第5話

服毒死。

テレビでよく泡を吹いて死んでいくイメージがあって忌避していたが、ふと気づいた。


一番楽に偽装自殺ができるんじゃないか?


混ぜるな危険!の文字を見たことがある人は多いはずだ。

私はその文字が目に入らず混ぜて飲んでしまっただけ。

不運な事故だった。そう人は判断するはず。


だから自殺と思われないよう、私生活では明るい普通の子でいたのだ。


綿糸で締め付けるような苦痛だった。

普通は嫌いだし、明るい子でいるのも心が死ぬ。

身体的な死に逃げ出したいほどに、私は弱いのだと思い知らされた気がする。

暗い思考が殿としてたまるのはもう慣れたはずなのに、私はずっと息がしずらい。



そんなことより、服毒死の話に思考を戻そう。

猫をかぶっていたおかげで自殺とは疑われずにすんだはずだ。


そろそろ葬式の時間だ、いかなくては。

次は彼女だろうか。



お姉ちゃんが死んでしまった。


正直言ってあまり実感がわかなかった。

もう家族のムードメーカーに会うことが出来ないなんて。母も父もずっと泣き通しで家はあかりが消えたかのようにくらい。

同じ腹から生まれたのに、葬式の時しか泣けなかった私は淡泊なのだろうか。


けど、もういなくなった人間を思うのに重い感情は疲れるし、鬱々とした気分になる。


元々、人に感情を揺さぶられるのは苦手だ。

自分のことしか考えていたくないのに、わざわざ他のことに思考を割くのは勿体ないと思うのだ。


そんなことより、自分を魅力的にアピールする方法を考える方が身になる。

この状況を利用して私は薄幸の美少女になってしまおうか。

しかし、さすがにあの人の死を利用するのは気が引けるし、倫理的にも、自分の情も許さない。


だからもっと自分の内面が溢れ出るような振る舞いをしよう、魅力的大全を作っているのだ。

『私の美しい魅せ方』~第百一条~

右足に少し体重をかけ、腰をしならせ、右手を上にして腕を組み首は……。

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死美感 ArY @meizen

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