2 説話における西行 『撰集抄』から
一方で、『撰集抄』屈指の有名エピソードとして、次の寂しいからって人造人間作ろうとして失敗する以下の話が存在する。
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『撰集抄』 巻五 十五
高野山に
高野の奥に住んで、月の出た夜には友人の僧と橋の上に共に行って眺めていたりしたが、この僧が「都ですべきことがある」と言って私を置いて行ってしまった。そんなことがあったのでこの憂き世がすっかり嫌になり、花や月をともに愛でる友人が恋しく思えた。
そこで、鬼が人の骨を集めて人とするという術を信用すべき人から聞いていたので思わず、広野で人の骨を探して人を作ってみたが、人に似た姿をしていたが色も悪く、まったく心がなかった。声も管弦のような音でしかない。まさしく人は心があるからこそ、声を使えるということなのだろう。ただ声を出しているのに、吹き損じた笛のような音しか出なかった。不思議なことである。
「これはどうすべきだろうか。殺すのであればそれは罪となろう。心がないのであればただの草木と同じであるが、人の姿である。やはり殺すのは」と思って、高野山の山奥、人も通らぬところに置いてきた。
もしも、これを人が見たならば、「化け物だ」と恐れるだろう。
しかし、このことが不思議だったので、都に帰った際にこれを教えてくれた徳大寺(
すると師仲は「何をしたのか」と聞いてきたので、
「広野に出て、人の見ないところで死者の骨を集めて、頭から手足の骨まで間違えずに並んで置いた。
それから、ひそうという薬を骨に塗ってイチゴとハコベの葉を揉み合わせから、藤の若いつたを骨に絡めて水で洗った。
頭など髪の毛の生えるべきところには、
風が吹きつけないようにして、27日ほどそのままにしてからそこに行き、沈と香とを焼いて、反魂の秘術を行った」と答えた。
これを聞いた師仲は
「大体は正しい。ただ反魂術を使うには日が浅い。私は
今や出世しているものもいるが、それを明かすと作ったものも作られたものも溶けて消えてしまうので言えない。
そこまで知っているのであれば、教えよう。香を焚いてはいけない。
なぜなら香は魔を退け、聖衆を集める徳を持っているが、聖衆は生死を大きく厭うため、心が生じがたい。
沈と乳とを焚くべきだろう。また、反魂術を使う者も7日間断食せねばならない。
そうして作れば、人とまったく違うところがないだろう」と教えてくれた。
だが、それでも「いいことはない」と思って、その後は作ることはなかった。
また、他にも
「私はすべての死者を統べる者である。主に何もなくなぜその骨を取ったのか」と恨めしい様子で言ったので、
「もしこの日記を見た子孫が人を作ってしまえば、霊に取り殺されてしまうのではないか。いいことはない」として、焼かせてしまった。
これを聞いてもやはりなんの役にも立たぬ術であり、それをよくよく心得ておくべきである。
ただし、呉竹の二子というのは天老という鬼が穎川のほとりで作った賢者という。
※『撰集抄』は西行に仮託(作者を西行として)して書かれたものなので、一人称語り
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長い。私だって打ってる時思った。長い。
それは置いといて、ここに描かれた西行は、前述の崇徳院を鎮めた西行とはまた別の超人的な部分を垣間見せている。
けれども、結局その術は失敗に終わり、西行は超人と
ここで西行が術の内容を確認しに行く先が貴族であることを考えれば、武士と貴族の二項対立において、元武士であった西行は歌人であっても、そういった呪術などのような方面では貴族に劣っていたと考えられたとしても不思議ではない。
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