第5話 試合開始
海上には色とりどりのヨットの
例えば一位でゴールすれば1点、二位なら2点、三位なら3点という具合で、総合得点の低いチームが勝つ事になる。だから一、二回戦でトップを取っても、最後に十位以下の成績であれば、優勝は難しくなる。
また反則行為(フライングや進路妨害など)を行っても加点されてしまう為、操船の安定力が非常に重要になってくる。
一回戦スタート三分前。歩達のFJに赤い470が近づいて来た。
「坊や達、覚悟は出来た?」
晶と里美は、意味ありげに笑っていた。微風のレースでは、繊細な操船技術が要求される。どんなに微かな風も帆に取り込み、推力に変える技術。少しでも船にかかる抵抗を少なくする操船。どれも彼女達の得意とする分野なのである。
特に豪紀の巨体はハンデとなる。この場合、1kgでも船体が軽い方が有利であるからだ。豪紀の表情が曇り模様から雨に変わる。ほとんど泣きそうだ。
「それよりお姉さん達、新しいパンツは履いて来た? 試合終了が楽しみだね」
「そん途方も無え自信は、どこから湧いてくるっちゃが?」
恨みがましく、歩を睨む。晶は片方の眉毛だけを上げて、怒鳴りかえした。
「奴隷は港に帰ったら大変よ。何しろ自分たちの船の前に、私達の船の艤装を解かなければならないんだから」
そう切り返した瞬間、スタートのサイレンが鳴った。微風のため、ほとんど団子状態のスタートとなる。しかし始めの上マークを回る頃には、先頭集団が形成され、歩と晶のチームは順当に、その中にいた。
「くそ。どんげしてん抜けん。あいつら見ちょらん所でオールでも使っちょるんじゃねえか?」
「セッティングの違いだね。どうやら向こうは微風用に
「ウチらだって、そうだっちゃろが」
「ごめん。セッティング、強風用に変えといた。」
「なぬー!」
「どうせまともに試合したって、勝ち目はないんだから。僕たちは一回、勝てればいいんでしょ」
結果は晶チームが一位、歩チームは豪紀の必死の努力により六位に終わった。これでも高校生としては一番である。
二チームの間には県内の強豪がひしめきあっている。それだけ晶たちの操船技術が優れているのだ。
第二レース。
湾内に浮かぶ大島と、ひょうたん島の間から風が吹き始め、中風のレースになった。この位の風があった方が、ヨットは楽しい。基本的にヨットの好きな歩は鼻歌交じりで、
「楽しそうで結構だっちゃ」
「うん。楽しい。そういえば晶たちだけど、タックの入り方が、僕たちと違うみたいじゃない?」
「
「あの方が、メインセールに風が入りやすいみたい。ちょっと真似してみようか」
「本番でか?」
「うん。行くよ。タック用意!」
体重移動に気をつけながら、豪紀はブームをかい潜る。
パン!
小気味良い音をたてて、メインセールが返る。ジブセールも上手く風を掴んだ。
「確かに速えっちゃ」
視線を合わせた二人は、笑いあった。
「ねーねー晶。歩くん達のタックが、良くなっているみたい」
「これだけ何度も見せて上げているんだから、当たり前よ」
「そうだよね。彼らはこの湾の成長株だもんね。色々教えて上げなきゃ。でももっと優しく教えて上げてもいいんじゃない?」
「あいつらが、口で言って素直に聞く玉だと思う?」
里美はニッコリ微笑んだ。
「晶ったら優しいんだ」
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