2 説話集における空海 『古事談』の空海

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『古事談』 三 僧行 

十一 守敏・空海祈雨の事


 824年に全国的な干ばつがあったため、天皇は空海に命じて、神泉苑で請雨経じょううきょうの術を行わせようとした。

 すると守敏大徳しゅびんだいとくという者が、「その術は自身も修めており、自分の方が空海よりも長く修行しているのだから、自分にやらせろ」という旨を上申した。

 これを受けて守敏にも請雨経じょううきょうの術を行うよう命が下された。

 守敏が請雨経じょううきょうの術を行って七日すると、京の空は夜のように暗くなり、雷も激しく鳴って勢いよく雨が降り出し、みな喜んだ。

 ところが、京の外を調べさせると、その雨は京の中にしか降っていなかった。

 一方、空海も同じ術を行ったが、七日しても雨が降らなかった。

 空海が瞑想をすると守敏がすべての竜を追い立てて水がめに閉じ込めてしまったことに気がついた。

 空海がさらにより深く瞑想してから、二日ほどして、竜からお告げがあった。

 「池の中に善如元という竜がいる。これは無熱池竜王の類であり、勧請したものである。

  この竜は人をいつくしみ、害さず、真言を尊んで池の中から現れるだろう。それこそこの請雨経じょううきょうの術の成就である」

 そうして現れたのは八寸ほどの紫金色の竜を頭に乗せた九尺ほどの金色の蛇だった。

 これを見ることができたのは空海の弟子の中でも7人の弟子だけで、他の弟子は見ることができなかった。

 この事は天皇に事細かにお知らせした。

 それから天皇の使いの者とお供えをした。

 請雨経の術が成就する日、重い雲が空を覆い、雷が鳴ると四方にすぐに慈雨が降り、地から水が湧き、護摩壇ごまだんの上にまで迫った。

 それから三日ほど全国に雨が降り、全国の者がみな涙し、水の心配をする必要がなくなったため、空海のその力をたたえた。

 これにより、空海は位を賜った。


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『今昔物語集』の呪術争いと雨乞いの二話をちゃんぽんした感じになっている。

ただまあ、修円さんが守敏さんになってるし、守敏さんの方があとから首突っ込んで邪魔してるわけなので、空海さんの株が下がることはない。

むしろ、直にお告げ受けてる辺り、空海さんの超人感が光る、光る。


ちなみに、手持ちの『日本呪術全書』の密教系呪術の項目で上がっている雨乞いの呪術は孔雀明王くじゃくみょうおうのもの、迦楼羅天かるらてんのもの、水天のものと三種上がっている。

加えて余談として、空海さんではなかったけどどこかの説話集の雨乞いの話で孔雀明王くじゃくみょうおうのは見た記憶がある。


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