第13話【多重人格】

『ほう……俺の声、聞こえてるのか。』


 やっぱり何処からか声がする。


「ど、何処に居るんだ!?」


 まさか幻聴?

 …………あり得るな、最近死に掛けたっぽいし。


『何処に居るかって? それは俺にもよく分からん。』

「…………? どう言う事だ?」


 僕がそう言うとまた声が聞こえる。


『今、俺の見てる景色は、な。一面の黒い世界に星っぽいモノが輝いていて、そして目の前にでっか位窓みたいな物がある。』

「…………?」

『その窓みたいな物に映っている景色は、茶色い椅子に同じ色のテーブル、その上には赤い花の入れられた花瓶が飾ってある。』

「それって……まさか……」


 その声の説明する景色と完全に一致するものが今、僕の視界に入っている。


『そう、今お前の見ている景色だ。』

「ど、どういう事なんだ?」

『そんな事は俺にも分からんな。ただ一つ確かになった事がある。』

「…………何が確かになったんだ……?」


 少し間を空けて声はその確かになった事が何なのか話し始める。

 その話は信じ難い答えだった……


『………俺はどうやらお前、ベイリス=デスティの中にいるみたいだ。』

「……………え?」




********************



 目を開けると、一面の黒い世界………

 なのに何故か手足など自分の体はくっきりと認識できる。


『………なん……だ? コレは……一体……? 俺は確か―――………っ!?』


 そうだ、どうしてなのかは良く思い出せないが、俺は確かに医者じゃなくても分かる程の致命傷を負って……



 そう………死んだ筈だ………



 あの時点ではいくら救急搬送が早くても処置が間に合わない筈……

 とするとここは死後の世界なのか?

 いや、医者がそんな非科学的な事を言うのもな……

 まぁ、そんな事を気にしているのは俺だけかも知れないが。


 そんな時に後の方から声が聞こえてくる。


「どうかしたのかぃ?」

「ルダウおばさん、今なんか聞こえませんでしたか?」

「いやぁ? なにか聞こえたの?」

「…………。気の所為……っぽかったです。」


 声の聞こえた方向を見ると、一面の闇の中に何故か自分の体同様はっきりと認識できる大きなガラスのような物が現れている。


 なんだ……これは?


 窓に映っているのは長閑のどかな田舎風景。

 どうやら朝早くの森のすぐ近くの田舎道のようだ。

 あとは三十代後半から四十代位の女性が歩いている。


 誰だ、この人? と思いながら見ていると……

 窓にタブレット端末のような縦三十センチ、横二十センチ位の半透明の黒い背景に白い文字で書かれた情報が流れてきた。


〔ルダウ=クリニグ〕


 性別/女

 職業/画家


 ベイリス=デスティがこの国クアタ国の中央都市、ドタアクトルに数ヶ月間か行っている間、家の管理を師匠と一緒にしてくれたらしい。

 実はドタアクトルの名のある画家。

 子供も居るが最近、師匠の家で何故か住み込みで働いてたな(従弟)

 夫はこの時期、この国の法律の一つの労働で支払う税の取り立てにより今は家に居ない。

 来月の緑玉石の月か、月長石の月まで帰ってこない為心配しつつも自由気ままに一人暮らしをしているようだ。

 師匠の娘、つまりベイリス=デスティの叔母にあたる。



 …………何だ? コレ。

 つーか、師匠にベイリス=デスティって誰だよ。

 …………あ、またなんか出てきた。



〔フーマス=デスティ〕


 性別/男

 職業/上級薬品調合士


 ベイリス=デスティの祖父。(ベイリスの師匠)

 村で四十歳から三十年間薬屋を営んでいる。

 最近は孫の一人が何故か住み込みで働いている。

 二人の孫に薬の調合を教える事もしばしば……

 最近は新しい薬を作ろうとしているが、なんのアイディアも浮かんで来ないようで良く漢方の調合をしている。

 趣味は温かいお茶を飲みながら本を読む事だとか……




 …………だからベイリス=デスティって誰なんだよ。


 何となく暇潰しにソレを読み終えた後、改めて周りを見ると……

 さっきは何故か気づかなかった、空に星のようなものが見えるのに気づく。


 そしてまた後ろの窓の方から声がする。


「ありがとうねぇ〜ベイリス君。」

「どういたしまして。」


 どうやら水の入ったバケツを運び終えたらしい。

 何故? 今どき水道の普及してない所なんて――――ってここ何処なんだよ。

 見るからにして日本の建築物ではない。

 今更感がすごいんだがやっぱりここは何処なんだよ……


 そして再び窓(?)を見ると、どうやらベイリス=デスティについての情報が現れているのに気づいた。



〔ベイリス=デスティ〕


 性別/男

 職業/中級薬品調合士・冒険者・???


 日本の医者、寺林てらばやしまさるの転生後の人物。

 現主人格。

 幼い頃に両親が行方不明となり、近くに住む叔母と従弟と一緒に育ってきた。

 両親の手掛かりを探すためもあって冒険者をやっている。

 師匠祖父調合を教わり、一応中級薬品調合士でもある。

 あと最近死に掛けた。


 …………は? 転生後?

 昔、高校生の長期間入院する事になった子を元気づけようと思い……

 確か……コミュニケーションを取ろうとしてその子の好きだったライトノベルと言うモノを読んだことがある。


 異世界転生だの異世界転移だのをまるで作者がしたかのように書いてあって、まぁまぁ楽しめてはいたな。

 確か大体の主人公が「異世界万歳!!」みたいに喜んでいたが、主人公は大体高校生かそこらの年代……

 俺みたいな七年前に三十路みそじ過ぎた大人がしてもそんなに興奮出来ないな……



 「興奮よりもむしろこれからどうすればいいんだ?」感がすごい。

 ただこの窓の外を眺めている事しかできないなんてな……


 いや、待てよ……さっき俺の声が聞こえていたみたいだったよな?

 このベイリス=デスティっていう人物が俺から見ると来世……にあたるのか?

 それにって言うことはまさか解離性同一性障害なのか?

 俺がいる事で。


 情報を読み終え、景色を見てみるとどうやらベイリスは家に丁度着き、中に入ったようだ。


『………やっと一人になったか……』

「……………っ!! だ、誰だ! 誰かいるのか!?」


 窓の景色がバッと後ろを振り返るように映る。

 そしてこの家の中をその場から見回しているようだ。



『ほう……俺の声、聞こえてるのか。』

「ど、何処に居るんだ!?」

『何処に居るかって? それは俺にもよく分からん。』

「…………? どう言う事だ?」


 あ、何だか不安、驚き、その他の感情が伝わってくる感じがする。


『今、俺の見てる景色は、な。一面の黒い世界に星っぽいモノが輝いていて、そして目の前にでっか位窓みたいな物がある。』

「…………?」

『その窓みたいな物に映っている景色は、茶色い椅子に同じ色のテーブル、その上には赤い花の入れられた花瓶が飾ってある。』

「それって……まさか……」


 窓の景色が花瓶のおいてあるテーブルに固定される。

 恐らく驚きのあまり凝視しているのだろう。

 勿論色々な感情が伝わってくる。


『そう、今お前の見ている景色だ。』

「ど、どういう事なんだ?」

『そんな事は俺にも分からんな。ただ一つ確かになった事がある。』

「…………何が確かになったんだ……?」


 そう。

 窓に映った情報を読んで、まさかとは思ったが、この反応からして間違いは無いだろう……


『………俺はどうやらお前、ベイリス=デスティの中にいるみたいだ。』

「……………え?」


********************

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