EX1-1 抑圧と報復

補記とか追記でいいかなとも思ったんだけど、なんとなくEXエクストラにしてみた。


で、まあ、タイトルからお察しの方もいるかもしれないのだけど、ここで注目したいのはいわゆる「ざまあ」と伝承・昔話である。

貴種流離譚きしゅりゅうりたん継子ままこいじめ・末子成功譚まっしせいこうたんとの比較でも報復というところには一応触れたものの、ここではその報復という特性のみにフォーカスしたい。

まあ、これまでと同じく、基本是非を語るつもりはないという前提は変わらない。


とりあえず、前に扱った継子ままこいじめでの報復は大きくわければ次の通りになるだろう。


① 司法的な報復

 1 死刑

  ⅰ 刑罰のみ

   ロシアの「知らん坊(Незнайко)」

   フランスの「猫とふたりの魔女(Le Chat et les Deux Sorcières)」

  ⅱ 刑罰の詳細あり

   KHM13「森の中の三人の小人(Die drei Männlein im Walde)」

   KHM135「白い花嫁黒い花嫁(Die weiße und die schwarze Braut)」

 2 死刑以外

  イタリアの「カナリア王子(Il Principe canarino)」

  中国の「孔姫コンチ葩姫パチ(孔姫和葩姫)」

② 私刑的な報復(超自然的な経緯含む)

 1 加害者の殺害

  KHM47「ネズの木の話(Von dem Machandelboom)」

  イギリスの「ちっちゃな小鳥(The Little Bird)」

  ロシアの「ヤガーばあさん(Баба-яга)」

③ 超自然的な報復

 1 加害者の死

  中国の「葉限」

  フランスの「フロリーヌ」

  ロシアの「寒の太郎(Морозко)」

  ⅰ 超自然の存在に食われる

   ロシアの「雌馬の頭(Кобилйача голова)」

 2 加害者の明らかな不利益

  KHM21「灰かぶり(Aschenputtel)」

  KHM24「ホレおばさん(Frau Holle)」

  イタリアの「ガット・マンミオーネと猫たち(Il Gatto Mammone)」

  ブルガリアの「月になった金の娘」

  「米福粟福よねふくあわふく」・「米福糠福よねふくぬかふく


地味にKHM13「森の中の三人の小人(Die drei Männlein im Walde)」の位置が難しい。

あれ、最終的には王様が継母ままははに意見求めて、それで刑が決まるので司法的なんだけど、その前の時点で実子は「日増しに醜くなる」、「喋るたびにカエルが飛び出る」そして「」という呪いを三人の小人にかけられているので、巡り巡って超自然と言うべきなの、かなあ。

なお、投げられた石に当たって死ぬ「葉限」については運という観点から超自然扱いにした。


報復、すなわち仕返しが発生するのは継子ままこいじめだけではない。あくまで継子ままこいじめは比較的だけである。

まあ勧善懲悪という視点からなら、である時点でらしめられるべき悪なので、継子ままこいじめは正当な報復がのである。ここで言う「正当」は受け手が妥当と判断するかどうか、である。

被害者による報復で継子ままこいじめ以外だと、KHM76「なでしこ(Die Nelke)」(なんでも願いを叶えられる王子様が誘拐犯の料理番を犬に変えてこらしめる)、KHM115「明るいお天道様てんとうさまが明るみに出す(Die klare Sonne bringt's an den Tag)」(殺したユダヤ人が今際いまわきわに残した言葉につられて罪を白状しちゃった男の話)、KHM116「青いランプ(Das blaue Licht)」(退職した兵士が退職金をくれなかった王様とその兵士をめようとした魔女に青いランプから呼び出される小人で仕返しする)、KHM36「テーブルよ、ご飯のしたくと金を生むロバとこん棒(Tischchen deck dich, Goldesel und Knüppel aus dem Sack)」(ご飯が出るテーブルと糞の代わりに金貨を出すろばを奪われたので、一度殴り出したら止まらないこん棒で仕返しする)やその類話のイギリスの「ろばとテーブルとこん棒(The Ass, the Table and the Stick)」とかイタリアの「ほいほいろばよ、金貨の糞をしろ!(Ari-ari, ciuco mio, butta danari!)」とか、アルゼンチン民話の「こがねの足を持つひよこ」(とられた黄金の足を取り返すために王様の元に行って返り討ちを狙う王様を逆に返り討ちにするヒヨコ)とか、「さるかに合戦」(言わずもがな)、ミャオ族の「ヒヨコの仇討ち(鶏娃報仇)」(ヒヨコが味方を見つけて母親を殺したイタチに猿蟹合戦式の報復をする話)、中国の「ヌングアマ(㺜瓜麻的故事)」(ヌングアマという怪物に食ってやると予告されたので猿蟹合戦式に迎え撃つ話)とか、ブルガリアの「ふしぎな小鳥の心臓」(められて金貨を奪われた兄弟が、食べるとロバになるぶどうと元に戻れるぶどうでお姫様に復讐)とか……多いな。多いよ。


こうした被害者による報復の他、単なる弱者による報復というのもある。

末子成功譚まっしせいこうたんでの多くは弱者による報復のパターン。

他にも「一寸法師いっすんぼうし」のようなちいや、その親に当たるグループの異常誕生とかにも弱者による報復パターンはよくある。グリム童話のKHM108「ハンスはりねずみ(Hans mein Igel)」とか。

ここで言う弱者とは「他者がさげすむまでいかずとも、あなどる、軽んじる者」であり、なおかつ被害者でない=明確に害されてはいない(よくあるお馬鹿とされるだけの末っ子設定とか)。

被害者の前段階とも言えるので、報復の発生するものは、根本的に「弱者によるもの」である場合がほとんどなんだけど、ややこしいので、以降「弱者による報復」は軽んじられ、あなどられるだけの被害者前段階のみとする。


この弱者による報復を考える場合、報復は必ずしも暴力とは限らず、本来の権力構図の反転である場合も多い。

スペインの「にんにくのようなマリア(Marfa como un ajo)」もおやゆび姫みたいな女の子(ちい)が智略で盗賊からお宝を奪う話(奪う⇔奪われるの反転)であるし、予言のところで出したグリム童話のKHM29「三本の金の髪の悪魔(Der Teufel mit den drei goldenen Haaren)」とか、その類話のイギリス民話「魚と指輪(The Fish and the Ring)」(王族・貴族との婚姻を予言された貧者⇔王族・貴族)もこの権力構図の反転である。まあ、グリム童話の方はからめ手な報復してるけど。

スペインの「食べ物にかける塩のように(Como la vianda quiere a la sal)」、イギリスの「藺草いぐさずきん(Cap O'Rushes)」(どっちも父親にどれぐらい愛してるか問われた娘が「塩ぐらい」と答えたために追放されるが、別の貴族や王様に拾われ、結婚式に招待された父親に答えについて思い知らせる話)やグリム童話のKHM52「つぐみひげの王様(König Drosselbart)」、イタリアの「気位の高い王女(La Reginotta Smorfiosa)」(どっちも高慢ちきなお姫様が結婚相手として呼ばれた王様をけなしたせいで、乞食に嫁にやられるけど実は乞食こじきはその王様で「乞食こじきと結婚し、貧しい生活をおくらせる」という罰でお姫様の高慢ちきをいさめた話)は権力の反転……というよりは微妙に実刑ともなう「わからせ」といったところか。

珍しいところだとグリム童話KHM89「がちょう番の女(Die Gänsemagd)」は二重の権威反転(嫁入りの道中で姫をおどして横暴な侍女が姫として、姫が侍女として結婚相手の城にいく(第一の不当な反転)が、最終的に侍女の罪は暴かれ、姫は本来の花嫁の座に戻る(第二の正当な反転))が発生している。


あと、『古事記』の大国主おおくにぬしの神話もここはちょっと噛むかな。

根の国で素戔嗚すさのおの元から奪った生大刀いくたち生弓矢いくゆみやあめ詔琴のりごとというレガリアと、素戔嗚すさのおからの「それで兄弟返り討ちにして、須勢理毘売すせりびめを妻にして、地上を治めやがれコノヤロウ(意訳)」という言質げんちによって、大国主おおくにぬしは兄弟である八十神やそがみたちより強い権力を所持することになったわけで。

さらに、ここで八十神やそがみたちを追討する段の詳細が語られないのは、素戔嗚すさのおからのこの許可とレガリアが強い権力を持っており、それだけで大国主おおくにぬしという存在に十分な説得力が出ているということである。……まあ、語られていても編纂へんさんされていない可能性という方向からは、大国主が出雲の民の祖先神という意味合い的に行くと、武勇の話が入っちゃったり戦好きみたいにしちゃうとそれ根拠に謀反むほんくわだてられる可能性があるからとか、そんな考えも無きにしもあらずな流れだと思うけど、それは我々の認識範囲外の可能性のお話なのでゴミ箱に放置。


さて、では昨今のいわゆる「ざまあ」系はと言うと。

基本、物語が始まった時点で、被害者による報復である。

というか、決定的な被害者になって報復開始するぜな時点がスタート地点の場合が多い。

そこからの展開の中で、もともと弱者として扱われたシーン、軽んじられ、あなどられていた過去の事が出てくる感じはある。

いやあ、なんかもう子孫ってわかりやすい特徴ですね。ハプスブルク家のあごかな?


興味深いのは、民族間・国家間……より小さい単位も含めるなら帰属するコミュニティでの価値観の違いによる報復が発生する(自国では蔑視対象だが大国では敬われる対象だったので……とか、主人公の持つ才能を重視しない価値観を共有するチームから別の価値観を共有するチームに異動することで重宝される……など)ということが見られる点である。本人も仕方ないのつもりでいたのがくつがえされて、というところが見られる場合も多い。

本来場所に縛られ、内輪のものである昔話・民話の報復にはほぼ見られない(内⇔外の二項対立的に、どちらかというとそういうのが差別要素を含む場合のある笑い話となるため)ように思うので、まさしく情報化が進み、交通網の発達と各々の好みという基軸によるコミュニティ細分化が進んだ現代ナイズドによる、外部に触れたことによるカルチャーショックの再現であると同時に、それがポジティブなものであればそれをこそして正当とすべきという現代の風潮に基づく個人的・極小コミュニティ的パラダイムシフトの反映といったところか。うーん、interesting。

特に、普通のファンタジー系ではこれを中心とした「権力構図の反転」(つまりはなりあがり)に報復の基準が置かれているようにも思う。


このジャンルが流行はやる心理としては非常にわかりやすい。

あかん事した人間が炎上するのと基本的な心理は同じ、不正を罰したいという感情。あとは羨望・嫉妬辺りの抑圧辺りも入るかな。

それを置換・転移させて安全にガス抜きするのがこのタイプの物語の真価と言えると思う。単純にそのままではある。

そうして現代の文脈になった時の「ざまあ」の傾向としては先述の通りで、現代ナイズドされているのだけれど、そこをもう少し次で詳しく見ようと思う。

その上で、この辺りはまた後でも触れるので、脳内一次記憶装置メモリに保存されたし。


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