狐と狸の話

1 神使の狐と化物の狸

前述の通り、少なくとも中世においては、狐はお稲荷さんやダキニ天を始め、信仰対象となる動物である一方、狸は信仰対象とはならず人を害する化物として認識されていた。


その理由の一つとしては、先述の通り、古来より特定の動物を指していた狐に対し、狸は近代になるまで特定の動物を指していなかったことが挙げられよう。

言葉上では同じ以上、「見る者によって姿が違う化物」として捉えられうるからである。

あるいはこの辺りが「狐七化け狸八化け」と言われる所以ゆえんかもしれない。

……まあ本当は「てん九化け」とか続くらしいが、てんがイタチとほぼ同一と見られてれば狸判定も普通にあり得るのよね。


さて、現在の物語上の狸は、「分福茶釜」の人に財という利をなす狸と「カチカチ山」の人を殺して食わせる残忍な狸という両極端なイメージを持つ。

これは、もともとの狸という語が様々な動物を内包するごった煮概念であったことの影響が大きいと思われる。

一方、伝承においては、最終的には無事に正気に戻す狐に対して、人を死に至らしめる場合もある狸は、時としてむじなと呼ばれながらも、怪異・化物としての狸を脈々と受け継いできた。

狸回りの昔話については中村禎里氏の研究で、代役のきかない狸独自のものと、猿・猫・狐・山姥やまんばによる代役がきくそれぞれのグループに分けられている。

このそれぞれのグループごとにもその役割には残忍さやユーモラスさなど性格の系統が異なる。

同時に、それらのどれにも当てはまる便利なジョーカーのような存在が、様々な動物を内包するごった煮概念であった狸なのである。

山姥やまんばとの互換が可能な話が存在する点からして、怪異・化物としての狸というのは昔話の中にも受け継がれてきたと見える。

それが、現代に至って、狸の指す動物の固定化と流布する物語の種類が絞られた結果、こうして両極端なイメージを持つ狸が出来上がったと考えられる。

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