第4話

涙が止まらない。年甲斐もなく、しかも人前で泣くなんて恥ずかしい、普段ならそう思ってしまうけれど、今日だけは普段の私も許してくれるはず。


死んでしまった、私のたった一人の子が。

スキー旅行の誘いを断っていれば、この結末は知らずに済んだのに。


なんでもっと強く拒否をしなかったの、いつものように仕事を入れればよかった、無意味な後悔が胸をつく。


これだけでも悲劇なのに、あの子の死体は見つかっていないらしい。

私はいつまであの子が帰ってくる希望を背負って生きればいいの?


しかも、家に帰るなり旦那が離婚などと喚いている!


お前があの子を殺したんだ!


旦那は理解できない言葉を吐いた。


このスキー旅行も最初はあなたも誘われていたのに。

なんで人のせいばかりするの!


もともと、子供たちがいなければ会話もなかった間柄だったが、離婚まで行かなくてもいいじゃない!

いつもそうだ、なぜ私だけがこんな目に遭わないといけないの?


これはダメだな。

私を思って泣いたのは、数分じゃないか。


悲劇の主人公は私で、父ではないのをわかっているのだろうか。

この計画は、焼却炉に捨ててこよう。


しかし父も父だ、亡くなった人間を使い念願の離婚にこぎつけるなど、前から考えていたことを私は知っているぞ。


全く、なんたる仕打ちだろうか。

私じゃなくとも、深夜にトイレにいったとき、便器に顔を押し付けるために化けて出る。


母に最後に合うのも駄目だ、美しくない。


私の考える美しい死とは、万人にどうしてあの人がなくなってしまったのだろう!

なんて悲劇なんだろうか!

しかし、後ろばかり見てられない、あの子が悲しんでしまう。


そういうお決まりの展開を、美しい死だと思っている。

私はそうありたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る