5 結論として

ここまで述べた通り、現代において流行っている異世界モノについては、神話・伝承・昔話における型を発展させ、なおかつ現代の世界観に合わせて発達した結果、「異世界」をとし、「現実」をに置くという、旧来の内外による異界の切り分けを逆転させた形で現在の一大ブーム(もやや斜陽か)へと繋がった。

……斜陽気味かもしらんが、それでもなお読者が減らない辺り、おきまりの素地が物語類型ベースに考えられるところが大きいようには思う。


さて、それでは1で語った続きに移ろう。

常温保存しておいたのを取り出して……というわけで、1のまとめをコピペしてきた。

覚えてる人は読み飛ばしてどうぞ。


① 転移・転生によって、外部からその世界にやったきた主人公は、神話・伝説・伝承・昔話等の物語枠組み上のおきまりとして「特権を付与された存在」として認識されやすい。


② 特権を付与されたものがもたらしたものもまた、神話・伝説・伝承・昔話等の物語のおきまりとして価値あるものとされやすい。


③ ①②を踏まえると現代における特徴は、「内と外の逆転=現実の外化」と「移動先の世界の内容」となる。(これについての考察は後述)


コピペここまで。


というわけで、③の続きを考えていく。

重要なのは「移動先の世界の内容」、すなわちステレオタイプとして固定化されつつある世界の方だ。

昨今のこの典型になっているのは、ゲーム世界に影響されたヨーロッパ的(あくまで的)世界であり、一部ゲーム上のシステム面をメタではない世界の一部として取り込んでいる場合が多い。いわゆるステータスとかスキルとか。


では、何故ゲーム世界なのか。


単純に作者・読者にとって近しい世界であるというのは、勿論である。


そもそも物語とは、読者と作者が一定のコンテクストを共有した上で、成立するものだ。

だからこそ、同一地域であっても古い物語の正確な読解には注が必要となるし、時代的には同一でも、地域が違えば、その文化に則した物品の差し替え(KHM57「黄金の鳥(Der goldene Vogel)」と「勇士と若返りのりんごと命の水の話(Сказка о молодце-удальце, молодильных йаблоках И живой воде)」に見られる狐⇔狼、「三つのオレンジ(Las tres naranjas)」、「三つの石榴ざくろの愛(L'amore delle tre melagrane)」、「魔法をかけられた三人の王女」に見られるオレンジ⇔石榴ざくろ⇔りんご、「プレッツェモリーナ(Prezzemolina)」とKHM12「ラプンツェル(Rapunzel)」に見られるパセリ⇔野萵苣のぢしゃなど)や、その文化特有の言い回し・結句が発生(スペインだと「コロリン・コロラド、話はおしまい」、ロシアだと「祝いのさかずきをもらったが、この髭をつたって全部落ちてしまった。だから私は一口も飲んでない」、日本だと「とっぴんぱらりのぷう」が有名か)し、発展する。そうした細かい部分をつついて、前提の違いをあぶり出すのが、こう楽しいわけだが。


かつてのゲームは一定層にのみ浸透したものであったが、現代では年齢層、地域層区別なく、世界的にも浸透しつつある。

大ヒットRPGを複数本作り上げた日本国内だけで言えば、その浸透率は言うまでもなく、故に大半の人間はと言える。

作者・読者ともにわかっているのであれば、暗黙の了解として説明をある程度はぶくことができる。つまりコンテクスト化する。


後は、ゲームをベースとした世界観を小説上で展開するのに何をどう表現するか、それがどれだけの人に受け入れられるか、という話で、こればかりは主題含め作者の技量と感性、そして読者の読解力と感性にる。

また、コンテクスト化された世界観が多用されることで、さらにコンテクスト化は加速する。

結果として、難しい説明をすること、それを理解すること、その双方がなくても問題ない、作者・読者双方にとって省エネな物語の舞台として確立する。

まして、そういうのが流行っているとわかっていれば、この物語の舞台は、何も作品を多数読むという必要性なしに共有できる。


何故ならこの舞台設定は、小説において発生するより前に、ゲームとしてベースが発生しているのだから、典型的なゲームの世界を把握していれば、無理に多数の小説を読む必要はない。


読むハードルも書くハードルも下がるので、読者・作者というカテゴリに属する者の裾野を広げるに適している、とも言える。勿論その分、読者・作者共に玉石混淆と化すのだけど、その是非はここで問うことではない。そもそも前置きの通り、是非を論じるのが主題ではない。


理由と思えるのは、それだけではない。


「コンテクストの共有」は「世界観テンプレートの共有」と置き換えてなんら問題がない。


前置きで論じた通り、現代における最も普及している世界観テンプレートとは「科学を規範とした世界観」である。

この科学的見地において、物事の性能をより客観的に見るために用いられるのが、という指標である。

通常、現代の我々自身は体力や賢さをそれそのものの数値で測ることはできず、「体力測定テスト」や「偏差値」という形で、基準に対して相対的に出された数値を頼りにしている。学校における評価が絶対評価に切り替わったとしても、結局絶対評価の基準となるテストを作るのは先生個人であり、それが基準となる以上、一定の相対の発生は免れない。……応用ばっかの数学のテスト作るの、本当にちょっとどうかと思う(中学時代の記憶)


さて、ゲームというを前提とした(ように見せている)世界である以上、インプットに対してアウトプットは必ず一定である。……計算式に都度つど取得する乱数でも使わない限り。

そして現代社会において、我々が評価として求める数値化を、ゲームは自身のシステム仕様を基準とした上で、当然として行う。ゲーム内部から見れば、というわけだ。


ゲームの世界から見れば、システム仕様は世界の設計書であり、世界の仕組みそのものの定義であり、いわば神様だ。


ということは、ゲーム世界における、ゲーム上のステータスという各種数値は、ゲーム内部、およびゲームを規範とした異世界から見れば、である。

「科学を規範とした世界観」の浸透した現代において、漠然と「能力が上だから」と言うよりは、明確に数値で表せるなら、数値で表した方が説得力が高い。どれだけの差があるかも明確化されるしね。


スキルという概念については、お前はサイコパスかと思われる事を承知の上で、人を「道具」、スキルを「機能」として考えてみてほしい。その上で、スキルもステータス上の数値と同じく、であり、それを明確化したものなのである。なんなら初期不良も存在しない、バスタブ曲線にはならない。

科学が追求する、条件さえ揃えば常に再現されることわりを、スキルはその世界を支配する絶対的なルールによって「そういうもの」と定義することで表している。

なので、単純な話、「科学を規範とした世界観」とゲームのシステム上の表現の相性がいい。まあゲームが作られるのに科学の発達はなくてはならないものだけど。


というわけで、「小説外の媒体をも利用したコンテクスト化」と「現実でのの評価方法からすると、ゲーム上でのステータス・スキルという概念は一種の理想形であるため、相性がよい」というのがここまで書いた、現代の異世界がゲーム的世界となる理由である。


ただ、ここにもう一つ理由はあると思っていている。

それは、ゲームの世界こそがからではないか。


ゲームの物語でよくある、怪物に生贄にされる(あるいはされた)・さらわれた姫を助けるために怪物を倒す物語。

これは『古事記』なら八俣遠呂智やまたのおろち、『グリム童話』ならKHM60「ふたり兄弟(Die zwei Brüder)」、同じドイツなら「マケールと三匹の犬」、イタリアなら「七頭の竜(Il Drago dalle sette teste)」、「緑の藻の男(L'uomo verde d'alghe)」、スペインなら「行くと帰れない城(El Castillo de Iras y no Volveras)」、ロシアの「王子とそのお守役(Королевич И его дйадька)」、「蛙の王女(Царевна-лйагушка)」、ギリシャ神話ならペルセウスとアンドロメダ、聖人ゲオルギウス(聖ゲオルク、聖ジョージ)の伝説などが存在する。なお、この場合の怪物は大体竜か大蛇か巨人である。


また、敵となるモンスター、自身が使役する召喚獣、アイテム名なども各神話や伝説・伝承からとられている場合が多い。例上げようにもちょっと多すぎてなかなか困るし、メガテンとかどないせいと。

ちなみに個人的にはリヴァイアサンはレヴィアタン読みの方が好き。


前置きで論じた通り、かつての世界観では、昔話や伝説に描かれるように時として現実と交わると認識されていた異界は、現代において完全なる虚構とされる。

そのかつての昔話や伝説は、トールキンによる『指輪物語』をはじめとした伝説・伝承の構造解析と再構築によって、ファンタジー文学という虚構と幻想を描く分野に継承された。この明確に虚構とされた時点で、現実と異界は完全に分離したと言ってもいい。

そのファンタジー文学のコンテクストを継いで作成されたのが、ドラクエやFFをはじめとしたRPGであり、昨今のゲームもまたその系譜である。くわえて、『ハリー・ポッター』シリーズを皮切りに発生した、児童向けファンタジー文学のブームが一時期発生したことも一定の年齢層には影響があると考えられるだろう。


そして、現在はゲームから小説の方へと逆輸入が起きている。

その上で、明らかに元にしたゲームがわかる内容になってはいけない(著作権的に)。

ならば平均化して取り込む必要があるわけで……差別化のために複雑化したものを単純化・平均化していけば、そりゃ元の形に近くなるのも道理である。これだから物語は原型ほどシンプルなのだわ。そして、なんかこの辺り、黄表紙きびょうし読本よみほん合巻ごうかん辺りの発展の流れと似た気配を感じるわね。


ともかく、その逆輸入の過程で出てきた課題が、おそらく、主人公と読者の乖離だ。


ゲーム上における主人公、つまるところプレイアブルキャラと言い換えられるのだが、そうしたキャラクターは通常、物語の要所以外ではシステムの許す限り、自由に動かすことができる。どんだけタルやツボを割っても問題ないし、よその家に入りまくる事もできるし、開発者は十中八九涙目だろうけど、デバッグモード探すのだって自由だ。

この時のプレイアブルキャラは現実にいる我々にとって、ゲーム世界上での手足である。

しかし物語の要所、ゲーム上におけるイベントに入ると、この手足は我々から離れた個となり、物語の主人公として感情を発し、発言する。できる限りその分離を排除しているゲームもあるが、あくまでそういうものもあるというだけだ。

幸い、物語の説得力によって、我々は主人公の感情の推移、発言を理解して納得することで、その分離自体には問題を覚えない。説得力が弱ければネタになったり、シナリオの穴とかつっこまれるけど。


しかしながら、小説という媒体においては、読者の手足となる存在を作ることは叶わない。

小説において、物語は常に規定の線路上を走り続ける。読者は自らの意思で主人公を動かすことなどできず、かろうじて出来るのは主人公をそれ以上動かさないこと、つまり読まないという選択肢である。

結果として、小説においては主人公の行動・感情にゲーム以上の説得力が必要となる。

また、元々のゲームが比較的自由に主人公を動かせるジャンルであると、さらにこの説得力マシマシにしておかないと、読者と主人公の乖離かいりがひどくなる。


これらの原因から、RPGだけでなく、乙女ゲームやギャルゲー世界への転生、加えてそれらの世界での悪役への転生が発生したと考えられる。

何故なら、乙女ゲームやギャルゲーはをメインとして構成されている。

前述の通り、イベントは物語の要所、であり、それがメインということは、がメイン、つまるところ全編物語による強制である小説と大差がない。まあ小説でルートは早々簡単に作れはしないので、あくまで物語の強制という観点から見たらだけど。

また、悪役への転生というのは、読者のという固定観念が強ければ強いほど、主人公のというあらゆる行動の動機が説得力を支える。

加えて、主人公を現代から転生したとすることで、プレイヤー自身と作品世界のすり合わせの難易度を低下させることができる。

何故なら、ゲームでは、プレイヤーが物語を進めることで、自然とその世界への理解を深めて現実とのすり合わせを行うが、すべてを文字で説明する必要のある小説では簡単にそれを行うことが難しい。

しかし、主人公に現代の知識を持たせることで、読者は主人公の心情を追うと共にすり合わせをすることができる。ただし、ここで作者と読者の共通認識自体が乖離かいりしてると失敗大ゴケする。

また、どうしても自然なすり合わせを行うにはパターンが固定されることと、物語の収斂しゅうれん・平均化によるワンパターン化により、話の主題よりも、それらのワンパターン化それ自体が悪目立ちしている感が強い。


とりあえず、まとめると、


① 現在流行しているテンプレは、昔話・伝承からファンタジー文学を介して、ゲームまで流れていった系譜の先に存在している。


② テンプレとなる部分が昔話・伝承等における物語の類型との類似性があるため、自然と受け入れられやすい。


③ ゲーム的な世界に偏る理由は、①に加えて、現代における評価尺度で重視されがちな部分を表現できるため。


④ ゲームと小説という媒体間の大きな違いである「物語の強制による自由度の低さ」は解決されないため、それについては強い説得力を持たせる必要がある。


⑤ ④と同じく、この自由度の低さによって、該当世界の常識と現実世界のすり合わせにも難が生まれる。


⑥ ④、⑤の軽減のための施策が「舞台は物語強制パート(=イベント)を主体としたゲーム(乙女ゲーム等)」という設定や、「現実世界からの生まれ変わり」という設定である。


⑦ 独自性の強い特定のゲームを参考にするのは大きな(法的、権利的)危険を伴うため、数多くのゲームの共通点の抽出による平均化・収斂しゅうれん化を行う必要性があり、これがワンパターン化に拍車をかけている要因の一つと考えられる。


となる。

……長いよ、まとめなのに。

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