前提2 前提1を踏まえた怪談との結びつき
さて、前提1のとおり、ラカンさんの精神分析は「言語的営み」に重きを置いている。
言語的営みってなんじゃらほい、といえば、話す・書くという発信、読む・聞くという受容、さらには思考という稼動、知識という体系化になる。
そして言語的営みにおける外側に「対象a」を位置させたわけである。
つまるところ、「対象a」とは「我々が言語として表現・認識できない(と思っている)もの」、つまり「わからないもの」になるのである。「(と思っている)」は前提に書いた通りで、「対象a」は基本的に「投影される」もので、真実にそれそのものが存在するとされないからである。
……化物の正体見たり枯尾花(横井也有)、みたいな。
そして「対象a」は「言語として表現・認識できない」と思われるが故に、人を「惹きつける」と同時に「忌避させる」ものであり、究極的に生の言語的営みの外、つまりは死の側のものである。
早い話、私は「幽霊」とか「妖怪」とか「呪い」とか、「怪談」の恐怖の源泉は根本的にこの「対象a」に属すると思うのである。
おまじないや西洋における魔術や錬金術などという行動的にオカルティックな分野は、人間にはできないと思われていること=全能性、意味づけできないもの、すなわち体系・構造外の「対象a」を始めとした混沌を「言語的営み」というシステムにどうにか組み込んで使用するために、独自の理論を用いてシステム内に存在できるようにしていると言えるのである。
ちょっと「ソロモン王の小さな鍵」とか、リアルの
話を元に戻して、言語的営みである「理論」なので、つまるところ、「対象a」を象徴界に体系づける所業である。
混沌=渾沌に目口開ければ、渾沌が死ぬのが道理というのは『荘子』にもある話(
そういう意味では、万葉集巻十六の3838と3839の歌は言語的秩序上にあるくせに混沌としてるので、マジですごい。
※
また話を戻す。
まとめると、オカルトは「対象a」という混沌を、秩序立った「言語的営み」というシステム上で生きる我々の側にどうにか引き込もうとした結果であり、同時に「言語的営み」に組み込まれてしまった段階で、「対象a」としては既に終わっていると考えて良いものである。
それでもなお魅力があるのは、言語的に秩序立てられたそのオカルティックな何かを実行していない、あるいは実行しても客観的に効果が観測できないために期待を失くすことができない=「対象a」の実質(空虚)を掴み損ねていると考えられる。
まあ、掴んだところで、雲散霧消して、別の何かに「対象a」を見出すというイタチごっこはモグラたたきのはずなんだが。
さて、「対象a」は、今現在「自身の思う完全な自分像」から「欠けていると思われる自身の言語的営み外のもの」であり、これを完全に補って「自身の思う完全な自分」になると、どうなるか。
ラカンの言う「生の欲動」が「自身の思う完全な自分となるために欠けていると思われるものに対する欲望の連鎖の継続」であるので、本当に「自身の思う完全な自分」になったら、「生の欲動」なんてなくなるのである。
イコール、死。
というか、そういう「欲望の連鎖の終結を望む」のが「死の欲動」とラカンさんは言っているので、「対象a」に手を伸ばす時、我々は「これがハズレでありますように(生の欲動)」と「これがアタリでありますように(死の欲動)」の二律背反を常に持っている。
そんなこんなで、先述の通り、オカルティックなもの、怪談における恐怖の根源となるもの達は言語的営みに落とし込まれた「対象a」達である。
そして、欲望の連鎖の終結点が投影される「対象a」の本質を掴もうとすること、それ自体は「これがアタリでありますように」という「死の欲動」に突き動かされてのことになる。
そのまま身を
つまるところ、我々が怪談を享受するその根底には「死の欲動」あるんだよ! ……あるんじゃないかな?
以上が、私の見る怪談とラカンの精神分析の繋がりである。
なお、なんでラカンの精神分析かというと、このレポートを出した授業が「ラカンの精神分析学を下敷きに文学作品を読み解く」という授業で、レポートのお題は「自分の好きなものを精神分析の視点(ラカン以外も可)で語れ」だったので……最初は甲田学人作品で語りたーいと思ってたら、恐怖の源泉とは、を考え出し、気がついたら風呂敷がブルーシート並みに広がっていた。何畳敷きかしら、これ。
……先生特定されそうやなあ。あの先生もいろんなとこで授業されてたみたいだけど。
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