森の神殿へ

 老人は、桃華と蒼真を自分の家へするため、先に立って歩き出す。


「お客人は、二人かね」


 長老が尋ねてくる。何か言いたげな蒼真に先んじて、桃華は言う。


「ええ、二人です」

『……さすが』


 大地の感嘆の声がイヤホンから聞こえる。


『オレは、少し離れて怪しい動きがないか見張ってる。何か動きがあったら知らせるから、そこんとこよろしく』


 桃華は蒼真と老人に見えないように、片眼鏡に映るように指で丸を作った。村の一番奥にあった家に、二人は案内される。


 部屋の中まで案内すると、老人は二人の向かい側の椅子に腰かけた。そして二人にも椅子をすすめる。


「わしは、この村の長老じゃ。あんたがたは……」

「桃から生まれた人間です。ここに、神殿があると伺ってまいりました」


 桃華が言うと、長老と名乗る老人はあごひげをなでた。


「ふむ。……この世界にはいくつか神殿がある。その神殿のどれにも、宝物が眠っておるのじゃ。あんたがたも、それが狙いかの?」

「そういうことになります」


 桃華が言うと、長老は笑った。


「正直なやつよな。そういうやつなら、安心できるわい。……神殿の中に何があるのかは、わしも詳しくは知らん。神殿とわしらの村は別物じゃ。じゃから、神殿の宝物を奪おうが、わしらには止める権利はないじゃろう。ただ」


 ここで言葉を切り、長老は真剣な表情で桃華と蒼真を見た。


「あの神殿に入ってそのまま出てこなかった者もいると聞く。神殿に入るのなら、覚悟することじゃ」


「ええ、もちろん」


 桃華は言いながら、蒼真を仰ぎ見る。蒼真も小さく頷いた。


「桃から生まれた人間と言ったな? それなら、あの石碑がヒントになるやもしれぬ」


 長老は、外にある石碑を指さした。


「あそこには、なんと書いてあるのでしょう」

「古い言い伝えよな。桃から生まれた者が持つべきもの、ここに眠る、とな。……その下に絵が描いてあっての、そこにはあんたが持ってるその旗も描かれておったわ」


 桃華は、傍らに置いた日本一と書かれた旗を見る。


「これも、桃から生まれた者が持つべきもの……」

「神殿に眠る宝物は、それぞれに力を持っておる。それをうまく使いこなせるかは別としてな。宝物も、持ち主を選ぶ。宝物を見つけはしたものの、持ち帰らなかったという者がおったとも聞いておる」


 長老はしみじみとした声で言う。


「何にせよ、気をつけていくことじゃ。運よく宝物を手に入れ、神殿から出られたとしても、欲深い者たちが、その宝物を狙ってくることじゃろう。心していくことじゃ」


 桃華は頷くと、立ち上がった。そして長老に向けて言う。


「元の世界に帰るためには、きっとそれらを集めることが近道だと考えるしかありません。今は情報が少ないですから。だからとにかく、できることはすべて試したいと思っています。そのためにも、神殿に挑んでみます」


 桃華の言葉に、老人は頷いた。


「気を付けて行ってまいれ。そして、宝物が手に入った時にはぜひ、わしにも見せてほしい」


 桃華は頷くと、礼を言って長老の家を出た。家を出てすぐに蒼真は、首をかしげて桃華に言う。


「キジ専用装備というよりは、桃から生まれた人間誰でも身に着けられるものという認識なのだろうか」

「さぁ。実際見てみないことには分かりませんね。どちらにしても手に入れるために努力しましょう」


 桃華は言って、村の奥に見えている神殿を見上げた。

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