第五十四魂
微かな信頼は花火の如く
日は西の山に姿を隠し、明るかった空が群青に染まる。ほのかに星も姿をあらわし、その一つ一つがちろちろと輝き主張していた。このように、普段ならば月や星の光と切れかかった街灯の不安定な明かり以外、まともな光源のない
というのも、その日は決まって花火大会が開催されるからである。普段ならさっさと店じまいにする商店街も、焼きそばや綿菓子、金魚すくいなどの屋台が軒を連ね、通りには赤や黄色、緑などの提灯が飾りつけられる。夜には滅多に日の目を浴びることもない公園も、その日の夜だけは人で溢れかえるのだ。
そしてそれはけして、今年も例外ではなかった。
「よっしゃ!とっ……て、えぇ!?」
十分すぎるほどに水を吸いきった紙縒りは、その先に取り付けられた金具より少し手前辺りからちぎれ、引っかかった黒い水風船のヨーヨーもろとも真っ逆さまに落ちてしまった。それがビニールプールの中へ着水してもわずかに水面を揺らすだけで、あとは何事も無かったかのように、ビニールプールに浮かぶほかのヨーヨーと同様にぷかぷかと揺れはじめた。見事にそのヨーヨーを釣り上げたと思いこんでいた少年……
「あぁ、惜しかったのに……」
「なんでだよ!いけてたじゃんよぉ……!」
「はい、残念だったね。もう一回やるなら二百円だよ。」
屋台の向から、店主の気怠い声が聞こえてくる。その眉間にうっすら残る皺を睨みながら、蒼太はウンウンと唸って頭を抱えはじめた。
「二百円……ヨーヨーに二百円かぁ……」
「二回やってるから次は六百円だね。」
「ああっ!!ホントじゃん!!てか晄もやれよ!なにレーセーにブンセキしてんの!?」
「えぇ!?」
自分には関係ないだろうと、他人事のつもりで横槍を入れていた晄だったが、蒼太の一言によって一気にその立場が覆されてしまった。店主の視線も、それに伴って蒼太から晄に移り変わる。先程蒼太と合流してから一つ目に向かったこの屋台では、確かに晄は一銭も使っていない。一方の蒼太は四百円。これでは、次に晄が二百円のヨーヨー釣りに挑むような流れになるのも不自然では無かった。
ほぼ全ての屋台を制覇したいと豪語していた蒼太は、ヨーヨー一つで六百円も消費するわけにはいかず、これ以上ここで金を使い込むとは考えづらい。店主もすっかり晄が次に二百円を支払うものだと期待している。もとより断る気もなかった晄は、この流れに呑まれることにした。
「じゃあ、一回だけやろっかな……。」
「まいどー。がんばってな。」
身につけていたボディバッグから黄色のがま口財布を取り出すと、その摘まみを捻って拾い上げたきっちり二百円分の小銭を店主に手渡した。彼女から渡された五十円玉四枚を確認した店主が少し立ち上がって、沢山束ねられた紙縒りの束から一本取り出すと、それを彼女の掌にのせながら気のない応援の言葉を吐き出す。左隣から来る熱い視線に気を取られながらそれを受け取ると、その視線から逃げるようにビニールプールのヨーヨーに目をやった。
「おまえ、やっぱ黄色にすんの?」
「そのつもりだけど……黄色だけでもいっぱいあるな……。」
「かわんねぇなホント。たまには違うのにしたら?」
呆れ顔でそう提案する蒼太には特に反応もせずに、晄はいつになく真剣な眼差しでビニールプールのヨーヨー達から選りすぐりを見つけ出そうと身を乗り出していた。すると、波で小さく揺れるその中で、とびきりに丸く、そして大きなヨーヨーが目に飛び込んできた。これだ、これがいい!と心の中で叫ぶと、晄はそれに向かってゆっくりと紙縒りを下ろしていった。なるべく紙縒りを水につけぬように気を張り詰め、金具だけが水に浸かるのを見届ける。しかし、M字型の金具は、その端と紙縒りが結ばれた場所の高さが等しいように作られており、晄はここまで来てようやく、紙縒りを水面に下ろすことは必須だと気付いた。
「……水につけたらちぎれるよね。」
「おう。おれのプレイングから言わせるとそうだぞ。」
「でも、これ絶対つくよね。」
「……そうだぞ。水からは逃げられない悲しい定めだ。そして無慈悲にも千切れる。あきらめなさい。」
何故か諦めを促してくる幼馴染みの言うことを聞く気は晄に無かった。というのも、晄はヨーヨー釣りの屋台にくるのはこれが初めてというわけでもなく、過去に訪れたその何回かで、見事ヨーヨーを釣り上げたところを目撃しているからである。ただ、その記憶は何年も前の話である上に、釣り上げていたのは晄ではなく、兄の
「いっそのことびっちゃり浸しちゃえば?」
「え?」
紙縒りとにらめっこをしていた最中、後ろから聞こえてきた提案の声に晄が振り返れば、萩の花のような赤紫色の髪が揺れるのが見えてきた。その二つに緩く結われた毛先から徐々に視線をあげると、澄んだ青色の目と目が合った。左隣の蒼太も同時に彼女に気がついたようで、その姿を目に入れると、一瞬驚いたように目を見開いた。
「な、なんだよ
蒼太が狼狽えた表情で声を絞り出せば、小萩と呼ばれた彼女は、クスクスとおかしそうに笑いはじめた。
「くふふっ。だって、釣り上げるの待ってたら花火始まっちゃいそうだったんだもん。」
「そんなことねぇし!な、晄?」
「……否定出来ないかも。」
「もう、そこは否定していいとこなんだよ?晄ちゃんってば昔から変なとこで予防線張るよね。」
「え、そうかな……?」
小萩にそう言われたものの、晄の自覚するところではなかったので、当の本人はきょとんとした顔を浮かべるのみであった。
小萩は、晄のもう一人の幼馴染みであり、この花火大会に彼女を誘った張本人である。晄がまだ木霊市に引っ越す前まで、彼女の同級生は蒼太と小萩、そして双子の兄の洸のたった三人であった。一学年にたった四人しかいないため、一学年下の生徒との複式学級となることが常だったが、その中でも唯一の同学年の同性である小萩は、晄の内面を特段よく理解していたのであった。
そんな彼女に言われたらば、そうなのかもしれないという気がしてくるのが不思議である。すっかり右手を止めて考え込んでいた晄だったが、その右肩をポンと叩かれると、チャプンと水の音がして右の指先が濡れる。何事かと目をやれば、真っ白な紙縒りが右手もろともビニールプールの水面に沈み込んでいたのであった。
「うわぁ!?なっ、小萩!?」
「おい、なんてことしてくれたんだ!いかにヒモを水に濡らさないかがキモなんだぞ!?」
「晄ちゃんに諦めを促した人がなんか言ってるよ。」
「なにぃ!?」
当人である晄以上に本気で怒る蒼太に、小萩は左手でデコピンを食らわせた。その裏で紙縒りをずりずりと水から救出した晄は、水を吸って重たく色を変えたそれに、悲哀に満ちた視線を送るのみだった。
「もう、急にやっちゃったのは謝るから、そんな悲しそうにしないでよ。」
「タイドがなっとらん!背筋を伸ばして九十度頭をさげ……ったぁ!!」
「デコピンじゃもの足りなかったかぁ。」
「ごめんごめん!!チョップしないで!!」
「……そういえば、小萩さっき浸しちゃえばって言ってたよね?」
幼馴染み二人が騒がしくしているのを聞いていたとき、晄は思い出した。小萩がここで話しかけてきたとき、一体何と言って声をかけてきたのかを。彼女が言っていたのは、気さくな挨拶でもなければ簡単な世間話でもなく、ヨーヨー釣りに手こずっていた晄へのアドバイスであった。水に紙縒りを浸すのを躊躇っているのなら、いっそのこと浸してしまえばいい。彼女は、その発言通りのことをしたのだということに、この時晄は気がついたのだった。
「そもそも、なんで紐が水に付くと千切れるかって、分かる?」
「……全然。」
「そんなもん、神様が決めたからだろ。」
「変に否定出来ないこと言わないでくれる?……水を吸ってるところと吸ってないところで性質が変わっちゃうからだよ。」
「……?」
「……それを決めたのは、神様じゃん。」
「この、おバカ共め。」
二人からアホヅラを上回ったアホズラを披露された小萩は、ため息を吐きながらああ漏らした。一瞬明後日の方向を向いた彼女だったが、すぐに二人に向き直って、サッと晄の右隣に立った。
「ざっくり言えば、水に濡れてないとこと濡れてるところが喧嘩しちゃうってこと!だからいっそのことみんな水に濡らしちゃえば喧嘩しないから千切れないの!!」
「わかったような……」
「わからねぇような……」
「理屈なんかいいの!ほら、晄ちゃん、それでやってみてよ。」
「そうだね。やってみる。」
そう告げる晄の目は、ヨーヨーの並ぶポップな風景に見合わぬほど真剣だった。その目で、お目当てのヨーヨーの紐に狙いを定めると、紙縒りを下に下げて金具を近づけた。金具が完全に水に浸かりきったところで、ヨーヨーの紐の輪っかに引っかかるように横へ移動させる。しばしの沈黙。遠くから小さな子どもの発する甲高い泣き声が響いてきたとき、晄が持ち上げた紙縒りの先には、まん丸く膨らんだ黄色のヨーヨーが揺れていた。
「晄ちゃん、ほんとに良かったの?」
「良かったのって?」
「だって、折角釣り上げたヨーヨー、あげちゃったじゃん。」
「ああ、うーん……まぁどうせ
あの後、見事狙っていたヨーヨーを釣り上げた晄だったが、それから三十分と経たずに彼女の持ち物ではなくなってしまった。というのも、それを迷子の子どもに明け渡してしまったからであった。
ヨーヨーを釣り上げ、花火のよく見える公園に向かおうとしたときだった。ヨーヨー釣りの最中から聞こえていた子どもの泣き声が気になった晄は、その声がする方に向かったのであった。母親を呼びながら泣き叫ぶその姿は明らかに迷子であり、親元に送り届けようにも泣き叫ぶばかりで話を聞けるような状態ではなかった。そこで晄は、その子どもにヨーヨーを与えて落ち着かせることで、なんとか話を聞き、親元に届ることに成功したのだった。
齢三つ程の子どもに、親元に送ってやったのだからヨーヨーを返せなどと言えるわけもなく、晄はそのままその子どもにヨーヨーをプレゼントすることにしたのだった。小萩の問いに晄はああ答えながらも、やはりどこかに心残りがあったようで、その表情はスッキリとはしていなかった。
「やっぱり、ちょっと後悔してるんじゃない。」
「え、そんなことは……」
「そういうの、晄ちゃんの悪いクセだよ。自分が我慢すればいいって思ってるんでしょ?」
「いやいや、大袈裟だよ!」
「どうだか。さっき蒼太くんが屋台回りに行くって行った時も、ホントは行きたかったの我慢してたんじゃないの?」
「だって、着いていったら女の子一人になるじゃん。」
「……全くぅ。そういうところでしょーが!」
「ミ゙ッ!」
不意打ちでやって来たデコピンに、晄はおかしな悲鳴を上げながら額を抑えた。椅子代わりのブランコを揺らしながら、うらめしそうに小萩を見る晄。一方の小萩は、その顔を軽く笑んで見せながら見つめ返した。
「……なにするんだよ、もう。」
「晄ちゃんって、結構利他的だよね。」
「りた……てき?」
「自己犠牲ってヤツだよ。自分の事より他人の幸せを優先するっていうか……」
「……そう見える?」
「見える。……ホーント、洸と双子なんて思えない。」
「え、なんで洸?」
脈絡もなく出て来た兄弟の名前。それに少し眉間に皺を寄せた晄だったが、すぐに平静を装う。しかし、その左の口角が上がりきっていない歪な笑みに、小萩はその胸の内を察したようだった。
「晄ちゃんが一番分かってるでしょ。こはぎ、あいつより利己的な人知らないもん。」
「……。」
「あいつ、晄ちゃんのこと苛めてたでしょ。苛めなんて、利己的な人がするようなことじゃん。」
「いや、苛めってわけじゃないと……」
「晄ちゃんが嫌がってるの分かっててやってるんだよ?あいつ。晄ちゃんが苛めだと言わないとしても、あいつがヤなヤツなのに変わりないよ。」
小萩が冷たく言い放つ言葉。その言い方にも内容にも、晄の気分は削がれた。彼女の顔を見ていられなくなって、晄は空を見上げる。瞬間、屋台が建ち並ぶ方向から、輪郭のおぼろげな女性の声が聞こえてきた。わずかに耳が拾い上げた『ご来場の』という言葉が、その声がアナウンスである事を教えてくれる。
「……そろそろ花火上がるみたいだよ。」
「え?」
晄がそう口にすれば、小萩も釣られて上を見上げる。瞬間、ヒュルヒュルと音を上げながら光の筋が駆け上がり、弾けた。真っ赤な花火の光が、二人の顔をわずかに照らす。それが止んでも、今度は緑色の花火が上がり、その次は紫が上がった。二人は、そうして上がる花火達をしばらく黙って見つめていた。ドンッ、ドンッと止まず響く音が身体中を揺さぶり、ブランコの鎖を握る手に力がこもる。それがようやく止んで、パラパラと静かに音がするのを聞いたとき、隣でブランコに腰掛けていた小萩が立ち上がった。
「あいつの話なんかされたくないのは分かってるけど、これで最後にするから聞いて。」
いつになくシリアスな表情に、晄は身構えた。小萩は、晄の右隣にピッタリと移動すると、軽く足を曲げて、その耳元に口を近づけた。その間に、またあのアナウンスの声を左耳が拾う。小萩が話し始めると同時に、黄色の花火が上がった。
「晄ちゃん達に会う前に、洸を見かけたの。あいつ、ずっと晄ちゃんを見てたよ。」
「……え?」
ドンッと花火が上がる。同時に、心臓がドキンと震えた。
「杞憂ならいいんだけど、なにか企んでいるように思えてさ。こはぎのこと見つけたら逃げてったけど、それって疚しいことしようとしてたんじゃないかって。……帰りに気をつけて。」
彼女が話し終えたとき、一等大きく紅い花火がパラパラと音を立てて散った。同時に、小萩は晄の耳元から移動して、先程まで座っていたブランコに腰掛けた。遠くで、こちらに呼びかけてくる蒼太の声がする。晄はそれに答える事も、小萩の方を向くことも出来ず、ただ次の花火を待った。
何故、こんなに身構えなければならないのだろう。チカチカと危うい光だけが照らす坂道。所々歪み、白のメッキが剥がれて錆び付いたガードレールが酷く頼りなかった。賑やかだった花火大会の会場を抜ければ、徐々に人気が無くなっていき、気付けば一人になっていた。蒼太は家の方向が真反対であるし、小萩は親の車に乗って帰る事になっていたようで、遠くでバサバサと翅を動かす蛾の他には何の気配もしない帰路を一人で歩かなければならなかった。
小萩にあんな話をされて以降、晄は悠長に花火なんぞ見られなかった。ただ洸のことばかりを考えて、全く身が入らなかったのである。もし彼女の言葉が事実ならば、洸も帰り道にここを通るだろう事は確実である。やはり、彼には遭遇したくは無い。あんな話を聞かされたら尚更であった。
「……そうだ、エレッタに迎え頼んじゃおうかな。」
晄は、酷く不安だった。なんとか、その不安を埋められないかと考えていたとき、晄の頭の中に妙案が浮かんだ。一人という状況を覆せばいいのである、と。思い立ったが吉日。晄は、身につけていたボディバッグからスマートフォンを取り出すと、電話帳アプリからエレッタの電話番号を見つけ出し、電話をかけた。プルルル、と言う音が二度ほどしたところで、電子音は耳慣れた低い声に変わった。
『どうした。』
「エレッタ、今どこにいるの?」
『お前の家だが。』
淡々としたその声に、思わず安堵のため息が漏れる。長らく体を引っ張り上げていた緊張の糸がほどける心地がした。いつも通りの調子を取り戻しはじめた晄は、先程よりも明るい声で続けた。
「じゃあ、ちょっと坂の方まで来てくれないかな。」
『……どの坂だ。』
「えっと……なんて言えば……あ、公園のそばの橋行った先のお社の……」
晄は、何とかエレッタが理解出来るようにと、彼女の中で出来る限りの語彙を尽くして説明する。電話越しの彼はただ黙って、その言葉を咀嚼しているらしかった。晄は、説明することに手一杯になりすぎていた。何気なく足元を見たとき、晄はようやく、すぐ傍に何者かが来ていたことに気がついた。ピシャリ、体が固まる。目に付いた影は、よく見ると晄とよく似た立ち姿を映し出していた。
『……どうした?』
急に黙り込んだ晄を不思議に思ったようだ。受話器越しのエレッタの声が問う。晄はそれに答える事も出来ず、影の正体を探ろうと後方に身を翻す……と、その時だった。背中を強い力で押され、体が傾く。ちょうどガードレールが歪んだ場所に立っていた晄は、その方向……無造作に木の生えただけの、何も無い崖道へ転がった。
「うわぁああ!!」
手から力が抜け、スマートフォンが滑り落ちた。グングンと迫る地面に、焦りが募っていく。妙なほどにゆっくりと感じられた時間が、かえって彼女の恐怖心を煽る。半袖のシャツから出た腕が斜めに生えた木の枝に引っかかり、肉が悲鳴を上げながらえぐり取られた。そのまま体が方向を変え、その先にあった大きな木の幹に背中を叩き付けられた。その時、脳裏をこれまでの想い出がよぎった。これが走馬灯というものである事を、晄は知らなかった。まだ三葉町で暮らしていたときのこと、戦士となって戦った日々のこと、木霊市に越して以降のこと……。
次々と流れていく思い出の風景をただ見送っていた晄だったが、その思い出の一つが、彼女の頭を醒めさせた。それは、流れる思い出の中でも比較的最近の出来事だった。途端、ハッキリとした意識も出てくる前に、勝手に口が動き出していた。
「『フルミネ!』」
ランコレとの戦いの中で、彼から伸ばされた触手を避けるために咄嗟に使った呪文。それを唱えると、彼女の姿は消え、黄色の雷がその場に現れた。雷はそのまままっすぐに崖の下に落ちていき、地面に接したところで姿を消した。雷があった場所には、荒く呼吸をする晄の姿があった。
「はぁ、はぁっ……」
『……ぃ、ど…した……!』
月の明かりだけが照らす景色は、あの坂道より余程恐ろしかった。そんな景色の中に妙な明るさを見つけ出した晄は、痛む体を引きずってそちらに近寄る。そこには、ひび割れて色の表示が狂ってしまったスマートフォンが、『通話中』の文字を浮かべながら転がっていた。それに耳を当てれば、かすかに聞こえていた声がはっきりと耳に入った。
『晄!!』
「……崖、落ちちゃった。」
『はぁ!?』
正直に状況を伝えれば、受話器から素っ頓狂な声がした。先程まで自分がいた坂道を見れば、頼りない街灯が、そこに立っている男の、見慣れた黄色の髪を照らしていた。翳って見えづらい顔が、その瞬間確かに不機嫌そうに歪んだのを見て、晄は、その男……洸がただの血の繋がった他人であることに気がついたのだった。
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