石碑に映るもの
桃華と蒼真は、神殿に入る前に石碑に向かった。石碑には、日本一の旗を持った人物が、マントのようなものと頭にかぶる笠を持っている。
「マントみたいなものに、頭にかぶるもの、それにあれは……」
桃華が宝の山を積んだ手押し車の頂上を指さす。そこには、金色のハンマーのようなものがちょこんと乗っかっていた。
『……打ち出の小づち』
イヤホン越しに、大地の声が聞こえた。桃華はびっくりした声で言う。
「打ち出の小づち。あれって、別の作品のものじゃないんですか」
「もともと打ち出の小づちは、鬼などの異形のものが持つ宝物として伝えられていたんですわ。ここにあっても不思議じゃあない」
そう後ろから声がして桃華と蒼真が振り向くと、そこには大地が立っていた。
「ずいぶんと詳しいんだな」
蒼真が言うと、大地はふっと笑う。
「お褒めの言葉、ありがたく受け取っておきますよ。オレ、おとぎ話とか昔話の類が好きなんですよねぇ」
桃華は嬉しそうに大地に言う。
「私も、好きです。そういうの。おとぎ話とかが好きで、それで小説を書いたりもしてたんですよ」
「小説……? プロの作家か」
蒼真の言葉に、桃華は自嘲めいた笑いを浮かべる。
「いえ、ただの趣味です。大した結果を残せませんでした」
大地は何か言いたそうに一度口を開いたが、言葉を出せずに黙って口を閉じた。桃華はわざとらしく元気な声を出して言う。
「ここの神殿にはどんなお宝が眠っているんでしょうね。楽しみです」
そう言って歩き出す桃華を、大地は複雑な表情で見つめていた。一行は神殿の前へとやってくる。頑丈そうな造りの扉を見て、桃華は苦い顔をする。
「きっとまた、中に入った瞬間に扉が閉まるんでしょうね」
桃華は言う。蒼真は、こめかみを抑えながら言う。
「桃太郎。そういうのをなんていうか知ってるか。フラグって言うんだ」
「フラグは、へし折るものですけどね」
桃華は気軽に言うと、先に立って歩き出す。ため息をつく蒼真と、どこか楽し気な大地がその後に続く。
桃華の予言通り、三人が神殿に足を踏み入れた瞬間、後ろで石の扉が閉じた。桃華はにっこり笑って言う。
「一瞬でフラグ回収しちゃいましたけど、仕方ないですね。それはそうと、三人バラバラにならなくてよかったです。一人だけで閉じ込められたらどうしようかと思いました」
桃華の言葉に、蒼真ががっくりと肩を落とす。
「しれっと恐ろしいことを言わないでほしい……」
「そんなことよりおたくら、火の用意はあるワケ? 真っ暗だぜ」
大地が言うと、桃華と蒼真は自分の役割の書いてある玉を取り出す。すると、ほんのりと光が辺りを照らしだした。
「前回の神殿では、ろくに探索しませんでしたからね。今回はしっかりと探索しようじゃありませんか」
桃華が勢い込んで言うと、蒼真が顔をしかめる。
「これが噂のゲーム脳というやつか……」
その隣でシュッという音がしたかと思うと続いてボウッと言う音がして、玉より明るい光が現れる。
桃華と蒼真がその出どころを振り返ると、そこには呆れた表情の大地が松明を片手に立っている。
「まさかおたくら、その光だけで行動しようと思ってたワケ? 勘弁してくださいよ。そんなチョロい光だけじゃ、毒蛇とか襲ってきたとき見えないでしょ。罠も見落として、早々に命を落としかねないじゃないですか」
大地の言葉に、桃華と蒼真は二人で反省の色を示す。
「そうでした。前回、それで少し苦労したことを忘れて何の用意もせずに来てしまいました。雉飼さんに感謝感激雨あられです」
桃華の言葉に、大地は小さく息づくと言う。
「分かればいいよ。分かれば。……ま、オレがいる限りはその辺の準備はお任せ頂いて、一向にかまいませんがね。けど、考えることを辞めるのは、よした方がいい」
そう言ってから、彼は不敵にほほ笑むと言った。
「……オレがいつ裏切るか、分かりませんし?」
それだけ言うと、二人に背を向け彼が先頭に立って歩き出す。桃華と蒼真はお互いに顔を見合わせると、どちらともなく大地の背中を追いかけて歩き始めた。
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