西行の系譜

1 説話集における西行 『古事談』『西行物語』から

前章の「西行による崇徳院の墓参り」に書いた話をもう一度書きはしないで行く。うん、気になる人は前章読んでね。


崇徳院の墓参りの説話において、「」パターンの西行は、徒人ただびとではなく、怨霊としての崇徳院を鎮めるためのシャーマン的要素を持った存在として描かれている。

和歌は歌である以上、通常話す言葉とは違うものであり、故に通常ではない力も有すると考えられていた節がある。


『古今和歌集』の仮名序においても

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ちからをもいれずしてあめつちをうごかし、めに見えぬおにかみをもあはれとおもはせ、をとこをむなのなかをもやはらげ、たけきものゝふのこゝろをもなぐさむるはうたなり。

 :力を入れずに天地を動かし、目に見えぬ鬼神を感心させ、男女の中を取り持ち、荒々しい者の心を慰めるは歌である

――――――――――――――――――

と記されている。


また、まじない歌という考えもある。

たとえば、火伏せのまじないとして「霜柱しもばしら氷のはりに雪のけた 雨の垂木たるきに露のき草」という歌が存在する。

当初はまじないとして作られたわけではない、百人一首に収録された「立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む」という歌は、各地において行方知れずとなった飼い猫や飼い犬が戻ってくるまじないとされ、同じく百人一首の「ちはやぶる神代もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは」という歌はもつれた糸をほどいたり、血止めをするまじないとする地域がある。

百人一首のみならず、『平家物語』に記載された「いもが子ははふほどにこそなりにけれ ただ盛りとりてやしなひにせよ」という歌も夜泣きを止めるまじないとされたりする。

本来はそうでなかった単なる和歌でも、誰かがそういう解釈をしてそれがしかりとされれば、まじないとして流布する。

西行は歌人として名の知れた存在である。

それは西行が詠んだ歌に、単なる歌以上の意味を見出すための根拠としては十分であるし、まして、西行は出家した身であれば、それが鎮魂の意を持つに足る根拠となる。


では他の話ではどうだろう。


鎌倉中期成立の西行を中心とした説話で構成された『西行物語』は西行の出家から始まり、その妻、娘の出家を経て西行が亡くなるまでを描いたものである。

『西行物語』では、西行が友人の死を受けて出家の意志を固めた、その初手で、裾にとりつく四歳の愛娘を蹴り飛ばすという強烈なエピソードを出してくる。

しかし、それは同時に、それほどまでに出家する、すなわち世捨て人となる西行の決意を表現したエピソードと捉えられる。

他にも途中まで一緒に旅した僧の死を知り、この世の儚さを痛感するなど、『西行物語』での西行は、非常に仏教的な志を強く持ち、同時に意志の強い人物として描かれている。


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