4 そのほかの狐

ざっくりそのほかでの狐の扱いを見て行こう。


まず、三大説話集より時代が前であれば『日本霊異記』巻上の二に、犬に吠えられて本性を知られた後も、夫が通うように言われ通う狐の妻の話がある。

この話の夫婦は美濃国、狐値きつねのあたいの祖とされ、ちょろりと前述した『今昔物語集』巻二十三の十七「尾張の國の女、美濃狐を伏する語」との関わりも考えられる。

その一方、巻中の四十に橘奈良麻呂たちばなのならまろが鷹狩中に見つけた狐の子らを串刺しにして狐の巣穴の入り口に刺したことへの復讐として、母狐が奈良麻呂ならまろの母に化け、奈良麻呂ならまろの子を串刺しにして自身の巣穴の入り口に立てたという話も『日本霊異記』に収録されている。なんか残虐さのスケールがおかしい。

さらに、巻下の二にはある病人についている狐が、病人が前世で自分を殺した恨みに報いるために殺そうとしているのだから調伏するなと述べて、病人を取り殺してしまう話が収録されている。


中世では、『平家物語』、『源平盛衰記』において周の幽王を惑わしたとされる褒姒ほうじも狐として語られる。

また、中世においては『古今著聞集』の福天神にみられるように、狐は咜祇尼天だきにてんとの紐づきがある。

これについては『平家物語』派生である『源平盛衰記げんぺいじょうすいき』で、未だ官位の低い平清盛が蓮野台で射ようとした狐が貴狐天王きこてんのう咜祇尼天だきにてんであると気づき、自身は弁財天の一種である咜祇尼天だきにてんの法を成就すべきだと思うシーンがある。

つまるところ「やせいの 貴狐天王きこてんのう があらわれた!」からの、「咜祇尼天だきにてん信奉すれば、のし上がれるのでは!?」という感じ。


また、安倍晴明伝説の信太の森の葛の葉とか、玉藻御前の伝説とか、異類婚姻譚に出てくるベーシックな動物でもある。

これらの発展系に、近年センター試験古文で話題となった『玉水物語』(お姫様に惚れた狐が女房として仕え、お姫様の輿入れ直前に出奔する)など御伽草子以降の確実に作られた話が位置する。

……狐ってなんでこう女性に化けるのかなあってぐらいに女性にばっか化けている。


近世以降、本草学に基づく各種百科事典にも狐は登場する。

『和漢三才図会』では「妖獣にして鬼の乗する所なり」という記述があり、これは咜祇尼天だきにてんの影響によるものかと思われる。

『本朝食鑑』に「狐が女に化けて人と通ずれば、その人は死ぬ。その人が死ななければ、狐が死ぬ」という記述があるのは『本朝法華験記』を由来とする『古今著聞集』の話、『今昔物語集』の話に通ずる。一応その後に「でも理としての詳細はわからん」と続くが。

『本朝食鑑』上ではこの記述以外に狐にまつわる人の死の記載はなく、狐憑きや狐に化かされること、信仰対象としての狐についての記載が大部分を占めている。


また、全国に狐の話は分布しているが、四国と佐渡では追い出された狐の話が存在する。

これは四国では弘法大師により、「鉄の橋がかかるまで、狐は入るな」と言ったという伝説があり、佐渡ではムジナと化け比べで負けて出て行ったため、狐がいないという。

他にも、対馬、壱岐、五島列島ではもともと狐がおらず、稲荷社もなかったとも。

夜口笛を吹くことや、夜爪を切ることなどの禁忌を破った罰として、狐に化かされるといった伝承や、狐の鳴き声で吉凶を占う法、さらには管狐くだぎつねなど人の使役する超常的な存在としての狐など、狐は人に破滅をもたらすのではなく、人の傍らで暮らす、時として超常的である存在としての伝承や意識が強い。

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