第7話【薬草刈り】

「………………」


 ……味噌汁って、何だ……?

 また何か知らん筈の単語が不意にポロって出たぞ。


 その時、まるで自分の知らない自分、自分の中にもう一人違う人格として居るんじゃないか?

 ……と一瞬不安になったのを結構覚えている。


 こりゃ、重症だな……

 さっさと風呂に入って寝るか。


 だが風呂の湯加減を確認してみるが、まだ少し生温いって感じた。


「う〜ん、まだ風呂が沸くまで時間があるし

、久しぶりに調合の練習でもしてみるか」


 何時も肌見離さず持ち歩いていた、様々な薬の作り方が記されたレシピ本。

 これはお父さんとお母さんの字で書かれていることから、二人でポーションの研究をしていたのだろう。


 コレによると取り敢えず―――この薬草と、あの薬草……えーっと確か去年の乾燥させたヤツが残ってた筈。


「…………今回試しに練習してみるのは解毒剤でいいか。」


 調合道具を床下収納から取り出し、本棚を少し動かして、壁に埋め込まれている隠し棚から幾つか乾燥させた薬草の入った瓶を取り出す。

 

 レシピ本によるとお父さんの字で


「蛇の毒やキノコの毒程度なら服用か傷口に掛ければ多少は―――っていうか殆ど解毒出来る。ポーションには程遠いい………」


 と書かれている。


「取り敢えず明日森の中に入るし効くのか分かんないけど幾つか練習ついでに作ってみていいか。」


 ……そしてその日は調合の練習をし終わった後、風呂に入りながら明日の言い訳を考えてから眠りについた。


………………………………………………………………


 ベットの近くの窓から明るい朝日、鳥のさえずりが聞こえてくる。

 気づけばもう朝だ。

 眠ると時の流れが極端に早く感じる。


「う〜ん……もう朝かぁ〜……」


 今日は特に変な夢も見ずに起きれたな……

 ここ最近変な夢を見てたし、ほんとに今日は何も――――


 そう思った瞬間頬を何かが伝う感覚がした。

 最初は汗かと思ったソレは別の場所から出ていることに気づく。


「あ、あれ? ……何で僕、涙流してんだろう……?」


 上手く思い出せないが、やっぱり不思議と何かの夢を見た気がする……

 一体何の夢を見たのかは分からないけど、懐かしいような……悲しいような……そんな夢を見たような気が……


「ほんと勘弁してくれよ……取り敢えず腹減ったしなんか食べるか……」


 確かまだ燻製肉が残っちゃって筈。

 早いうちにアレも食べ終えとかないとな。


 潰したジャガイモに食べやすいサイズに切った燻製肉を加える。

 味付けは―――塩で良いか。


 塩を加え、混ぜ合わせる。

 パンもあったし今日はトーストでいいか、いや、パンにポテトサラダを挟んでサンドイッチにしよう。

 昼は何にするかな?

 毎年いつも森に行ってるけど、どうせ今年もアレなんだろうから何時ものヤツと塩と他に何か持ってくか。


 あ、そう言えば昨日の謎汁みそしるが朝ごはん用に残してたな。

 ゆっくりかき混ぜながら温める。


「よし、こんなモンだな。」


 ザックリと作った料理を食べ、取り敢えず今日の準備を終え、色々入ったバッグを持って家から出て行く。

 さて、いつものベンチで言い訳でも考えながら待ってるか。


 う〜ん……今頭に浮かんでいるのは……


―――――――――――――――――――――


〔言い訳 一〕


・何となく思い付きてやったって言う。


→「じゃあ何であんなに詳しく知ってたの」って突っ込まれたら終わる。


〔言い訳 二〕


・結構前にロクス兄さんに教えて貰ったっていう。


→「じゃあ、手紙でロクス兄さんに聞いてみるわねっ!」ってメアリの事だからこうなりそうで怖い。

 まぁ、すぐにバレる。

 ロクス兄さん嘘が上手くないし……


〔言い訳 三〕


・「う〜ん……ひ み つ」って言う。


→(多分、中級位の)雷の魔法が飛んできそう。

 メアリの事だから無理矢理にでも吐かせようとしそうだし……


〔言い訳 四〕


・もう面倒だからありのまま本当のことを言う


→なんやかんやで誤魔化せそう。


―――――――――――――――――――――


 ……今頭の中に浮かんでいるのはこんなモンだな。

 …………しょうが無い。〔言い訳 四〕で行くか……一番面倒だけど。


 本当かどうか知らないけど、メアリは嘘かどうかは女の勘で分かるらしい。

 シグの冗談うそは何か見破れないらしいけど……

 そういや、シグって冗談を結構しれっと言う時が多いから真似して、しれっと真顔で言えば誤魔化せるか?

 ……まぁ、怖いから試さないでいいか。


「おっ、ベイリス、やっぱり集合は一番か。」


 広場の西からシグが歩いてくる。


「まぁねシグ、僕が頼んだのに頼んだ方が遅れて来るのもアレだからね」

「それにしても俺達は、来月の緑玉石の月まで当分スローライフ送ることになりそうだな。」

「だな。そういやシグ昼はどうすr――あ、メアリ来た、やっぱり今年も竿持ってる。」

「あいつ今年も薬草刈りしながら昼は魚釣る気だな。まぁ、俺も釣るけど。」


 メアリが広場の東から歩いてくる。


「おっまたせ〜」


 釣り竿を毎年のように持ってくるメアリ。

 何時からか昼は釣りをして釣った魚を昼飯にしたりするようになってるんだよな。

 まぁ、僕も竿持ってきてるけど。


「おい……まさかだけどな、メアリ……」

「何よ、シグ?」

「薬草って川で釣れるもんだと勘違いしてないよな?」

「流石に私もそこまで馬鹿じゃないわよ!」


 メアリがそう言うとシグは意地悪そうな笑みを浮かべながら「本当かなぁ〜〜」って言った。

 まぁ、勿論いつも通りのノリだな。


「さて、そろそろいつもの川原に行こうか、メアリ、シグ。」

「はいよ。」

「分かったわ。……そう言えばベイリスは釣り竿持ってるけどシグ、アンタはどうしたの?」

「フッフッフッ。この前簡単に持ち運べて上部だって評判の組み立て式の竿があるんだなぁ〜」

「そうだったのね。」


 そしてず初めに森の獣道を歩き出し、三十分程歩くといつも薬草を採っているポイントに着く。


「さて、ベイリス。今日はどの薬草を探せば良いんだ?」

「えーっとこの森位ならコレとコレと――あ、昨日調合の練習したら何時ものが少なくなって来てたからアレもよろしく。」


 採って来て貰いたい薬草の押し花標本を、透き通った袋に入れれて厚紙に貼り付けて本状にした物をシグとメアリに渡す。


「よっし、俺は下流の方を探してくるからな。」

「じゃあ、私は滝壺の方を探してくるわね。」

「分かった。じゃ、僕は苔むした巨大岩の辺りを探しながらメアリがシグの方にぷらーっと行ったりするかも。」

「りょーかい」

「分かったわ。」


 確認し終わったとき、シグが何かを思い出したような表情をする。


「あ、メアリ、去年みたいに毒キノコ刈りしてくんなよ?」

「あっ、アレは偶々殆どのキノコが毒を持ってたってだけだからね! 別に食べようとしてないからね!」


 そう言えば、メアリは去年も滝壺で魚を取るトラップを仕掛けたり釣りをしながら薬草とキノコを採ってたな。

 キノコ類って結構滝壺に結構生えてるらしい。


「メアリ、もし良かったら毒キノコとかも刈ってきて。」

「えっ!? ベイリス、まさか食べるの!?」


 メアリが驚きの表情を浮かべている。


「いや、新しい薬の材料にならないかな〜っと思ってさ。」

「はっはっはっ、さっすが大食らいのメアリちゃん! 食べることしか頭にないのかぃ?」

「コラッ! シグ!!」

「まーまー、さて、メアリ、シグ。そろそろ始めようか! 昼になったら一回ここに戻ってくるってことでよろしく。」

「了解」

「分かったわ。」


 そしてそれぞれ分かれて広範囲を探しに行く。


 森の中に入ると――おっと、如何いかにも毒々しいキノコ発見。


 早速バックから何時だか師匠に貰った植物図鑑を取り出し、どんなものなのか調べる。



「えーっとこのキノコは―――神経毒……か。」


 直感でこのキノコから作る薬は何かに使えそうだと思い、周りに生えているキノコをいくつか残して採る。


 多分コレで来年も取れるかもしれないし。

 確か今まで挑戦してなかったけどこのキノコを使った薬があっは筈。



 ――――このキノコの加工用途としてはえーっと――毒のエキスを取り出して麻痺効果の薬を作れるみたいだな。

 他にも狩人用の弓矢の神経毒として売ったりできそ――……

 あ、メアリに昨日の報酬返してもらわないとな。


 そして身体強化で視力を上げながら着々と薬草、香草、山草、毒キノコ、ついでにクワの実、山葡萄とかを見つけては少しずつ採っていく。


 今年は実りが良いのか去年よりも短時間で結構集まったな。

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