第3話 これは罠ですか?

 このレースの一位は、いうまでもなく晶チームだった。実に二位に一分以上の差をつけて、文句なしのトップを飾った。

「坊やたち、惜しかったね」

 陸に上がると、一足先に港に帰り着いていた晶たちが、防波堤から手を振っていた。

せからしいがぁやかましい! 今に見ちょれ」

「君たちじゃぁ、私たちにはいつ迄たっても敵わないんじゃないの?」

「晶。あんまり揶揄ったら、可哀想よ」

 里美が晶の腕を引く。しかし、里美も半笑いだ。

「勝てたらどうする?」

 歩の言葉に晶は微笑んだ。

「そうね。その日一日、奴隷になって何でもしてあげるわよ。ただし、アンタ達も負けたら一日奴隷よ」

「・・・何でも?」

 彼は、晶の良く日に焼けた肢体を見つめた。

「何、変な顔してるのよ。まぁ、考えていることは大体分けるけど。勝負してみる?」

「面白い。後で後悔するなよ!」

 それを聞いた豪紀が、血相を変えた。

「歩、勝手に決めるなっちゃ! こん女たちは、この手で何人もの男供を地獄に叩き落として来たんやじ。知らんっちゃが?」

「知らない」

 あっさりした返事に、豪紀は天を仰いだ。

「こいつらは去年の国体で三位に入ったっちゃ。ウチらが敵う相手じゃないっちゃが。それにな。良からぬ野望を抱いた挑戦者達は、どうなったと思うじ?」

 歩は小首を傾げる。そうした仕草は中性的で、時々、豪紀もドキリとする。

おじーこわいぞ。日が出ている間は、こいつらの船のワックスがけ。そして日が暮れてからは・・・」

 豪紀は岩を削り出してできたような顔を、晶達に向けて睨みつける。

「またもワックスがけっちゃ。こいつらの船が、いつもピカピカなのは、そのせいだっちゃ!」

 彼女達は悪魔的微笑を浮かべて、歩を見つめる。

「怖くなっちゃった?」

 自分の実力と、いけない野望を秤にかける歩。負ければ自分だけでなく、豪紀にまで迷惑をかけてしまう。

「ふざけんな。二週間後の国体予選で勝負だ!」

 当然のように野望が勝った。強面の割に付き合いのいい豪紀は、見当のつく未来を思って溜息をついた。


「ねーねー晶。どうしたの? これまで奴隷勝負は、しつこく付きまとって来た相手にしか、言わなかったのに」

 彼らから離れたところで、里美が晶にまとわり付く。

「・・・ちょっとね」

「あれー ひょっとして絡みたかったのは、晶の方なの? マッチョ狙い? 美少年狙い?」

「うるさいなぁ」

 二人の美女はキャーキャー言いながら、クラブハウスに入っていった。

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