第15話【ハイムリック法】


……………………………………………………


「………………。じ、実は――――――」


 シグの話によると、メアリはさっき僕の家の鍵を勝手に開けて入ってきちゃった事を何故か気にしているらしい。

 何でそんな事を気にしてるんだろ?

 風呂上がりとか、着替え中じゃなかったら大丈夫だと思うんだけどな……


「ふむ。つまりメアリはベイリスの家にただ突撃しただけでそんなに気にしているのか?」

「………………」

「別に気にする事じゃねぇだろ。」

「で、でも何か起こってたっぽかったし……もしかしたら嫌われたかも……」

「いや、それは無い。特にベイリスに限ってそれは無い。俺ら何年の付き合いだよ……気にしすぎだ。」


 そして丁度話が終わった頃に、僕が店に到着したらしい。


「おっ、噂をしていれば……来たかベイリス。今日は珍しくメアリの方が早かったぞ。」


……………………………………………………


 そして前の話に戻る。


「――――って話をしていたんだ。」

「…………うん。メアリ、気にしすぎだよ。確かに僕もいきなり入って来たのはビックリしたけど、そんなちょっとやそっとじゃ嫌いになるような付き合いじゃないでしょ? 僕達。」

「……………。分かったわ……よし! この話はこれでオシマイっ! さて本題にはいるわよ!!」


 メアリはようやく本調子に戻ったようだ。

 …………何と言うか、一番傷つきにくそうな人に限ってこういう事ってあるよな……

 とゆうか、さっき怒ってるって勘違いされたのってテラバヤシと話してた所為じゃないか?


『俺の所為なのか?』


 テラバヤシがそう言ったけど、取り敢えず今はメアリとシグがいるので無視。


「まずはこの後中央都市に戻って、それからどうする?」

「う〜ん……そうだな、そろそろ資金も溜まってきたし俺らも遠くの方まで行ってみるか?」

「それ良いわね。行くとしたらギラク地方? それともドラン地方?」


 どっちもまぁまぁ距離があっていったことの無い場所だな。

 行くとしたらどっちにしようか迷う。


「あ、メアリ。さっきウチの客に聞いたんだが何だかギラク地方は封鎖中らしいぞ。」

「何でよ?」


 メアリがシグに聞く。


 ある特定の地域がまるまる封鎖されるって滅多にないよな?

 とすると何か絶対にあるのかも……


「詳しくは発表されて無いらしいんだが、近々大型レイドが発生するかも知れないんだとさ。」

「大型レイドねぇ……また繁殖期で異常に増えた魔物が居るのかしら?」


 次の瞬間、シグは驚くべき情報を出してきた。


「いや、どうやら丁度十年前に現れたスポナー型の予兆が現れたらしい。」

「――っ!? シグ! スポナー型って本当か!」

「あくまで噂だが、もし本当だったら下手すりゃかなり死者が出るかもしれ無いな。」

「確かに………前回かなり損失が多かったらしいしね……」

「ま、それなりに今、中央都市に戦力が集結してるらしいぞ。」


 そんな話をしていると、テラバヤシがある質問を抱いたようです僕に聞いてくる。


『レイド? スポナー? 何だそれは。』

(あ、大型レイドには大きく分けて二つあって、一つが繁殖力の強い魔物の以上発生。もう一つが十年前、突如現れた真っ黒い球体上の魔物の湧く謎の物体"スポナー"によるものがあって……)

『ふむ。この世界にはそんな物があるのか……大学生時代にハマっていたMMO RPGの世界みたいだな……』

(MMORPG?)

『ゲーム……とある物語の世界を再現したもので遊ぶみたいな物だ。』

(う〜ん……よく分かんないけど、テラバヤシの世界の人はそんな感じの魔法が使えるんだね。)

『…………。ゲーム自体が無いと説明って案外難しいな……』


 何故かテラバヤシは少し疲れるような声でそう言う。


 そして墨画テラバヤシと、話しているとメアリがシグに話しかける。


「ねぇシグ、全く関係が無いんだけど……小腹が減ったから何か注文していい?」

「流石大食らいのメアリちゃんだな。」

「失礼ね!」


 シグの発言を聞いたメアリは右手をの拳を握って、雷の魔法を纏わせてスパークさせ始めている。


「冗談だ、丁度今日腹持ちの良いジャンボ水餃子ってのがメニューに載ったから、良ければ食べてみてくれ。」

「分かったわ、じゃ、それで。」

「シグ、僕もソレ頼んでいい?」

「おう、分かっぜ。」


 シグが注文を伝えに行って、すぐに戻って来る。

 そしてその数分後、早速頼んだメニューの品が運ばれてくる。

 久しぶりに見る形(所々テラバヤシの記憶が混ざっているらしいからそう感じるみたい)の物がスープの中に入っている。

 サイズは思ったよりも大きいな。

 大体手の平サイズ。


『へぇ……この世界にも水餃子ってあるのか。』


 テラバヤシのこの反応を見るからにして他の世界にもあるみたいだ。


 早速この水餃子を食べてみた。

 するとテラバヤシが『餅みたいな食感だな。いや、餅に具を入れてるような感じか? 普通に上手いな。』という感想を漏らす。


 因みに僕の体は一つなので味覚とかそういう類の物はテラバヤシと共有状態らしい。

 

「あ、コレ美味しいわ。シグ、もう二つぐらい頼んできて。」

「うぇっ!? おいおい……これ一つでもまぁまぁ腹に溜まるぞ……昼は食ったのか?」


 シグはメアリの発言に驚愕の表情を浮かべている。

 そしてメアリはシグにケロッとした表情で返答する。


「勿論昼は家で食べてきたけど?」

「マジかよ……良くそんなに食っててその普通の体型キープ出来るな。」

「私ってなんか食べ過ぎても太らない体質みたいなのよ。」

「…………まぁ、いいか。じゃ、もう一回頼んで来るか……次はちょっと準備に時間が掛かるかも知んねぇけど。」

「何でよシグ。」

「さっきは偶々他にも頼んでた客がいたらしくてよ、親父がちょっと多めに作ってたんだとさ。ほら、そこに居る客だ――――」


 シグが見た先には、こんな時間から酒の入ったジョッキを持った客と他に連れの人が居る。

 …………が、何か様子がおかしい。

 一人が喉を掻きながらもがいている様な様子。


「だっ、誰か助けてくれ!! ツレが喉に水餃子詰まらせちまった!!」


 その声を聞いてその人の周りに人が集まって、背中を擦ったりして吐き出させようとしている。

 だけど、効果が全く無いように見える。


『…………どういう状況だよ……とにかく一大事だな、ベイリス君。"替わって"』


 また景色が真っ黒な精神界に変わる。


「ちょっと退いてください。」


 テラバヤシが囲んでいる人をどかしてもがいている人の近くによって行く。


『………テラバヤシ。コレどうにか出来るの?』

(あぁ、あんなただ擦っているよりかは全然良い方法がある。)


 するとテラバヤシは男性の近くによると、この男性を前屈みにさせて背中の肩甲骨けんこうこつの間を手の平で強く五回ほど叩き始めた。


「おい坊主! 何やってんだお前!!」


 連れの一人が突っかかってくるが、テラバヤシは無視して処置を続けていく。


 五回肩甲骨の辺りを叩き終わると、後ろに周り、後ろから肋骨あばらぼねの下の腹部あたりで両手を結び、上向きに突き上げ始める。

 それをテラバヤシは二〜三回繰り返すと……


「ガバッ……! ヒュウー……ヒュウー……ゲホッ……たっ……助かった……」


 テラバヤシの処置によって、男は喉に詰まらせたものを吐き出す事ができたみたい。


「「「…………………!!」」」


 さっき突っかかってきた人を始め、その場で取り囲んでいた人がかなり驚いているみたいだ。

 だが、助かったのを理解するとドッと歓声が上がる。


 何とか助けられたみたいだな。


『て……テラバヤシ、今のは一体?』

(今のは、ハイムリック法と言って喉に異物を詰らせた人に行う処置だ。)

『アレで本当に吐出させられるんだ……』

(とゆうか、なんで背中を叩くとかする人が居なかったんだ? あ、あともう替わっていいぞ、ベイリス。)

『あ、あぁ。"替わって"』


 テラバヤシと交代する。


 騒ぎが落ち着いてから喉に水餃子を詰まらせた人に何があったのか聞いてみると……

 どうやら酔っ払った勢いで丸呑みに挑戦したらしい。

 確かに酔っ払って無ければそんな事しないよな……

 空のジョッキがテーブルの上においてあるし。


 取り敢えず話を聞き終えた僕は席に戻っていく。


「ベイリス、今のは凄かったな。一体何処であんな事を覚えたんだ?」

「さ、さぁね……」

「…………? ま、いいか。取り敢えずさっきやった奴詳しく教えてくれ。今度、どっかの誰かさんが詰まらせちゃったりしたときに使えそうだから。」

「ちょっとシグ! 誰の事よ、だ・れ・の!」

「誰の事だろーなー」


 何時も通りシグはメアリをからかっている。

 けど、確かにシグには教えといたほうがいいかも。

 店で、もしもの時に使うかも知れないし……


「取り敢えずシグ、さっきの奴教えるね。先ずは喉に詰まらせちゃった人の後ろに回り込んで、前屈みにさせて―――」


 テラバヤシに詳しい事を聞きながらシグにハイムリック法のやり方を教えていく。


「……ふむ。確かにここら辺押したりすると空気が抜けるような感じがするな。」

「あ、シグ。このハイムリック法は乳幼児や妊婦にはやっちゃ駄目だからね。」

「おう。分かった。他に何か注意点とかあるか?」

「えーっと………窒息とか心停止で、二次的に酸素や血流が途絶えると人命救助は難しくなるみたいだから、処置はなるべく早く丁寧にした方が良いらしいよ。」

「そうなのか。……この前もコレを喉につまらせた酔っぱらいがいて本当に大変だったんだぜ……まぁ、最終的には誰かさんが思いっきり腹を殴って事なきを得たんだが。」


 どうやらもうすでに一回水餃子事故があったみたい。

 

「夜にこの料理を出すには幾つか改良が必要そうだね。」

「確かにな……兎に角粘り気を抑えるかサイズを小さくした方が良さそうだ。」

「確かに……」


 そうして僕たちは少しこれからの話し合いをし、解散した。

 この時の僕たちはこの数週間後、あんなとんでもない事が起こるなんて思っても居なかった……


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