきまで意識がしっかりしていたのに突然、意識を失ってしまった。


 薄暗い洞窟の道をひたすら走り抜ける。


『ベイリス!! 不味いぞ下手したらこの人はある病気まで発症してしまってるかもしれない!! 急げ!!』

「分かってる! ハァ……ハァ……どうか間に合ってくれよ……!!」


 僕とシグで謎の魔物の攻撃を受け、重症を負ったエドラさんを大急ぎで外まで運ぶ。

 前にはエドラさんの二人の仲間が複数のスポナーから湧いてくる魔物をなぎ倒して道を切り開いてくれている。


 クソッ…………!! これは一体なんなんだ!!


 何でギラク地方でも無いのにこんな所にスポナーが………!!!


…………………………………………………………………………………………………


 何とか外で待機していたギルドの馬車に乗り込み、ギルドの馬車使いに状況を説明し、大急ぎで治療院まで馬車を走らせる。

 やがて治療院に馬車が着き、大急ぎで治療場に運び込み、治療台の上に乗せた。


 「此れは大変だ!!」とロクス兄さんが直ちに治療を開始し、そしてすぐに他の回復術士も集まり大勢で回復魔法を掛け始める。


 みるみる骨にまで達していた傷が塞がって行く……何度見ても不思議な光景だ……


 だが、治癒が終わり、傷口が塞がるが目を覚ます気配がない。

 その場に不穏な空気が漂い始める。


「回復術士様! どうしてエドラは目を覚まさないんですか!!」


 エドラさんの仲間の一人が回復術士達に向かってそう言っている。

 ロクス兄さんの隣に居た別の回復術士が重々しく口を開いた。


「……恐らく頭に強い衝撃があった為、もう二度と目を覚まさないでしょう……」


 それを聞いた瞬間、その場に居るほぼ全員が複雑な心境に立たされた。


 「………そ…そんな……」と、エドラさんの仲間が声を漏らす……

 シグもメアリも、「もうちょっと早く助けに入って入れば……」と罪悪感に押しつぶされそうな声を上げている。

 だがそんな中、一人だけ……


 いや、一人格だけ違った。


『何なんだ!! まだ明らかに助けられるのに何故そんな事を言っているんだ!! 一刻を争う、ベイリス! ”変われ”!』

(ちょっ………!)


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