第16話【魔物の巣】
薄暗い洞窟を出口に向けてひたすら走り抜ける。
『ベイリス!! 不味いぞ、もしかしたらこの人はあるものを発症しているかも知れない! 急げ!!』
「分かってる! ハァ……ハァ……どうか間に合ってくれよ………!!」
僕とシグで、謎の魔物の攻撃を受けて重症を追ってしまったエドラさんを、大急ぎで外まで運ぶ。
前にはエドラさんの二人の仲間が、複数のスポナーから湧いてくる魔物を凪倒して道を切り開いてくれている。
クソッ…………!! これは一体何なんだ!
何でギラク地方でも無いのにこんな所にスポナーが!!
……………遡ること数時間前………………
今居るここは飛竜船乗り場。
村の知り合いが大勢見送りに来てくれている。
丁度今月、強制労働のようなものから帰ってきた男性達も見送りに来てくれているな。
「ベイリスー、体に気をつけるんじゃぞ!」
「分かったよ師匠。また当分家の管理お願いね。」
「あぁ、任せるんじゃ。」
そう言う師匠は若干寂しげなオーラを
「シグ。また無事に戻って来いよ。」
「当たり前だろ親父。オレが無事じゃなかった事があるか?」
「確かにな。俺の息子だ、そんなヤワじゃねぇよな。」
と、シグのお父さん。
「メアリ、しっかりとやるべき事はやってくるんだよ!」
「わかってるわよ、お母さん!」
メアリのお母さんとお父さんも見送りに来ていたな。
シグの店での水餃子騒動から数週間が経ち、
飛竜線に乗って数分後、テラバヤシが話しかけてくる。
『この世界は不思議だな。二十五歳を超えるまでほぼ強制的に冒険者という名目の徴兵をさせられるとは……』
(そんなに不思議な事なのか?)
『あぁ、俺の居た今の日本には少なくとも無かったな。』
(そうなんだ……)
『にしてもこの飛竜船ってのは面白いもんだな。』
(まぁ、この国だけだからね。)
どうやらテラバヤシのいた世界とこの世界にはいくつかズレがあるみたい。
そうしてテラバヤシと話したりメアリ達と話したり、調合のレシピ本を読んだりしていると何時の間にか
「ふぅ〜〜やっと着いたぁ〜」
真っ先にメアリが飛竜船から出て、両手を上に伸ばして伸びをする。
「さてシグ、メアリ、今日はどんなのがあるのか調べに行かないとな。」
「あぁ、じゃ、宿に行く前にギルドの掲示板でも見に行くか。」
「そうだね。」
人の流れに乗ってギルドに向かい、数分後建物の中に入る。
やっぱりここは活気に溢れている。
さて、今月はどんな依頼があるのかな。
素材集めに、この前シグが言っていたギラク地方の予想レイド……
マルチ募集しているダンジョン討伐"魔物の巣"、猪型の魔物十体討伐その他色々か……
『…………医者としては自分の来世がこんな事をしてるのは感心出来ないな。』
(まぁ魔物は繁殖力が異常に強いし、絶滅させちゃうと周りの地域から他にも更に強力な魔物とかが来たりしちゃうから難しい所なんだよ……量が多すぎるからそこの管理を依頼として張り出している訳だし)
『この世界独自の文化みたいな物なのか……』
どうやらテラバヤシは理解に苦しんでいるみたいだ。
「う〜ん……シグ、メアリ、どれにする?」
「猪型って結構硬いからなぁ……ソレを十体は……」
「じゃあ、今日やるとしたらこっちじゃないかしら?」
「迷うね……まぁ、取り敢えずこっちにする?」
……そして散々迷った挙げ句選んだ依頼は……
「あんちゃん達がギルドから連絡のあったマルチ討伐の参加者かい?」
魔物の巣の入り口に立っているマルチ募集をしていた、三人のパーティのリーダーらしいスキンヘッドの男がそう言ってくる。
「はい、そうです。」
「そうか。じゃあ、中に入る前に軽く自己紹介をしておこう、俺はリーダーのキート=エドラだ、よろしくな。」
軽くお互いの自己紹介を終わらせ、ダンジョン認定された洞窟の中に入り込む。
中は薄暗く、横幅は大体十メートル、高さは五メートルはある……結構大きいな。
まぁ、今回の討伐はただ繁殖力が強いだけの魔物だから狩るのが面倒なだけだし、この人数でも十分か。
奥に進むにつれて少しずつ魔物の出現が多くなってくる。
少しずつ魔物の入った麻袋を、ギルドの回収係の人が外に運んでくれているんだが、一向に減ってないような……
テラバヤシが『手術とは違った生臭さだな……』って何故か少し疲れ気味に言っていたな。
どんどん奥の方に進んで行くと、洞窟の天井に穴が空き、外の光が仲間で降り注いでいる広場のようなところに出る。
光の降り注いでいる所だけ苔や草が生えていて少しキレイ。
「わぁっ、この場所なんかすごく神秘的ね。」
「確かにな。」
さっきからエドラさんの仲間の人が半径五メートルほどを照らす光の魔法を使ってくれていたけど……
ここだけは必要が無いぐらいの明るさはあるな。
「さて、あんちゃん達。そろそろ一旦休憩としようか。」
「あ、分かりました。」
取り敢えず近くにあった座るのに丁度良さそうな石に腰掛ける。
「ふぅ……俺達まぁまぁ狩ったよな。」
回収してもらう予定の麻袋の方を見てシグがそう言う。
「まぁ、ここって結構居るみたいだからね。」
「本当にどうしてこんなに繁殖力が強いのか気になるぜ……」
このシグの一言を聞いて、テラバヤシは『確かマンボウとかは一度に三億個ほど卵を生むって説があるみたいなものなのか?』って呟いた気がした。
………にしてもまだまだ湧いてくるな……
休憩中もチラチラ出てくる度に話しながら、シグは片手で火の玉を放ったりして狩ってたりしてる。
ま、こんだけ狩ってればそれなりに報酬も貰えるは――――
そんな事を考えていると突然胸騒ぎのような……変な違和感を感じる。
……この違和感は奥の方からか?
たけどそんなに強い魔物はここに出る筈はないし。
「メアリ、シグ、何かいま変な感じしなかった?」
「ん? 何もしなかったわよ。」
「変な感じか……強いて言うと、ここには出ない筈の毒持ちの魔物がさっきから少し見かけるぐらいか?」
シグは足元にいた蛇型の魔物を剣で狩ってから持ち上げる。
………うん。確かにシグの言う通りこの魔物は弱いけど毒を持っているな。
「ちょっ、なんで二人とも私の事を見るのよ!」
「「いや、何となく。」」
「二人とも私に対して失礼な事を何か考えてない?」
「気の所為じゃないかな〜毒姫ちゃん。」
「シグ! だ・れ・が・毒姫よ!!」
何時も通りシグはメアリをからかって楽しんでいるなぁ〜
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