5 狸という獣のイメージ――説話の狸

難しいんだこれが。


開幕早々の投げっぱの理由は古来からほぼ固定概念だった狐に対して、狸はそもそもの名前と実体の紐づきすら最近確立したものという枠だから。

ちょっとややこしすぎるので以降、「狸」は「狸という字」、「タヌキ」は今現在の「生物学的タヌキ」として書き分ける。


日本の説話集上「狸」が出てくる最初期の例とされる『日本霊異記』においては実はその実体はタヌキでなく、ネコやイタチの類だろうとされる。

『今昔物語集』でも天竺が舞台となる話の中で「狸」という漢字は出てくるが、タヌキの分布を考えればやはりネコかイタチと考えるのが妥当だ。


というのも、「タヌキ」と「狸」はもともと紐付いていたわけではなく、「狸」の本来の字義は「ネコ」を指しているとされているし、日本においてはいろいろな「それっぽい動物」をまとめて狸としていたらしい。

なんて大雑把な。


狸概念の変遷の話はまた後でまとめるので置いとくとして。


説話上、今現在我々の指すタヌキと近しい「狸」として出始めたとされる『宇治拾遺物語』、『古今著聞集』の狸についても実際に我々が言う「狸」だけでなく、ムササビやイノシシまで混ざってるっぽいのである。

というのも『古今著聞集』の水瀬殿のお話の狸は明らかに滑空している。

お前ムササビかモモンガだろ。その内、野衾のぶすまって呼ばれるタイプだわ。

そして「今昔物語集の狸」に記述した通り、『宇治拾遺物語』の狸の話は、『今昔物語集』にほとんど同じ話が収録されている。

ただし、『今昔物語集』での犯人は「野猪くさいなぎ」である。

違う点がほぼそこだけである以上、『今昔物語集』の「野猪くさいなぎ」と『宇治拾遺物語』の「狸」は強い互換性を持つ存在と認識されていたと考えられる。

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