4 ③昔話型

収録:

沙石集しゃせきしゅう』 拾遺しゅうい 六二


沙石集しゃせきしゅう』は弘安六(1283)年頃に成立後も大量に加筆がされた仏教中心の説話集。

その「拾遺しゅうい」の部分なので、当然のように後から加筆された箇所で、どの時点で加筆されたかは不明。

ただ、観測範囲内で唯一説話集上に③昔話型として蟹満寺かにまんじ縁起えんぎ型説話が記載されているというのが特徴。


手元にもネットにも原文転がってなくて、あるのは②でめちゃくちゃ使った相違点の表と記憶だけなんだけど、大体の内容は次の通り。


――――――――――――――――――――――


 昔、あるところに娘がいた。

 この娘は近くの川に住む小さいかにを可愛がって、毎日餌をやっていた。

 とある晩、一人の男がやってきて、自分は蛇だが娘を嫁に貰えないかと言う。

 急なことなので、父親と男は話し合い、日を決めて男は再度やってくることになった。

 この期日までの間に両親は倉に娘を籠らせる算段をつけ、当日の夜に娘は自身の運命を嘆きながらも倉にこもった。

 すると大小たくさんの蛇が現れて娘のこもった倉に向かったが、同じように大小たくさんのかにが現れて、この蛇たちをはさみ殺してしまった。

 かにであってもこのように恩に報いるのだから、すばらしいことだ。


――――――――――――――――――――――


【悲報】蛙、存在が消える。

まあ、蛙、仏教前面に押し出さないと、無駄な存在と化すからな……これは後ほど。


で、こうした普段からかにをかわいがってる娘のとこに、蛇が押しかけてきて、かにに「やんのかこのやろ(ばつん)」されるのは、『沙石集しゃせきしゅう』だけじゃなくて、秋田県由利郡の蟹沼伝説、石川県輪島市稲舟いなぶね笠原の蟹伝説、福岡県大牟田おおむた三池みいけの伝説などなど、なんと全国七十五箇所で伝わってるらしい。

さらに、うち報恩以外の信仰要素(観音、金毘羅こんぴら等)へのフォーカスもあるのは十五とかそんなもんらしいので、各地の伝説において仏教色や宗教色が排除された状態で語られている、というなかなか興味深い現状がある。


他にバリエーションとしては、これみたいに勝手に見初みそめて押しかけてくるパターンと、水乞みずこい型(田んぼに水引いてくれたら娘を嫁にやる)のパターン、後はでっかい蛇一匹が来るのか、うじゃうじゃたくさんの蛇が来るのか、かな。


仏教色が排されてるから、寺の縁起えんぎではなかったりするんだけど、由利郡のは蟹沼という沼の名の由来だったり、輪島の笠原の蟹はその近辺にある沼が蛇の死骸に由来するとしてたり、三池みいけは地名&池の由来など、起源説話としての息はある。

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