Song.31 無茶なことなんて
ちょこれいととの練習を終えてから一週間。睡眠時間を削っての毎日練習と曲作りに励めば、土日含めた四連休が目前になっていた。
連休前の最期の部活。
放課後すぐに物理室に行けば、黒板前で先生がすでに待機していた。
「どうぞ、どうぞ。この紙を読みながら座ってください」
「うっす」
適当に座り、先生に渡された紙に目を通す。
そこに書かれていたのは、
日時に場所、おおまかなスケジュールまで書かれている。
さっと見て、思わず目を疑った。
「ちょっと待ってくれよ、先生! こんな急な日程で間に合わねえよ!」
開催日は今日からちょうど一か月後。
たった一か月で、曲数を増やし、完成にまで持っていけるわけがない。
俺たちでも無理があるのに、コピーバンドとはいえ一曲もまともにできないちょこれいとにとっても無理だ。
ゴミみたいなレベルを聞くことになるなんて、二度としたくない。
「おっしゃる通りです……ですが、この日であれば。この日でなければ、ダメだったんです」
「はあ? 意味わかんねえっすけど。そうだとしても、俺たちだって、あの女子たちだって、急にうまくなるわけねえじゃん」
無理だと叫んでいると、次々にメンバーがやってくる。
そして同じように先生から受け取った紙を見て、頭を抱えた。
「全員そろったので、説明を始めますね。まず、対バンの会場は喜咲高の第2体育館。土曜日に行い、誰でも見ることができるフリーライブとなっています。なので、互いの学校の生徒だけでなく、小学生から大人まで来るでしょう。交互に演奏し、互いに三、四曲弾くことを想定しています」
目と耳から情報を入れていく。
文化祭でやった曲に追加であと二曲。ライブでできるレベルまで持っていくことができるのか。
曲すら完全に作り終えていないのだから、余計に不安になる。
「先生」
「はい、作間くん。何でしょう?」
話を聞き、首を傾げた瑞樹が珍しく手を挙げた。
イエスマンの瑞樹が手を挙げるとは珍しい。
「交互に演奏ってどういうことですか? 普通は順番が決まってて何曲かやった後に転換しますよね? 交互だったら、転換にすごい時間をかけてしまうんじゃないですか?」
ソロのライブでなければ、どんな順番でどのバンドがやるのかを決めて行う。それはバンド経験者の先生なら知っているはずだ。だけど、先生の口から出たのは「交互に演奏」。一曲ごとにバンドを入れ替えていたら、時間がかかりすぎてしまう。
日程の方が気になりすぎていて、スルーしてたけど、瑞樹はそれが気になっていたようだ。
「ええ、それなんですが実は――……」
黒板を使って説明する先生。
カツカツと音を立てて、見取り図を書いた。
今までにない形でのライブ形式に、俺たちの興味とやる気を集めていく。
「せんせー、すげぇ! それ、めーっちゃ楽しそうじゃん! 俺、のった!」
「大輝が調子に乗るのは構わないけど、曲を作る方のことも考えてくれないと」
大輝が立ち上がってやる気を見せているが、悠真の言う通りだ。
コピーバンドではなく、オリジナルの曲をやりたい。でもやるにしても、曲の完成度中途半端になってはいけない。
今ある程度完成に近づいているものを使うにしても歌詞がなく、メロディーだけのものやその逆のものまである。
NoKの曲をやるにしても、一部を書き換えなければならない。
曲作りは俺と悠真にかかっている。
二人で曲を作って練習して。それにかけられる期間が一か月。
かなり時間的に厳しい。
短時間でできるわけ……
「やれるって! な、キョウちゃん」
「は?」
グッとこぶしを俺に向けて突き出す大輝。
その行動の根拠がわからず、唖然とした顔のままいると、大輝の屈託のないな目が俺を写す。
「だってキョウちゃん言ってたじゃん。『やらずに後悔するより、やってから後悔するほうがいい』って。はなから無理だって決めつけるのは、キョウちゃんらしくないだろ?」
「確かに言ってたな。俺に向けて。まさか、人にはそう言っておきながら、自分には甘いのか?」
大輝の言葉に腕を組んだままの鋼太郎が続く。
「確かに。僕にも言ったよね、『はなからできないって決めつけたらできない』って」
悠真も追い打ちをかけるように言葉を続けた。
「キョウちゃん。やろう? 曲作りは手伝えないかもしれないけど、他の……僕にできる事だったらなんでも手伝うから。ね?」
瑞樹までもが、急な日程のライブをやろうと声を上げた。
ここまで来て、無理だなんていうのは男じゃない。
自分の言葉に責任を。
自分の行動に責任を。
「はっ。あたりめえだ。やってやるよ。二曲どころか三曲、四曲でも作ってやるよ」
大輝の拳に、自分の拳を突きつける。
そこへ空気を読んだ鋼太郎、瑞樹も加わる。
「ほら、ユーマも!」
「なんで僕が……」
「いいからいいから。こういうときは気持ちだろ?」
大輝に促された悠真も、嫌そうな顔をしながら拳を合わせる。
五人の拳を突き出して、互いに顔を見合わせた。
「うっしゃ! Walker、れっつごー!」
「お、う……?」
大輝の掛け声で、一致団結したようにも思ったのは一瞬だけ。
運動部のようなまとまりがないように感じる。
「大輝のそれ……しまらねえ掛け声だな」
「いーの、いーの。要は気持ちだろ? 何なら次はキョウちゃんがやるか?」
「エンリョしとくわ。俺がやってもしまらねえよ」
「ははっ!」
笑い合ってサッと解散。
何事もなかったかのように、正面を向きなおすと、先生が嬉しそうな顔をしてカメラを俺たちに向けていた。
それで写真を撮られていたかと思うと、急に恥ずかしくなる。
「悠真先輩、顔、赤いですよ?」
「う、うるさいな」
悠真も恥ずかしかったようだ。
そっぽを向いてしまったが、隠せていない耳が赤い。他のメンバーは変わらない顔をしているが、俺だけが恥ずかしいと思っているんじゃなかったことに安心した。
「で、曲はどうするの? オリジナル? NoKの方? 気にくわない曲は、僕もやらないから」
「わかってるって。曲は悠真に確認するから。やるとしたらできればオリジナル……作りかけてたやつを見直して、んでメロディーだけのやるがあるからそれを使って、それから……」
書きかけの譜面を思い起こす。途中とはいえ、うまく生かすことができれば御の字だ。
「みなさん。世間的にはこれからシルバーウィークに入ります。学校もその期間は休みで、開けない方針ですが、先生達で色々話を進めておきますので、みなさんも頑張ってくださいね」
学校が休みになるのはありがたい。
部屋にこもって曲作りに集中できる。
長いようで短い休みに、引きこもりの生活が待っているはずだった。
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