次なる目的地へ

 鬼を説得した後、桃華たちは街の酒場へと戻ってきていた。酒場の二階は、宿屋を兼ねており、桃華たちはそこに宿泊させてもらえることになっている。宿屋の広間で、蒼真、桃華、大地はテーブルを囲んで話し込んでいた。


 大地と桃華が隣同士で座り、桃華の向かい側に蒼真が座っている形だ。


「……それで、行き先は決まってるのか」


 蒼真の言葉に、大地は頷く。桃華は二人の会話を聞きながら、酒をぐびぐび飲みほしている。


「この街の向こうの森の中、その中に神殿があるらしいんですよねぇ。そしてその神殿の中にあるとか、ないとか……」

「また神殿なんですかっ!」


 桃華は嫌そうな顔をしてグラスの中身を一口飲んで、一言。


「ぷはー」

「おー、いい飲みっぷり。オレも負けてられないですわ」


 大地はジョッキを掲げる。桃華は、酒の入ったグラスを揺らした。グラスの中の酒を見つめながら、桃華は思う。そういえば、付き合い以外でお酒を飲むことはなかったな、と。


 家に帰ったらすぐにお風呂に入ってベッドに直行していた彼女である。嗜好品や、趣味にかける時間など、ほとんどなかったと今になると思う。


 そんなことを考える桃華と大地の間には、既に何本もの空のボトルがある。大地が桃華のグラスに酒をつぎ足しながら言う。


「おたくら、既に神殿に入ったことがあるワケね。なら、話が早い」

「一度、神殿の内部に閉じ込められたことがある。そこで桃太郎と出会った」


 蒼真の無感情な声に、大地はヒュッと口笛を吹いた。


「そりゃあ、さぞや素敵な夜をお過ごしになったでしょうね」

「俺にはそんな趣味はない」


 蒼真が間髪入れず答える。


「そもそも、そんなに長い時間、閉じ込められたわけじゃありませんでしたし」


 桃華もにこにこ笑って答える。


「神殿まで、何もないのか」


 蒼真の言葉に、大地が首を横に振る。


「いえいえ、お宝の前にはボスがいるのが基本でしょ? 神殿の前には、森の一族が住んでいるってハナシだ。彼らの村を通り抜けないと、神殿にはたどりつけないらしいぜ」


「それじゃあ、その村で森の一族に許可をもらわないといけないってわけですね」


 桃華の言葉に、大地は頷く。


「オレは明朝、先に行って様子を見てきますわ。偵察、索敵、交渉の材料集めなんかの裏方仕事は、キジとしてのオレの役目でしょうからねぇ」


「お願いします。くれぐれも、気をつけて」


 桃華がそう言うと、大地が驚いたように目を見開いた。そして、呟くように言う。


「……そんなこと言われたのは、初めてだ」

「え?」


 桃華が聞き返すと、大地はへらっと笑って言う。


「なんでもないですよ。それじゃ、もう遅いしお開きにしますかね」


 大地は立ちあがると、自分の部屋へと戻って行った。彼の背中を見送りながら、蒼真が目を細める。


「……あいつ、信頼していいものなのか」


 それを聞いて、桃華は思い出す。通信機のイヤホンつき片眼鏡をくれた大地。その彼もまた、桃華に言っていた。


『おたくの連れがどうも信用できなくてね。おたくとだけ連絡が取れるツールが欲しかったんだ』


 桃華は、蒼真と大地が互いに相手を疑っていることに、少しだけ悲しみを覚える。しかし、きっと時間が解決してくれるだろうと自分に言い聞かせた。


 こうして、夜は更けていった。





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